「ヤ」るしかねぇ!お見舞いルート選択中!
いやいや、寝ぼけてるの? これは見間違い。そそっかしさを期待をして文章を読み直す。何度も何度も何度も何度も……。風邪、休み、今日は行けない。三つの単語がどうしても受け入れられず、最後には声に出してまで読むことに。当たり前のことだが、文章内容が変わるわけがない。
「そ、んな……」
腕を脱臼したようにダランとぶら下げては、携帯を絨毯の上へ落とす。
「どうかなさいましたか?」
眉間には溜まっていく汗を早まる鼓動。動揺を隠せるわけもなく、見かねた若林から心配をされてしまう。
「今日……私、学校休む……」
「えっ!? どこか具合でも――」
「なしになったの、カラオケ。風邪で休むって。あの子がいない学校なんて、行っても意味ない。楽しくない。だから私も休む」
「あら、それは残念でしたね。ですが明日はきっと元気に登校してくると思うので、今日一日だけ頑張ってみませんか?」
「嫌よ!!! 行きたくないの!!! 楽しくないのもあるけど、話せる人いないし、逆に全員敵だもの!!」
「あは、は」
そんな私に若林は苦笑いで対応。気軽に話せない人がいないことに突っ込んだり否定しないということは、友達いなさそうと認めているようなものね。ひっど~い。
「とにかく行かないから。他の使用人には適当に話つけといて」
「えーっとですね、体調不良以外での欠席はー……ちょっと、厳しいかと?」
「行きたくないってばあああぁー!!!」
駄々っ子みたく手足をバタバタと動かして鼻ちょうちんを垂らして号泣。ヘドバン並に頭を振ったので髪はぐっちゃぐちゃ。鼻水は高そうなドレスにも数滴付着して不潔さ倍増。見た目はJK、中身はアラサーのすることだろうか。客観的に見たら結構ヤバい奴認定。だけどそれはそれ。
現実世界の年齢は置いといて、登校拒否を意地でも成功させようとベッドに潜り込んでシクシクと嘘泣きを発動。どうよ、これでもうお手上げでしょう? あの子のいない学校に行ったって無意味。生真面目な金持四兄弟は平気で行くんでしょうけれど。
「メソメソ……メソメソ……」
裏声を時々出しながら泣く演技。そんなとき、一気にシーツを剥ぎ取る若林と嘘泣きがバレる私のご対面。うわ、やりすぎたかしら。これには激怒?
「エリカ様。――チャンスですよ」
違った。誇らしげなどや顔を突き出して、鼻息を荒めに話を続けていく。
「風邪ということはですよ、放課後にお見舞いへ行けばいいんです。そうすれば気の利いた子だと思わるだけでじゃなく、おかゆを作って家庭的アピールもできます。ご家族がいれば、挨拶も礼儀正しくすれば好印象間違いなしです!」
「若林。――あなた、天才ね!!! そうよ、お見舞いをすればいいのよ! あーもう、どうしてそんなことも思いつかなかったんだろ!? あなた本当にすごいわね。もしかして過去にそんなテクニックを使って……?」
「ええ、その……実は今、お付き合いしている彼です!」
ポッ、紅色の花が若林の頬全体に咲き誇る。
「キャー、やるぅ! てか聞いてよ。相手のことなんだけど、実は……訳ありの一人暮らしなの」
「なんと……それはもう、ヤるしかないですね」
「ちょっとちょっと、なんで『や』がカタカナなのよ! 若林のエッチスケッチワンタッチー! じゃ、とりあえず学校には行くから、悪いけど最初から髪の毛直してくれる?」
「もちろんです。気合い入れていきましょう」
気合いを入れる。若林の言葉に嘘はなく、今までで一番の出来だった。梅雨の湿気に負けない艶と潤いのある縦ロール。先の最後までパサつきや不揃いをを許さない。まるで一本一本に生命が吹き込められていそうだった。




