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花の島の秘密  作者: ありま氷炎
第七章 解き明かされる過去
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逃げる西守

 マユミはあれから30分くらいすると元の状態に戻った。

 そしていつもの通り発作が起きた時の記憶は消えていた。

 アキオは義弟のヨシタカにマユミを任せると野中家を出た。


 中山から聞いたことが胸に引っ掛かっていた。

 あの時、大野は青井……ノゾムと駐車場に消えた。

 大野を殺害したのはノゾムと考えてほぼ間違いなかった。


 36年前の無邪気なノゾムの笑顔は今でも思い出せた。


 父が、守家がメグミを誘拐したためにノゾムの人生は狂ってしまった。


 自分のせいで……。

 父を止められず、メグミを救うことができなかった。

 日記を読み、彼女が幸せだったのがわかった。


 しかしノゾム達家族にとっては地獄だったに違いない。

 ヒトミからこの36年、ノゾムがどう生きてきたのか聞いた。


 恨んでも恨み切れないだろう。


 取り返しはつかない。

 しかしメグミの最後の願いは叶えてやりたかった。

 マサシとヒトシ、メグミの子供、孫は救ってやりたかった。


 アキオがそんなことを思い運転していると猛スピードで車が通りすぎるのがわかった。それは西守の車だった。

 車の中には西守タダオ、その息子タダキ、妻ノリコが乗っており、アキオは違和感を覚え一旦車を止める。一瞬考え、車をUターンさせ西守の車を追った。


 西守……。

 奴はまだ、ノゾムとまだつながっているかもしれない。

 奴には警察にコネがある。

 刑事がこの島に来たことくらいわかるだろう。

 ノゾムが殺人を犯したということで焦って逃げているかもしれない。




 桟橋近くの喫茶店『かりんとう』の入り口の扉を開けると、窓の側で黒いスーツを着た男がこちらを見た。年頃は30歳後半だろうか、刑事らしくない温和な顔をしていた。


「中山ノボルさんですか?」


 中山が男に近づくと男はそう尋ねた。


「はい。あなたが刑事さんですね」

「田中です。来てくれてありがとうございます。さ、座ってください」


 田中は笑顔を浮かべると椅子に座り、中山に椅子を勧めた。



 時間がかかってる……


 ヒトシが家を出て1時間が経とうとしていた。

 マサシは心配になりエプロンを脱ぐと家の外に出た。

 力が使えないことがもどかしかった。

 カランが施した作業を解くことはできた。

 しかしハナムラに意識を乗っ取られないようにするのは至難の技でマサシは最後までその手段を取っておきたかった。


 キキッー!!

 ふいにブレーキ音が聞こえ、金属がひしゃげる音がした。

 マサシはヒトシのことを思い、現場に駆けつけると堤防に突っ込みフロント部分が曲がった車が見えた。

 車には見覚えがあった。そして乗っていたのは西守一家だった。

 マサシは反射的に車に近づくと運転席から西守タダオを助け出した。音で集まった島民たちもマサシの行動を見て、おのおのに助手席から息子のタダキ、後部座席からノリコを助け出した。


「ま、マサシ……」


 運転席からタダオを担ぎ、道路沿いの歩道にマサシは降ろした。タダオは自分を助けてくれたマサシを茫然と見ていた。


「血が出ていますね。誰か、救急車を呼んでくれませんか?」


 マサシがそう声をかけると、西守一家の周りにいた島民の1人が声をあげ、救急車を呼んでくれた。


「警察も呼んだ方がいいよな」


 別の島民がそう言って電話をかけ始めた。

 マサシはほっとして歩道にしゃがみこみ、力なく座りこむタダキとノリコに声をかけた。


「このまま待っていてください。タダキさんとノリコさんは大丈夫ですか?」


 タダオはマサシの言葉に座り込んだまま、茫然とその顔を見つめるだけだった。そして他の二人は声もなくその問いに頷いた。


「西守……!マサシ……!

 息を切らしてアキオが姿を現した。タダキはアキオを見るとおびえた表情を浮かべ、うなだれた。アキオはその様子から自分の予想が当たっていることがわかった。


「マサシ……こいつらは、タダキはノゾムの居場所を知っているはずだ」


 アキオは周りのものに聞こえないように、だが西守タダキに聞こえるようにマサシをそう言った。


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