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悪役令嬢になったんで推し事としてヒロインを溺愛します。  作者: 273
ルート1 憧れのあの子とお近づきになろう!
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許せない。桃尻、怒りの制裁!

 四人にこの秘密の光景を目撃されることもなく、私は愛理と下駄箱で他愛ない話をしながら立ち止まっていれば、ちょいちょいと右肩を叩かれる。


 早くもバレてしまったかと思い、睨みをきかせた眼光で振り返れば、そこには漫画みたいな大きいぐるぐる眼鏡を装着し、白髪の大きめお団子ヘアをした生活指導部の鬼と呼ばれている佐利番サリ子先生、あだ名はサリバンがいたのだ。


「あら、サリバン先生。ごきげんよう」


 サリバン、いたわね~そんなキャラ。なんで今ここで登場するか謎すぎるけど。サリバンはぐちょメモ内でも重要人物でもなければターニングポイントでもない影の薄い存在だし、得な情報もゲットできるわけもない。ここは軽く挨拶を済ませて切り抜けるとしよう。


 小さくお辞儀をして、素通りしようとしたが右肩にある手が一向にどかない。どかないってよりかは、掴みが強くなっている。もうなんなのっ! 切れ気味に「何か御用でしょうか?」と言えば、サリバンはこめかみにある血管をピクピクと痙攣させては怒りに満ちた口調で言った。


「桃尻さん、貴方そのふざけた制服いつまで着ているんざますの? いい加減正しい制服を着用なさい!」


「は? え? この格好、学校公認じゃないんですか?」


「んまーっ! なにを言っているんざます!? 前から我が学園の生徒としてふさわしくはないと口を酸っぱくして言ってきたざます!」


 へぇ? そうなんだ、意外。桃尻家が学校に圧力かけて好き放題着てるのかと思ってたけど違うんだ。私だって好きでこんな馬鹿みたいな服着てるわけじゃないから、普通の制服着ようと思えば着るけど――なんかサリバン出てきたタイミングがムカつくから無理。


「とにかく、生活指導室へ今すぐ来るざます!」


「嫌です。私はこれから松風愛理さんとデートをするので先を急ぎます。華のセブンティーンはいろいろと忙しいので」


「で……っ!? でぇと!? あーたたち、女性同士ですわよ!? ああっ、なんて破廉恥なっ! お許しください神よ!」


「失礼しやす」


 サリバンは勝手に震えた挙句、一人で泡を吹きだす始末。騒ぎが大きくなる前に逃亡しようと、慌てふためく愛理の腕を引っ張って外に出ようとしたが、下駄箱の前で微動だにせず棒立ちしていた。表情はどこか暗く、元気がない。


「松風さん、どうかしましたの?」


 心配そうに目線を合わそうと話しかければ、拒否反応を示すかのように後ずさり。


「すみません。今日は、桃尻さんの家に行けなくなりました。ちょっと、やり残したことがあって……」


 からの、顔を横へやってギリギリ聞き取れるボリュームでそう伝えると、私の返事も聞かずに、走ってその場から離れていった。取り残された私は倒れているサリバンを後ろに、茫然と白い灰になりかけていた。


「いけると……思ったのに……なんで……急に……」


 スラスラと声に出す余裕もない。単語が途切れ途切れに放出されていくのをボーッと空虚に見つめては、愛理の下駄箱にとある異変を感じた。居酒屋とかにもある扉式の下駄箱。そこのわずかな隙間から、生ゴミに近い異臭が漂う。


「たしか、下駄箱で靴を履き替えるときに愛理は……まさか……っ!」


 嫌な予感がしてすぐさま下駄箱を開けると、今朝履いていた靴はどこにもなく、代わりに生ゴミが散乱。のみならず、赤いペンキのようなもので「貧乏人」や「男好き」といった文字が殴り書きされていたのだ。


「なにこれ――」


 あまりにも酷い行いに五臓六腑が煮えくり返る。腹が立ってはいられず、言葉を失っていれば、近くで小さな意地悪そうな下品な笑い声がクスクスと聞こえてきたかと思えば、今度は馴れ馴れしく私へすり寄ってくる三人のごますり女子たち。


「エリカさぁん、今日はどうしちゃったんですか?」


「見ました? 今の顔、すごい必死になっていましたよ」


「今度はどんなことしますかぁ?」


 言いようのない憤りで神経が張り裂けそうになっていた。一人の襟に掴みかかっては、問いただす。


「おい、愛理の靴をどこに隠した?」


 ナイフでも突き出したかのような強い、下手すりゃ殺意のある口調。取り巻きたちは蒼白になっては唇までもこわばっていく。舌が上手く回らないのか。だからって知ったっちゃない。


「いつまで黙っとんじゃ! さっさと吐け!!」


「お、屋上に……屋上の柵近くですっ」


「そ、分かった。もう今後一生、私と松風愛理に近づかないで。近づいたら桃尻家の力で消す」


 そう腰をぬかす取り巻きたちに冷たく投げかけ、尻目もくれず通り過ぎては、靴が隠されているという屋上へ手を振り回して夢中で駆けていく。


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