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花の島の秘密  作者: ありま氷炎
第六章 作り出される運命
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新たな協力者

「マコ!」


 ホテルのフロントで警察を名乗り、部屋を開けてもらった。

 そこにいたマコの無事な姿を見てシュンイチはほっとした。

 東守タカノリは廊下でフロントの従業員に何やらもっともらしいことを説明している。


「シュンイチさん!」


 マコはシュンイチの姿を見るとその胸に飛び込んだ。


「大丈夫か?」

「ええ、アキオさんに打たれたところが痛いけどね」

「打たれた?」


 シュンイチはマコの言葉に眉をひそめた。


「大丈夫。軽くだから。アキオさんがシュンイチさんに連絡してくれたんでしょ?」


 マコはすこし疲れた様子だったが、シュンイチに元気そうな笑顔を向けてそう聞いた。


「ああ、メールで知らせがきた。知っていたのか?」

「ううん。そんな気がしただけよ」


 マコはシュンイチの問いに嬉しそうに答える。苦悩するアキオの瞳を見て、マコはアキオが自分を、マサシ達を助けてくれる予感がしていた。


「シュンイチさん、マサシ達は今どこにいるの?」

「田の山にいるみたいだ。今、ヨウスケと中山が向かっている。南守達もそこに向かっているようだ」

「私達も行きましょう。心配だわ」

「そうだな」


 シュンイチはマコの肩を優しく抱くとドアに向けて歩き出した。



 中山が田の山の入り口に入るとヨウスケの車が止まっているのが見えた。その側に車を寄せて停め、中に誰かがいないか確認するために中山は降りた。するとふいに轟音が聞こえ、木々に宿り休んでいた思われる鳥達が一斉に飛び立った。


「なんだ?」


 中山はヨウスケの車に誰もいないことを確認すると、電話の明かりを頼りに音のした方向へ山を登り始めた。

 ヨウスケとは田の山の入り口で会うことになっていたが、あの音からして何かあったに違いなかった。




 ヒトシとヨウスケは聞き覚えのある声で呼ばれ、落下したショックでぼうっとした頭を左右に振りながら土砂の中から体を起こした。

 アナンの姿がすぐ近くにいるのがわかった。そしてその後ろに二つの影が見えた。1人はマサシで、もう一人はヒトシによく似た少年だった。


「ヒトシ、まだ生きていたのか」


 マサシは銀色の目を爛欄と輝かせながらヒトシを見た。ヒトシは土砂から立ち上がると反射的にアナンの前に立ち、マサシを睨みつけた。マサシの様子はおかしいままだった。ヨウスケも顔を強張らせながらマサシを見ると、アナンの側に立った。


 アキオとヒトミは体についた土を払い落しながらゆっくり立ちあがり、マサシ達の様子を見つめた。


「さあ、どうしようか」


 マサシは自分の前に立つヒトシを見ながらそう言った。

 カランに加えて本調子ではないが力を持つヒトシに、銃を扱うヒトミとアキオが加わった。ヒトミとアキオは除外するとして、ヒトシが自分に立ち向かうことはわかっていた。


「父さん!お願いだ。馬鹿なことはやめて。自分を取り戻して。ハナムラに負けないでくれ」


 ヒトシはマサシに向けてそう叫んだ。しかし当のマサシは可笑しそうに笑った。


「無駄だ。マサシはすでに私の意識の中に溶け込んだ。この体は私のものなんだよ」

「くそっ、そんなことはないはずだ。絶対に!父さん!」

「しつこいな」


 マサシはヒトシに向けて光を放った。ヒトシはそれを反射的に両手で防ぐ。


「そうは簡単にいかないか。しかし力を使えば命を削る。わかっているのか?」

「わかってる!」


 ヒトシは跳んだ。マサシの気を失わせることができればどうにかマサシの意識を取り戻せると思った。マサシは松果体の活動で変わってしまった。それであればその松果体の動きを押さえればどうにかなるはずだった。


 今がチャンスだわ。


 一同の視線がマサシとヒトシに向けられていた。ヒトミは今ならばアナンを連れてここを離れられると考えた。


「!」


 ヒトミはアナンにそっと近づくと拳銃をアナンの背中に当てた。アナンがヒトミの姿を確認し、声を上げようとするのをヒトミはもう片方の手で口を塞ぎとめた。そのまま連れ去ろうとした。


「ヒトミ、町田を離せ」


 ヒトミはふいに自分の背中に冷たいものが押し付けられるのを感じた。

 ナイフと思われるものを持ち、冷たい声でそう言ったのはヨウスケだった。


「ふん、あなたに私が傷つけられるの?」

「ああ」


 そう答えるとヨウスケはナイフを横に振り切った。


「っつ」


 脇から流れる血を押さえるために、ヒトミはアナンを掴む手を離した。ヨウスケは手刀でヒトミの手から銃を振り落とすと、その手をひねった。

「痛い!離して!」

「町田、お前のその頭の紐を貸せ」

「紐?!リボンね」


 アナンは頷くと髪を留めていたリボンをヨウスケに渡した。アナンの髪がはらっとこぼれ落ちヨウスケは一瞬目を奪われが、リボンを受け取るとヒトミの両手を縛った。


「脇腹の傷は浅い。時期に中山さんが来る。死にはしない」


 そう冷たく言うヨウスケをヒトミは睨みつけた。アキオは持っていたハンカチをヒトミに傷口に当てた。血はすぐに止まった。本当に軽く傷つけただけだった。


「アキオさん、あなたが父にこの場所のことを教えたんですよね?青井はどこにいますか?」


 ヨウスケはしゃがみこんでヒトミの傷を見るアキオにそう尋ねた。


「父か、北守がそう言ったのか?」


 アキオは顔を上げると意外そうな表情を見せた。


「いえ、父は何も。ただそう言う気がしただけです。父はあなたとは親友だったと話してました」

「親友か……そうだったな」


 ヨウスケの言葉にアキオは自虐的に笑った。


「俺は北守を手伝ったわけではない。メグミのためにやった。彼女の息子達を殺したくないだけだ」

「……俺もヒトシにもマサシさんにも死んでほしくない。だから目的は一緒ですよね?」


 アキオはヨウスケの問いに視線を向けただけで何も言わなかった。しかしヨウスケはアキオが自分に協力してくれると感じていた。


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