二十歳の想い2
翌朝、神社に寝不足の体を引きずっていき、必死に業務をこなす。
営業スマイルと浮かべて、参拝客の対応……
父と同じでヒトシは女性観光客に人気だった。
「花村さん、神主って言っても遊んでもいいんですよね?今夜、私と……」
「ごめん。職業柄そういうことは禁止されてるんだ」
(俺も相当面の皮が厚くなったもんだ)
心の中で舌をぺろりと出して、ヒトシは穏やかな笑顔を浮かべる。
いつもなら女性客はそれで諦めるものだった。
しかし、今日の女性は違った。
「花村さん、友達から聞きました。高校生のころは結構遊んでたみたいじゃないですか。誰にも言いませんから、私と遊んでください」
(あちゃー)
女性の言うとおり、高校生のころヒトシは派手に女性とそういう関係を楽しんでいた。神主になった今、同じ行動をすることもできず、また興味が薄れたので控えていたが、このことを持ちだされるとは予想外だった。
「ねえ。お願いします」
女性に腕を掴まれ、ヒトシは女性をまじまじと見た。
背格好はアナンと同じ、顔も似てるところがあった。
(たまにはいいか。別に清純神主ってわけでもないし)
「いいよ。でも秘密だから」
にこっとヒトシが笑うと女性はきゃーと嬉しそうに悲鳴を上げた。
(これはないぜ)
女性に連れて行かれた場所はカラオケで、なぜかそこには数人の女性がいた。話題の美形神主とデートすると友達にメールを送ったところ、我も我もと来たらしい。
(ま、健全でいいか)
女性と二人きりであれば手を出していたかもしれないとヒトシは思い、久々の賑やかなカラオケを楽しむ。
数時間ほど歌い続け、へとへとになってカラオケから出る。女性たちは島に来た観光客らしく明日帰るので、いそいそと帰り始めた。
しかし、そのうちの一人、最初にヒトシに声をかけたアナンに似た女性、彼女だけがぴたっとヒトシに寄りそって離れなかった。
(この人も、遊びみたいだし。いいかな)
昨日のアナンの様子が忘れられなく、ヒトシは女性の腰に手を回す。
「?!」
ホテルに入ろうとすると、見知った顔を見つける。それがヨウスケだとわかり、ヒトシは走った。
「ヨウスケ!なんでお前!」
隣にいた女性はアナンではなかった。知らない顔だった。
「お前こそ」
ヨウスケは現れたヒトシにぎょっとしたが、ヒトシもまた別の女性を連れているとわかり、睨みつける。
「お前、アナンはどうする気だ?」
「お前、町田はどうする気だ?」
そう聞いた声は同時だった。
ふと2人は笑いだす。
「すまない。やる気がしない。家まで送る」
「ごめん。俺も。宿まで送るよ」
笑いながらそう言う2人の男の様子に女性たちは顔を見合わせる。
―1時間後
2人はそれぞれ女性を送った後、家の近くの浜に来ていた。
申し合わせていたわけではないのだが、なんとかくお互いがここに来ている気がしていた。
「お前、俺の姿見なかったら、やる気だったのか?」
「お前こそ」
そうお互いに言い、ため息を漏らす。
「アナンが知ったら泣くな」
「そうだな」
アナンが誰のことを思って泣くか、わからなかった。
ヨウスケはアナンがヒトシを好きだと考え、ヒトシはその逆を思っていた。
2人は空を見上げる。
星が瞬き、流れ星が見えた。
2人は目を閉じ、願いを想う。
しかし、お互いの願いを知ることはなかった。
「知ってるわよ」
狭い島の中、昨日のことは既にアナンの耳に入っていた。
「でもさあ、遊ぶのはよくないと思うの」
教師らしく、アナンはそう語る。
会合場所は居酒屋だった。
アナンのピッチは早く、すでに2人よりも酒の量は上回り、顔が真っ赤になり、目が座っていた。
「ねえ、2人とも好きな人いるの?誰?」
アナンのことを考え、そのアパートの近くの居酒屋で飲んでいた。泥酔した彼女をヨウスケが背負い、3人はアパートに向かって歩いていた。
「アナンは誰だと思う?」
「うーん。私?」
(酔うと宇宙人気質がでるよな。こいつ)
いつもなら絶対言わないであろう台詞を吐くアナンにヒトシは苦笑する。
「アナンは誰が好きなの?」
(今なら本当のことを言うかもしれない)
ヒトシはどきどきしながら、ヨウスケの背中のアナンに顔を向ける。真っ赤な顔の彼女はうーんと考えた後、にっこりと笑う。
「花村マサシさん」
(?!)
予想外の答えにヒトシは顔をぽかんと開け、ヨウスケはよろめく。
「だって、花村くんの顔に優しい時の北守の性格。パーフェクトでしょ。あーなんで死んじゃったの。神様の馬鹿!」
酔っ払いはとんでもないことをいうとすーすーとヨウスケの背中で寝入り始める。
2人はわざとらしく大きなため息をつくと、顔を見合わせ歩き出す。
なんだかくすぐったいような暖かい想いが2人を包む。
ヒトシは、アナンを背負うヨウスケを見ながら、このまま3人でいつまでも一緒に歩いていけるといいなと思った。




