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花の島の秘密  作者: ありま氷炎
第一章 波乱の赴任日
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守家の会合

(ばれたか……)


 家から出た北守ヨウスケは二階の窓を見上げた。

 しかし行かないとは言ってなかったと思い、八時に迎えにに来ることを決める。

 ヨウスケは溜息をつき、視線を車に戻す。そして擁護教諭の野中ヒトミの家へ車を走らせた。



 ヒトミの母親は南守家のものだった。嫁いでもその秘密は共有しており、今回のアナンの件も容認していた。


「あらあ、北守先生じゃない。どうしたの?」


 インターフォンを鳴らすと確認もせず、ヒトミが玄関の扉を開けた。その表情は楽しいことを期待している様子だった。


「お前に頼みたいことがある。いいか?」

「……いいわよ。中に入って」


 ヨウスケの表情を見てヒトミは肩をすくめると中に招き入れた。


「家の人は?」

「いないわ。今日の花火の手伝いみたいよ」


 そう答えながらヒトミは居間の椅子に座るヨウスケにお茶を出した。


「で、何?どうせ、ヒトシのことでしょ?町田アナンとはどうするの?」


 アナンが特定の遺伝子を持つ女性ということをすでに母親から聞いているのか、ヒトミはヨウスケの向かいの席に座りそう聞いた。


「そうだ。お前に今夜、町田アナンを星の浜まで呼び出して欲しい」

「あなたがすればいいんじゃない?同じ大学出身でしょ?今日は仲良く一緒に倉庫に行ったみたいじゃないの?」

「……なんでそんなこと知ってるんだ?」


 ヨウスケはぎょっとしてヒトミを見る。彼女はその瞳をきらきらと輝かせながらヨウスケに視線を返した。


「学校にはスパイがたくさんいるから気をつけたほうがいいわよ」


 ヒトミは身を乗り出すとヨウスケの唇を重ねる。



「油断も隙もないな」


 ヨウスケは唇についた真っ赤な口紅を拭い、椅子に深く座りなおした。


「じゃあ、説明する手間が省けるな。俺は誘えない。だから代わりに誘ってくれ。いいな?」

「それは北守家の命令?」

「そうだ。そう思ってくれていい」


 ヨウスケの答えに、ヒトミは目を細め一息つく。


「いいわ。何時なの?」

「八時半だ」




「今夜だ、今夜。いよいよ行うつもりだ」


 四つの守家が集まり、会合を開いていた。

 ヒトシが生まれた時から、特定の遺伝子を持つ女性を探し続けていた。遺伝子の確認は先祖代々受け継がれてきた道具で確認できた。四つの守家の若者は全国に散らばり、髪などの遺伝子情報をこの十七年間集めてきた。

 そして、北守ヨウスケがたまたま持っていた本の中の髪の毛が、その運命の女性とわかったのが一カ月前だった。その本は三年前の飲み会の時にヨウスケが町田アナンから借りたものだった。


「ヒトシの誕生日まであと三カ月だ。失敗は許されないぞ。北守家、わかっているな?」


 マコの兄で東守家の東守タカノリがそのぎょろりとした目を北守シュンイチに向けてそう言った

「心配するな。私の息子が準備をしている」


 シュンイチは座敷の奥の本家当主の席から東守タカノリにそう返した。


「ところでマコはどうしたんだ?」


 タカノリはシュンイチの隣にいつもいるはずの妹のマコの姿が見えないのでそう聞いた。


「またあの場所か?」


 シュンイチはその問いに答えなかった。シュンイチはマコがマサシの父タケシに友人以上の思いを抱いていたことを知っていた。だからタケシの死んだ場所にいくマコを止めなかった。それがシュンイチの優しさだった。


「くだらんな。運命の女なんて死ぬ宿命にあるだけだ。タケシも馬鹿な奴だな。その点、マサシはよくやってるな。まだ三十五歳、そしてヒトシも十八歳になり、また子が生まれる。島も安泰だな」


 それまで黙っていた西守家の西守タダオが下卑た笑いを浮かべる。シュンイチは内心軽蔑しながらも表情を変えなかった。

 花村家のおかげでこの島は生きていた。そして運命の女性の犠牲により、島は繁栄を続けていた。


「じゃあ、一足早い乾杯といくか?」


 東守タカノリが声をそう張り上げると、西守タダシは嬉しそうに盃を挙げた。


「おう、ノリコ。酒を持ってこい」


 西守タダシが襖を開けて、そこから顔を廊下にのぞかせて叫んだ。


「はいはい」


 そう声がして、すぐさま徳利に入った酒が何本もお盆に載せられて座敷に運びこまれた。


 会合の終わりはいつもこうだった。


 北守シュンイチはふと南守アキオが言葉を発しないことに疑問を持った。アキオは無口な男だったがいつもなら何か口をはさむような男だった。しかし今日のアキオはその顔に奇妙な笑みを浮かべて、東守と西守と共においしそうに酒を煽っていた。


 シュンイチは盃を傾けながら嫌な予感を感じていた。

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