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花の島の秘密  作者: ありま氷炎
第八章 残されるもの
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違和感

 きっと私は必要ないわね。


 アムルの中のアナンは暖かい光に包まれ、ぼんやりと外の様子を見ていた。

 アムルが見ること、聞くこと、すべてをアナンは感じることができた。


 でも外に出たいと思わなかった。

 このまま柔らかい、暖かい光の中で眠っていたかった。


 色々なことがありすぎた。


 両親を失ってからむしゃらに生きてきた。

 でももう疲れた……


 このまま、アムルに体を預けて、消えてしまいたかった。


 母さん、父さん、

 私達が人と違うということを知っていたの?

 なんで教えてくれなかったの?


 答えるものはいなかった。

 ただ、アナンを守るように暖かい光がその体を包んだ。




 黒い海の上を旅客フェリーは花の島に向かって走っていた。雨が甲板に打ち付け、いつもなら数人の乗客が海の風に当たるためにいるのだが、今日は姿が見えなかった。乗客は客室でおのおの椅子に座り、テレビを見たり、談笑していた。


 マサシ、アキオ、タカノリ、ヨウスケの4人は椅子に座り苦い顔を突き合わせていた。女性客の数人が女性のような美しさを持つマサシや凛とした美青年のヨウスケを興味深そうにみていたが、4人の雰囲気に圧倒され、話しかけるものはいなかった。


「青井はヒトミに、何かしらしたんだろう?でもなんで本人が倒れてるんだ?」


 タカノリがそう言うとアキオは視線をタカノリに向けた。


「青井さんのことはわかりませんが、私は多分、野中さんはアムルにされてしまったのではと思います。遺伝子注入システムが床に落ちてましたし、ハナムラの赤子を作りたい青井さんであれば、アムルを作り、体外受精させ、ハナムラを産ませることが考えられます」


 マサシの言葉にタカノリとヨウスケは眉をひそめ、アキオは表情を崩さなかった。


「マサシ、お前はすでにヒトミがハナムラを身ごもっていると考えてるのか?」

「……多分」


 マサシはタカノリの問いにそう答え、外に視線を向けた。

 真っ暗な空が光を遮り、美しい海の色を鈍い色に変えていた。雨がフェリーを打ち壊すような勢いで振り注いでいる。雨は激しさをまし、それまで談笑していた乗客達も少し心配そうに外を見ていた。




「げ、雨かよ」


 通路を通って、地上に出ようとしたら、天井に空いた丸い穴から雨が注いでいた。

 ヒトシは嫌なそうな顔をしたが、このまま地下にいる気もなく、お腹も空いていたので穴から這い上がって地上に出た。そして本殿に向かって駆け込む。アムルとカランもそれに倣うように本殿の縁側に走ってきた。


「あー濡れちまった」


 雨に濡れ、びしょびしょになった服を人差し指でつまんでヒトシはそう言った。水滴が髪から額に垂れ、頬を通って首筋を濡らし、気持ち悪かった。

 アムルとカランを見ると二人も雨に打たれて濡れていた。アムルの銀色の髪が水滴を含み、綺麗な輝きを放っていた。

 そしてピンクに染まった頬をみて、ヒトシはアムルに囚われるのがわかった。

 しかしアムルはそんなヒトシをからかうわけでもなく、雨を振り落とす空を仰いでいた。


「何、見てるんだ?」


 アムルは答えなかった。しかし、それから間もなくしてヒトシも、アムルが何を感じているかわかった。


「なんだ、これ……」


 父親のマサシの気を桟橋近くで感じた。そしてもう一つハナムラの気配、それからマサシの近くでアムルに似た気配がした。

 花村はこの地球に二人しか存在せず、アムルは町田アナンただ一人のはずだった。


「嫌な予感がするわ。カラン行きましょう。あんたも来るでしょ?」

「もちろん」


 ヒトシが頷くと、カランがアムルの手を握り、ヒトシの首根っこを掴んだ。


「俺は猫じゃない!」


 ヒトシの抗議にカランはにこりと顔を浮かべた後、一気に宙に向かって飛んだ。


「うわ!」


 後ろの襟首を引っ張られているだけの状態なので、ヒトシはバランスを崩しそうになる。


「しょうがないわね。ヒトシ、カランの腕を掴みなさいよ。本当、力の使えないハナムラは役に立たないわね」

「なんだと?!」


 アムルに馬鹿にされ、ヒトシは自分で跳ぼうと試みた。

 しかし、父マサシの顔を思い出し、素直にカランの腕を掴んだ。


 力を使えば、それだけ寿命が減る。


 自分達一族、アムルのため、いろいろな人が犠牲になった。

 死ぬのは簡単だった。

 しかしこのまま何もせず、死ぬことは許されないと思った。


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