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花の島の秘密  作者: ありま氷炎
第六章 作り出される運命
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アムル

「中山さん、あのカランという奴、信じられるんですか?」


 カランがマサシに松果体を押さえる作業を施するために、奥の部屋に籠っている間、ヨウスケ達は外の部屋で待たされていた。


「大丈夫だろう。カオルに何かしたのは許せないが、それは。単にカムルだっけ?その命令に従っただけだ。今は町田アナンの味方のようだから、俺達に危害が加えないだろう」

「ふうん、随分甘い考えね」


 二人に相対して壁際の椅子に座っていたヒトミが嫌味な笑みを浮かべそう口を挟んだ。しかし中山もヨウスケもヒトミを一瞥しただけで何も言わなかった。

 その反応にヒトミは舌打ちすると俯く。一刻も早くこの場所を脱出して、ノゾムにこのことを伝えたかった。しかし、アキオが自分の味方じゃない今、それを実行することが難しいことは明らかだった。


「時間がかかるな」


 30分ほど経過してヨウスケは少しいらだった様子でそう言う。


「まだ30分しかたってないぜ。大丈夫だ」


 中山は安心させるようにヨウスケに笑いかけると椅子から立ち上り、壁に飾ってる不思議な形の機械を見渡し始めた。材料は金属のようではなく、おもちゃのような色使いの機械が壁に飾ってあった。中山は全体を見渡して、ふと一台の機械に目が止まった。それはアニメでよく見る大きめの鉄砲のようであった。中山がそれを詳しく見ようと近づくと、スライドドアを開けカランが出てきた。


「終わったよ。目覚めても、もう力は使えない。その代わり地球人の意識は保てるはずだよ」


 スライドドアを閉めるとカランはそう言う。


 地球人の意識、マサシさんの元の意識のことか。


 ヨウスケはカランの言葉をそう解釈するとマサシの様子と、中で休んでるはずのヒトシとアナンの様子を確認するため、カランの側を抜け急ぎ足で部屋に入った。中山はヨウスケの後を追わず、その鉄砲のような機械の前に立ちカランを見つめた。


「カラン、これが遺伝子注入システムか?」

「そうだよ。よくわかったね」


 カランは意外そうに目を細めるとそう答え、中山の側に近づいた。ヒトミは「遺伝子注入」と言う言葉につられ、椅子から立ち上がり、二人の側に寄った。アキオは壁に寄りかかり、視線だけを向ける。


「どうやって使うんだ」

「この先を注入させたい人に当てて、このボタンを押すだけだよ」


 カランはその機械、開いた傘のような先を持ち大型の水鉄砲のようなものを壁から降ろすと、それを持ちながら説明した。


「まるでおもちゃのようね」


 ヒトミはカランが持つ機械『遺伝子注入システム』を見つめながらつぶやいた。中山は『遺伝子注入システム』をじっと見つめた後、カランに視線を向けた。


「これは遺伝子注入だよな。この中にアムルだっけ?その遺伝子情報を入力して発射するんだよな」


 中山は『遺伝子注入システム』をカムルからを受け取るとそう言った。


「そうだよ」

「じゃあ、その逆はできないのか?たとえばハナムラの遺伝子をマサシやヒトシから抜くことはできないのか?」


 中山の問いにカランは黙り込んだ。そんなこと考えたこともなかった。しかし論理的に可能だった。


「できないことはないと思う」


 カランがそう答えると中山は笑みを浮かべた。


「じゃあ、やってくれないか」

「アナンが僕にそう言うならば僕はしてもいい。」

「なに?!さっきはマサシにしてくれたじゃないか。これも一緒に」

「ハナムラの強い意識はアナンにとって危険だ。だから僕は大きいハナムラに作業を施した。遺伝子排除の問題は別だ」


 中山はカランを睨みつけた。マサシとヒトシ、二人の命が消えかかっている今、遺伝子排除できるのであれば生きながらえる可能性があった。いつ目覚めるかわからないアナンを待つのは時間の無駄に思えた。



「ヨウスケと中山の車だ」


 シュンイチは2台の車の側に車を停め、助手席のマコの肩に触れようとした。するとマコはシュンイチの手を避けるように車から降る。シュンイチは小さく息を吐くと、グローブボックスから懐中電灯を取りだし、外に出た。

 タカノリがマコの側に立ち、山を見上げていた。山道には折られた木の枝がたくさん落ちており、地面から微かな光が放たれている。シュンイチが懐中電灯でその部分を照らすと地面に穴が開いており、地下からの光が外に漏れている様子がわかった。




「アナン、アナンったら」


 可愛らしい声が自分を呼ぶのがわかった。目を開くとそこには自分にそっくりな、しかし銀色の髪を持つ女性がいた。


「あなた、誰?」

「あたし?あたしはアムル。あんたの遠い祖先よ。やっとハナムラに会えたわ。ずっと待っていたの」


 アムルは微笑む。

自分と同じ顔なのに、その笑顔は魅力的だった。銀色の髪が神秘的に輝いている。


「ね、アナン。疲れたでしょ?後は私に任せてゆっくり休んで。大丈夫。悪いようにはしないから」


 アムルは優しく囁くようにアナンにそう言った。その声でアナンは眠くなるのがわかった。ここ数週間ずっと緊張していた。何度も人にさらわれ、あげくに先祖が異星人と言われ、ロボットまで見た。

悪い夢だと思いたかった。


「アナン、疲れたでしょ?休みなさい。ね?」


 アムルの声はまるで母の子守唄のようにアナンを睡眠へ誘導した。

 だめ、だめよ。

 頭の中で冷静な自分がそう言っているのがわかった。

 でもアナンは疲れていた。

 そして意識を手放した。


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