星に願いを
午後3時……。
境内から参拝客の姿が消えていた。
それというのも、神主である花村ヒトシが決めたもので2月14日は午後2時には神社への参拝をやめさせた。
理由は去年にさかのぼる。
父が生きていたころ、2月14日はバレンタインデーだからと女性参拝客が押しかけ、チョコレートを山のようの置いていかれる日だった
おかげで2月14日から2週間ほど、チョコレートな日々が続く。
島の人たちに配るのだが、それでも余るほどチョコレートをもらっていた。
そして去年、ヒトシにその番が回ってきた。
美少年のヒトシ、昔からチョコレートはかなりの量をもらっていた。
しかし、神主になったヒトシへのチョコレートの数はその比ではなかった。
芸能人がトラックいっぱいのチョコレートをもらうという話を聞いたことがあったが、それに頷ける量をヒトシも受け取っていた。
山のようなチョコレートを前に途方にくれていたら、彼の想い人アナンが「こんなにいっぱいチョコレートあったら、私のなんて要らないわね」と持っていた可愛らしい包装紙の箱を破り始めた。
どうしていいかわからず、驚いているヒトシの前で、アナンがばりばりとチョコレートを食べ始めた。
どうやら、自分で食べたほうがいいと判断したようだった。
後日、そんなことがあったとは知らないヨウスケが、しっかりとアナンからもらったチョコレートを食べていたと聞き、ヒトシは愕然とした。
そんなこともあり、今年は参拝時間を縮小、しかも『チョコレート等の贈り物は止めください』を大きな立て看板も作った。
おかげでチョコレートの数は大幅に減ったが、それでも賽銭箱などの投げ込む輩もいた。
ヒトシはさすがに捨てるのはまずいという意識が働き、それらのチョコレートを隠し、愛しい女性を待った。
午後4時、ヒトシは境内の掃除を済ませると、神主の服から通常のジーンズとTシャツという格好に着替える。
午後5時、まだ、学校終わってないかと自分に言い訳をしつつ、神社の本殿の縁側に座る。
午後6時、鴉が鳴き始めた。
「………」
ヒトシはジーンズのポケットから電話を取り出す。
「もしもし、今どこにいる?え!?アナンと一緒?」
幼馴染で昔アナンと寝たことがある男、ヨウスケが愛しい女と一緒にいるとわかり、ヒトシは言葉を失う。
来るべき日が来たのか、ヒトシは呼びかける声を無視して電話を切った。
「はああ…」
かすれた声で溜息をつく。
周りを見渡すと、すでに夕暮れが終わりと告げようとしていた。
ヒトシは自分を叱咤すると、境内を駆け抜け、勢いよく、階段を下りる。
森の夜は来るのが早い。
足元を見失いそうになるが、どうにか階段を降りきった。
いつもであればヨウスケに迎えにきてもらっていたが、今日はアナンとデート中だった。
(今日はっていうか、今日からかもな)
ヒトシがそう思いポケットに手を入れ歩き始めたとき、眩しい光が前から浴びせられる。
「ヒトシ!」
「花村くん!」
それは車のライトで、車から見知った影が二つ降りてきた。
「お前、また変な勘違いしただろう?」
「変な勘違い?なにそれ?」
アナンはヨウスケに意味がわからないというような顔を見せる。
「ヒトシくん、ほら、去年たくさんチョコレートもらっていたでしょ?だからさ、ちょっと私は今年は考えたの!うちでお好み焼き、食べない?」
「お、お好み焼き?!」
「こいつ料理できないだろう?この島で鍋って言うのもなんだからって、お好み焼きにしたんだって」
「どう?チョコレートで甘くなった口にちょうどいいと思わない?」
「ぷっつ」
ヒトシは不意に笑いだす。
この世の終わりだと考えていた自分が馬鹿みたいだった。
「なに、笑ってるの?お好み焼きしか作れなくて悪かったわね」
「お好み焼きって料理のうちに入らんだろう。だいたい、粉も市販だろう?」
「うるさいわね!だったら、北守は今日は焼き当番のみ。私と花村くんが食べる係だから」
「お前、それはあり得ないだろう?バレンタインは女が男に何か送るものだろう?」
「北守~それは日本だけなの。海外では男の人が女性に贈り物をするのが普通なの!」
「そうなのか?ヒトシ、アナンがそう言ってるけど。本当か?こいつ、自分が焼くのが嫌でそう言ってるだけじゃないか?」
ヨウスケが同意を求める視線をヒトシに送る。その隣でアナンが同意したらだめだと口を尖らしている。
「さあ、俺は知らないけど」
「ヒトシ!」
「花村くん!」
「二人とも、俺、腹ぺこぺこ。どっちでもいいから早く食べたい」
「そうだな」
「そうね。私もお腹すいちゃった」
3人はそう言い合い、仲良く車に乗り込む。
「ああ、北守。コンビニ寄って。ビール買いたい」
「え?嘘だろ?明日、お前仕事だろう。駄目だ!」
「いいでしょ。だったうちで飲むんだし。花村くんも飲むでしょ?」
「あ、うん」
「げ、ヒトシ、頷くな。こいつが飲んだら最悪だ」
「何よそれ!」
車の中では賑やかな会話が続く。
ヒトシは悪態を付き合う二人から視線をはずし、窓から外を見る。
空には星が輝き始めていた。
『いつまでもこうやって一緒にいられますように』
ヒトシは目を閉じるとそう星に願った。
いないと思いますが、最後まで読んでいただいた方、ありがとうございました!




