僕も
ひだまり童話館「もこもこな話」参加作品です。
気持ち良さそうだなあ。ぼくはテレビの中の羊を眺める。ふわふわ、もこもこ。あんな風になれたら気持ち良さそうだなあ。
僕はあることを思いついた。
「お母さん!」
「なあに、どうしたの史朗」
お母さんは、何事かと僕を見た。
「お母さん、あの羊、可愛いよね!?」
僕はテレビに映っている羊を指差す。
「そうね、もこもこして可愛いわね」
「僕も羊になりたい!」
「史朗ったら、面白いことをいうのね」
「だって、日向ぼっこして気持ちよさそう」
「そうね。でも人は羊にはなれないのよ」
「なりたいよー」
そうだ! いいことを思いついたぞ!
「お母さん!」
「次は何?」
「僕、羊になる!」
「それは無理だって、さっき……」
「なれるんだよ! この前テレビで見た! 行こう!」
僕はお母さんを引っ張って、あるどころへ行った。そこは美容院。
「前にね、テレビで頭か羊の人がいたよ」
僕は前に見たことがあった。
僕も羊になるんだ!
「史朗、それはダメよ」
「なんで?」
「史朗が見た人は珍しいでしょ? 普通子供はそんなことしないのよ」
子供だから。それを理由に、僕は羊になれない。
「なりたい! なりたいよ!」
「どうなってもいいの?」
お母さんは諦めたようだ。
「うん!」
僕はおもいっきり返事をした。
お母さんに連れられて、僕は美容院へ入っていった。
「いらっしゃいませ」
店員さんが迎えてくれた。
「今日はお母さまの……」
「いえ、この子の言う通りにお願いします」
「お子さまのですか?」
「はい」
店員さんは、僕に話しかけた。
「どんな髪型にしたいの?」
「羊にしてください!」
僕は叫んだ。
「羊……?」
店員さんもわかってない。僕は身振り手振りで訴えた。
「よろしいのですか?」
店員さんはお母さんにたずねている。
「好きにさせてください」
お母さんがいいって言った!
ぼくは美容院の椅子に座った。
「なった。なったよ! 僕、羊になった!」
「史朗、それはね『アフロヘア』って言うのよ」
「うん! 羊だよね!」
お母さんはため息をついていたけど、僕も羊の仲間入りだ! 僕はもこもこになった頭で家へ帰った。
そしてテレビをつけた。まだ羊の特集をやっているはず。
僕がテレビのボタンを押すと、羊は羊じゃなくなっていた。
「あら、毛がりね」
お母さんが言った。
「毛がり?」
「そうよ。羊の毛は色々なものになるの。だから毛をかるのよ」
せっかく羊と同じようになったのに!
僕はもこもこした頭を触った。
「また羊ももこもこになるよね……?」
僕は泣くのをこらえてお母さんに聞いた。
「そうね、来年にはもこもこになるわよ」
「来年!? じゃあ、僕ももこもこをやめる。美容院へ連れてって」
「ダメよ。史朗が羊になるって言ったんでしょ?」
お母さんは僕の頭を見て笑っている。
僕も来年まで待てば良かった……。
僕がうなだれると、髪の毛がもこもこと動いた。