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花の島の秘密  作者: ありま氷炎
第八章 残されるもの
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決着

「邪魔するな、アムル」

「私はアムルじゃないわ。アナンよ」


 アナンはマサシを睨みつける。


「コピーよ。お前はアムルに守られて悔しくないのか。ハナムラを、私を殺すのではなかったのか?」


 マサシの皮肉な言葉にノゾムはマサシを睨みつけて立ち上がった。


「僕は君のコピーでない。ハナムラなんてくそくらいだ。殺してやる」


 ノゾムは宙に飛び上がるとマサシに向けて光の球を投げ始めた。


「ノゾム!」


 アキオがそう叫んだが、ノゾムは光の球を投げ続ける。


「無駄だな」


 光の球をすべて食らったはずのマサシがまったくダメージを受けていない様子で、白い煙の中から現われた。その顔には余裕に笑みが浮かんでいる。


「所詮コピーはオリジナルに勝てない」

「ノゾム!」


 マサシから放たれた光がノゾムを襲う。


「だめだわ。私の力が届かない!」


 光は炎のようにノゾムの体を包んだ。


「うっつ!」


 ノゾムはうめき声を上げると飛ぶ力を失った。力を失った体は地面に激突する。


「くそっつ」


 ノゾムは体を動かせなかった。落ちた衝撃で体が言うことを聞かず、火を噴いているように全身が熱く、痛かった。


「負けるものか、殺してやる」


 それでもノゾムは歯を食いしばり立ち上がろうとした。


「ノゾム、やめろ!」


 ノゾムに駆け寄ったアキオはその傷ついた体に触れようと手を伸ばした。


「僕に触れるな!アキ兄!あんたは僕を裏切った。あんたなんかに優しくされるぐらいなら死んだほうがましだ!」


 ノゾムは36年前と同じ口調でそう叫んだ。アキオを睨みつけるその目には憎しみと悲しみがこもっていた。


「ノゾム、頼む。もう戦うのはやめてくれ。俺はお前を失いたくない。お前の代わりに俺がマサシの相手をする。お前が俺を憎んでいるは知っている。俺は殺されもいい。だけどお前は生き残れ」


 アキオの真摯の目に見つめられ、ノゾムは顔を強張らせた。

 この計画を立て、ヒトミを使いアキオを仲間に引き入れてから、ずっと距離をとってきた。他人行儀に接してきた。近づけば、昔のことを思い出すのはわかっていた。

 自分達を裏切り、姉を誘拐した男の息子。しかし、小さいころに兄のように慕っていた存在には変わりなかった。


「ふん。アキオが俺の相手か。相手になるわけないだろう。馬鹿な奴らだ。まあ。いい。面倒だから一緒に殺してやる」


 マサシは両手に力を集中し始めた。


「させないわ!」


 アナンはアキオとノゾムを守るようにその前に立った。


 悲しい二人を殺させるわけにはいかなかった。

 メグミさんが大切に思っていた人々を、その愛する息子に殺させるわけにはいかなかった。


「くらえ!」


 マサシが力を放つのと同時にアナンも両手を前に出した。


 お願い、アムル。

 力を貸して!

 これ以上の犠牲を出したくないの。


 アナンから淡い光が放たれ、それは球体を作り、アナン達を包んだ。


「ち、またか。しかたない。直接攻撃か」


 自分の光がアナンに防がれるのをみて、マサシはアナン達に襲い掛かった。

 しかし、その体は宙で止まった。


「な、何?」


 ……させない。

 絶対に!


 

 脳裏にマサシに声が響いた。


「まだ残っていたのか、しぶといな」

 

 マサシ、ハナムラは舌打ちすると目を閉じ、マサシの意識を消そうと試みた。

 しかし、できなかった。


「……アキオさん!」

 

 ふいにそう呼ばれてアキオは上空を見上げた。

 眉間に皺を寄せ、苦しそうな表情のマサシがアキオを見ていた。


「アキオさん、やっぱり私にハナムラを抑えることができませんでした。このままでは私が皆さんを殺してしまいます。お願いです。私が体を抑えてる間に、銃で私を撃ってください」

「な、何!?」

「花村さん!カランに、カランに頼んでハナムラを押さえてもらえれば」


 アナンは泣きそうになりながらそう言う。


「町田先生。それじゃあ、時間がかかりすぎます。アキオさん、あなたならできるはずです。お願いします」


 マサシの顔が苦痛でゆがむ。ハナムラの意識が再びマサシの意識を凌駕しようとしていた。


「……アキオさん!」

「分かった……」


 アキオは懐から銃を取り出し、マサシへ銃口を向ける。


「アキオさん!」

「南守さん!」


 ヨウスケとアナンが同時に声を上げる。ノゾムは全身に負った傷のせいか、朦朧とした視線をマサシに投げかけていた。


「お願いします」


 マサシが微笑んだ気がした。アキオは安全装置を解除すると、引き金を引いた。

 銃声が響き、マサシの体が力を失う。その体はゆっくりと地面に落下した。


「花村さん!」

「マサシさん!」


 ヨウスケとアナンは落下したマサシに駆け寄り、ヨウスケがその体を抱き起こす。


「畜生、マサシの奴」


 ハナムラの最後の呟きが聞こえ、マサシの表情が和らいだ。


「ヨウスケくん、町田先生……」


 マサシは二人の顔を見ると微笑んだ。


「ヒトシを、ヒトシをお願いします。大人ぶってますが、まだまだ子供です。どうかお願いします」

「言われなくてわかってます。俺がしっかり面倒みます」


 ヨウスケはマサシの胸から流れでる血を止めようと手で押さえながら頷く。その隣のアナンは泣きながらマサシを見ている。


「町田先生。ヒトシからハナムラの遺伝子を抜いてください。そして幸せになるように伝えてください。私もカオルさんもずっと側にいると……」

「花村さん、わ、かりました。だからもう話さないで」

 

 アナンは涙で言葉を詰まらせながら、その手を力強く握り締めた。


「マサシ……」


 アキオがノゾムを抱え、その側に立った。腕の中のノゾムはじっとマサシを見ている。


「青井さん、花村家を許してくださいとは言いません。だけど、ヒトシを、ヒトシだけは恨まないでください。彼も犠牲者のひとりです。あなたの恨みはすべて私に……」


 マサシの言葉にノゾムは何も答えなかった。


「青井さん、お願いです。どうかヒトシだけは……」


「わかってる。わかってるさ。マサシ。安心しろ」


 マサシの言葉を遮って、アキオはノゾムの代わりにそう答えた。腕の中のノゾムは肯定とも否定とも受け取れない表情をしていた。しかし憎しみのこもった表情は消えていた。


「……ありがとうございます。これで、私は…‥安心してカオルさんの元へいけます」

 

 それがマサシの最後の言葉だった。

 眠るように目を閉じ、苦しんだ様子はなかった。

 顔には美しい、穏やかな笑顔を浮かんでいた。


「派手にやったな!」

 

 そんな声が聞こえた。現われたのは中山だった。しかし中山はヨウスケの腕の中で眠るマサシをみて息を呑んだ。


 いつの間にか雨が止んでいた。

 空に立ちこめていた黒い雲は消え、天から差し込む光はまるでマサシを迎えに来たかごとく、穏やかで淡い光を放っていた。


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