アナンの力
雨が小降りになっていた。
アキオは目を凝らして二人の戦いを見ている。
ノゾムのほうが明らかに押されているのがわかっているのに、マサシは決定打を打たなかった。それはまるで猫がねずみを弄んでいるような印象を与えた。
おかしい……
なぜだ?
「そろそろ終わりにしようか」
それはマサシの言葉だった。
アキオはぎょっとしてマサシの顔を見た。
マサシは皮肉な笑みを浮かべ、胸の前で腕を組み宙に浮かんでいた。
「ハナムラにのっとられたのか……。そのほうが殺しがいがあるけど」
マサシに対峙するノゾムは言葉とは裏腹に肩を大きく揺らし、荒い呼吸をしていた。そして地面にゆっくりと降り立った。ハナムラの力を得たとは言え、その力、体力には限界はあるようだった。
「マサシ!聞こえるか。ハナムラを抑えるんだ。さもないとノゾムが殺される!」
「アキオ、遅かったな。すでにマサシは私の意識の底に沈んでいる。時期に消えるだろう。そもそも地球人ごときに私が抑えられるわけないのだ。あのロボットがせっかく私を抑えたのに、自ら破るなんで馬鹿な男だ」
「くっつ」
アキオは悔しそうに顔を歪めた。ハナムラになったマサシはノゾムより手に負えないものだった。
「さて、コピー。お前と遊ぶのもそろそろ飽きた。死んでもらおうか」
マサシは両手を腕の前で組み、手の平に力を集中した。
「アキオも一緒に死ぬがいい」
マサシはそう言うと力を放った。
衝撃音がし、光が拡散した。
煙の中から現われたのはアナンだった。
「初めてだったけど、どうにか出来た……」
アナンはほっと息を吐くと、前に突き出した両手を下ろした。するとアナン、アキオ、ノゾム、ヨウスケを囲っていた光の球体が消えた。
「アムルか。小賢しいな」
マサシはアナンを睨みつけるとそうつぶやいた。
「カラン、本当にここでいいのか?」
カランとヒトシは神社の地下の宇宙船に戻ってきていた。システムを改造するにはフロワンの工具が必要とカランが主張したため、宇宙船の扉を開けられるヒトシがカランに着いて来ていた。
ヒトシはあの場から離れることが不安だった。自分が戻ったら何か嫌なことが起きている予感がした。しかし、遺伝子注入システムを早急に改造することが優先の今、カランについてここに来るしか道はなかった。
「小さいハナムラ。この扉を開けてください」
カランに請われ、ヒトシは壁の薔薇に似た紋章に手をかざした。音がして扉がゆっくりと開く。
「なんなんだ。いったい!」
アキオに呼び出され、田中刑事と山下町の警察署に向かっていた中山は島にとって返した。
桟橋近くで破損した車とその近くで気を失っているタカノリを見て、声が上げた。桟橋には雨が降る中、人々が集まり山手を見つめていた。
中山は同じようにそちらを見ると、人が宙に浮き、光の球を投げ合ってるのが見えた。それはあまりにも現実離れした光景で見ている人々も野次馬根性で見ているのがわかった。
あいつら、こんなところで!
ハナムラの力の存在を知っている中山はタカノリの側に座り込み、大きな外傷がないのを確認すると口を開けた。
「刑事さん、いやあ。忘れてました。今日はなんかテレビ局が映画の撮影に来てるらしいですよねぇ。東守さんはそれに巻き込まれたみたいで……。すみませんが、東守さんを見ててもらってもいいですか。大きな怪我はしてないみたいなので大丈夫です」
中山はそう田中にまくし立てると山に向かって走りだした。
「ちょっと、中山さん!」
「すみません。お願いします。あと島の人を山に近づけないでくださいね!危ないですから」
戸惑う田中に中山は振り向いたが、また走り出した。
田中はため息をついたが、中山の言うとおりにすることにした。おかしなことがこの島で起きているの感じていた。中山は真相を話そうとしなかったが、現実ではありえない不思議なことがこの島で置きているようだった。
田中はそのことに刑事としてはなく、一人の人間として興味があった。
「すみません、ここから上には行かないでください」
田中は島の人々にそう声がかけながらそんなことを思っていた。




