アムルのコピーであるヒトミ
アキオはヨウスケとタカノリを車から出し、木の陰に運んだ。
あれだけ車が跳んだにも関わらず、二人は意識を失っていたが軽傷だった。
アキオは電話を取り出すと中山に電話した。見たところ、大きな傷もなかったし、救急車を呼ぶことに抵抗があった。
中山は40分後に到着すると言って、電話を切った。
「うっ」
声がして、ヨウスケが目を開けた。掛けていた眼鏡のガラスはひびは入り、額からは血が出ていた。
「大丈夫か?」
「はい、なんとか」
ヨウスケはアキオにそう答え、痛みで顔をしかめながらハンカチで額の傷を拭い、壊れた眼鏡を投げ捨てた。そして目を細めアキオを見つめた。
「アキオさん、遺伝子注入システムはどこにありますか?」
「俺の車の中だが……」
アキオは突然のヨウスケの問いに訝しく思いながらも、そう答えた。意図がわからなかった。
「青井さんは多分、遺伝子注入システムを使ったハナムラになったはずです。だから今度はシステムを使って、逆にハナムラの遺伝子を抜けば元に戻るはずです」
「そういうことか……だが、確かシステムは注入だけで、除去はできなかったはずだ。カランというロボットに改造してもらう必要があるぞ」
「わかっています。カランは町田、アムルのそばにいるはずです」
ヨウスケはアキオにそう答え、マサシ達が闘っている方向に顔を向けた。
「カランはすぐ見つかるはずです。まずは遺伝子注入システムを取りに行きましょう。急がなければ、誰かが殺されるかもしれない」
ヨウスケはアキオの車に向かって駆け出し、彼もその後を追いかけた。
『誰かが殺されるかもしれない』
その言葉がアキオに重くのしかかっていた。
「ヒトミ……」
目の前に立つヒトミの存在がノゾムには幻のように感じられた。
「ノゾム。私があなたを守るわ。死なせはしない」
マサシは上空からノゾムたちの様子を見ていた。
ひどい頭痛がした。
ハナムラが脳裏でささやく声が聞こえた。
ハナムラに支配されるわけにはいかなかった。
ヒトシを、町田先生を守る。
二度と歴史は繰り返させない!
マサシは力を手にためるとノゾムに向かって放った。
「効かないわ!」
ヒトミは手を広げるとマサシの光を受け止めた。光はヒトミの両手で消滅する。
「コピーの癖にやるわね」
アムルは少し悔しそうに顔を歪めた。
「カラン!このコピーをどうにかしてよ。じゃないと決着がつかないわ」
カランはアムルの言葉にうなずくとヒトミに向かって飛ぶ。その鳩尾に拳を入れ気絶させた。
「カラン、上出来よ。これで邪魔ものはいないわ」
アムルは自分のところに戻ってきたカランに嬉しそうな笑顔を見せる。
ヒトシはアムルの様子に違和感を覚えていた。マサシとノゾムの戦いをまるでゲームか何かのように思っているようだった。
ヒトシはアムルの横顔にアナンの面影を探した。少し戸惑った笑顔、怒った顔などが思い出せたが、今のアムルの中にはなかった。
ノゾムは自分の足元に気を失って眠るヒトミに目を向けた。
1-2時間くらいしたら気がつくだろう。
今は眠っているほうがいいかもしれない。
ノゾムはそう思った自分を不可解に思いながらも、視線をヒトミからマサシに移す。
「さて、僕と君だけの戦いを始めようか」




