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花の島の秘密  作者: ありま氷炎
第六章 作り出される運命
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日記を隠したのは……。

「ねぇ。兄さん。答えてほしいことがあるの」


 田の山に向かって走る車の中で、北守マコは後部座席に座る東守タカノリを見つめながらそう口にした。


「なんだ?」


 妹のマコに見つめられ、タカノリは眉をひそめる。


「これを見て」


 マコは抱えていた鞄から青井メグミの日記を取り出し、タカノリに渡した。


「なんだ?青井メグミ?」


 ノートの表紙に書かれた名前をみてタカノリは顔を強張らせた。


「兄さん、このノート知ってるでしょ?」


 マコの珍しく攻めるような視線にタカノリは戸惑う。実際こんなノートを見たのは初めてだった。


「知ってるって。どういう意味だ?俺は初めてこのノートを見るぞ」

「兄さん!とぼけないでよ。この日記をタケシの目に触れないようにしたのは兄さんでしょ!だからタケシは死んでしまった!」

「おい、マコ。何、言ってるんだよ。俺は本当に」


 はらはらと突然泣き始めたマコにタカノリはたじろぐしかない。


「兄さん!」

「マコ、東守は本当に知らない。そのノートを隠したのは私だ」


 マコにハンカチを差し出しながらシュンイチは運転席からそう口を挟んだ。マコは目を見開いてシュンイチを見つめる。


「そんな、シュンイチさんが、なんで」


 マコはシュンイチの言葉が信じられなかった。いつも側にいてくれた夫がそんなことを隠していたなんて信じられなかった。


「すまない。私はどうしてもタケシが許せなかった。あいつのせいで私は南守と敵対することになった。そして君はあいつに囚われていた。私はすべてを変えたかった。君に私を見て欲しかった」


 シュンイチはマコを見ずに、ただ前を向いていた。

 マコはその悲しげな苦しげな横顔に見覚えがあるような気がした。小さい時からずっと一緒にいた。タケシに叶わぬ思いをいだくマコにシュンイチはこのような顔をよく見せることがあった。

 ずっと忘れていた。

 マコはこの悲しげな横顔をずっと忘れていた。


「恨んでもいい。私は君を本当に好きなんだ。あいつに渡したくなかった」


 夫としてヨウスケの父としてずっと一緒に過ごしてきた。夫のそんな一面をマコは知らなかった。マコはシュンイチから渡されたハンカチで目頭を覆った。

 涙が出てきた。

 その涙の正体はなんなのか、マコにはわからなかった。

 シュンイチはただ前を見て、運転し続けていた。そして後部座席のタカノリはどうしていいかわからず、沈黙を続けるしかなかった。




「信じられないな」


 話を聞き終わって最初の声を漏らしたのはヨウスケだった。

 どうみても普通の女性のアナンが宇宙から来たなんて信じられなかった。

 その先祖が運命の女――アムルと作り続けるようにカランに命じたということも信じたがった。


「しかし、このカランが人間でないのは確かだぜ」


 中山は皮膚が溶け、金属のような骨がむき出しになったカランの手に視線を向けた。中山は自分の推測が正しかったことに満足していた。しかし同時にカオルがカランによってアムル--運命の女に変えられたことに憤っていた。


「で、あんたはいまだにアムルを作ってるのか?」

「最近は作ってないよ。最後に作ったのは確か5年前だったかな。その子は多分1週間前に死亡してようだけど」


 カランの淡々とした答えに中山は殴りかかりたい衝動に駆られた。ロボットといえ、命令に従ったとはいえ、カランがアムルを作り出し、犠牲を出してきたのは事実だった。


「君が僕にいい感情を抱いていないことはわかっている。僕はアナンに僕の機能を止めてもらうつもりだ。安心して。これ以上のことはしないから」

「当たり前だぜ」


 中山はそう言うとマサシに視線を戻し、壁際にいるヒトミに目を向けた。


「野中さん、青井さんはマサシとヒトシに松果体の活動を促進させる薬を与えたんだったな」

「そうだけど?」


 ヒトミは不機嫌そうにそう答えた。


「カラン、あんたなら、どうにかできるんじゃないか。松果体の活動を押さえる薬とかなにかあるんじゃないか?」


 遺伝子操作ができるくらいの技術があれば、それくらい簡単にできそうだった。中山はそう思いカランに尋ねた。


「できないことはないよ。でも押さえるだけで、元に戻すことはできない」


 その言葉にヨウスケは顔をしかめた。しかし、このまま松果体を活動させてマサシをハナムラの意識に乗っ取られた状態で置くよりはましだった。


「それでもいい。マサシにその作業を施してくれ」


 中山がヨウスケの言葉を代弁するようにそう言い、カランは頷いた。

 ハナムラの意識強いマサシはアナンにとっては危険だった。アナンのためになると考え、カランはその作業を施すことにした。



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