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花の島の秘密  作者: ありま氷炎
第七章 解き明かされる過去
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殺害された大野

「義兄さん、マユミに余計なことは言わないでくださいね」


 突然来訪した義兄の南守アキオにそう言うと、野中ヨシタカはアキオとマユミを居間に残し、自分の書斎に籠った。


「兄さん、ごめんね。うちの人、私がまたおかしくならないか心配なのよ」


 マユミはアキオに椅子を勧めながら微笑む。


「兄さんはお茶でいいわよね」

「マユミ」


 台所へ行こうとするマユミをアキオは呼びとめた。


「お茶は後でいい。お前に聞きたいことがあるんだ。まずはここに座れ」


 アキオの厳しい口調と強張った表情にマユミは疑問を持ちながら言われた通りにアキオの真向かいの椅子に腰を降ろした。



「母さん」


 集中治療室の小さな窓から中を覗き込むようにしているマコにヨウスケは呼び掛けた。そして母の側に立ち、同じように窓から中を覗き込む。

 たくさんの管が父シュンイチにつながれている様子が見え、普段では考えられないくらい衰弱しているのが見てとれた。


「母さん、父さんなら大丈夫だ」


 ヨウスケは安心させるためにマコの肩を抱くが、母は何も答えず、ただ食い入るようにシュンイチの姿に目を向けている。


「ヨウスケ」


 ふいに名前を呼ばれ振り向くと、伯父の東守タカノリが白い廊下に佇んでいた。


「タカノリ伯父さん?」

「ヨウスケ、青井達のいる場所がわかった。どうする?お前も行くか?」


 タカノリの問いにヨウスケが躊躇しているとマコが口を開いた。


「ヨウスケ。私とシュンイチさんのことは心配ないわ。兄さんと一緒に行って。そして青井さん、ノゾムくんから遺伝子注入システムを返してもらって、島の歴史を、守家の役目を終わらせて」


 マコは涙を浮かべながらヨウスケに託す。


「わかった。母さん、行ってくるよ、父さんのことよろしく」


 ヨウスケはマコをぎゅっと抱きしめるとタカノリの元へ走った。



「大野?」


 神社にいてもしょうがないと自宅に戻った中山はテレビをつけ、あるニュースにくぎ付けになった。それは殺人事件で拳銃によって頭を撃たれ殺害された思われる遺体が山下町で見つかったというものだった。遺体の所持品から免許証が見つかり、遺体が大野タロウであることが報道されていた。

 山下町はマコが監禁されていた場所だった。そして大野と言う名前は聞き覚えがあった。

 カランが作ったアムルーー銀の髪で亡くなる少女の記事を書いた記者の名字が確か大野だった。


「偶然にしてはおかしいな」


 中山が畳の上に座り、眼鏡をかけ直し、テレビを見つめると電話が鳴るのがわかった。面倒くさそうに立ちあがり、電話を本棚の上に置いてある籠の中から取りだす。電話の画面に表示された番号は知らないものだった。中山は訝しながらも電話に出る。


「もしもし。私は山下町の刑事で田中と言います。あなたは中山ノボルさんですか?」


 電話口から感情を伴わない声が聞こえた。中山はぎくりとするのがわかったが、目を閉じて気持ちを落ちつけると口を開く。


「はい、そうですが。どういうご用件ですか?」

「二日前に殺害された大野タロウさんのことでお聞きしたことがあります。恐れ入りますがどこかでお会いすることは可能ですか?」


 それは厳しい言い方ではなかったが断れるような様子ではなかった。


 警察所で尋問されるよりはましか……。


 中山は田中に聞こえないように息を吐いた。


「いいですよ。場所はどこがいいですか?」

「今、花の島に来ています。『かりんとう』という喫茶店に来ることは可能ですか?」


 島まで来ているのか。

 中山は冷や汗が出るのがわかった。自分の電話番号と名前が出版社に残したメッセージから割れたのは想像できた。しかし、島まで来るとは思いもしなかった。


 これは大野のことだけじゃないかもしれないぜ。


 しかし断れないのは確かだった。


「わかりました。今から30分後くらいに『かりんとう』に行きます」


 中山は電話を切るとすぐに南守アキオに電話をかけた。

 マサシを拉致した件で、アキオの顔は警察になんらかの手配がされている可能性があった。島で拘束されると面倒なことになるかもしれない。


 南守さんはとりあえず今は味方だからな。


「もしもし」


 アキオが電話に出たのを確認すると中山は記者の大野が殺されたこと、そして刑事が花の島に来ていることを話した。



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