マサシVSカラン
ふいに携帯電話が鳴る音がした。
北守シュンイチはハンドルを握りながら携帯電話を確認する。
それはメールを受信した音だった。
『マコは山下町のカヤマホテルの901号にいる。ヒトシとマサシは田の山にいる』
メールの内容はそれだけだった。
そして送り主は南守アキオだった。
シュンイチは一瞬考えた後、車を止めた。
「どうしたんだ?」
助手席の東守タカノリが訝しげにシュンイチを見た。
「マコとヒトシ達がいる場所がわかった」
シュンイチはそれだけ答えると息子のヨウスケに電話をかけた。
ここから田の山は近い。
ヨウスケは父シュンイチからの電話を切ると、看護婦と患者が歩き回る廊下を走り抜けた。
注意をする声が後ろから聞こえるがヨウスケは構っていられなかった。
早く、早く無事な姿を確認したい。
ヨウスケは駐車場に止めてある車に飛び乗ると田の山に向けて車を走らせた。
「伯父さん?何か変なこと考えてないわよね?」
いつものように黙って運転を続けるアキオにヒトミはそう話しかけた。マコの部屋から出てきたとき、アキオの調子がおかしかったように思えた。
何かあったの?
何か言われたの?
アキオはヒトミに何も答えずただ正面を見つめ、車を走らせていた。
「くそっ、ヒトシの奴」
目を覚ましたマサシはそう悪態をつきながら体を起こした。
目の前には血の塊の上に倒れるヒトシの姿見えた。
マサシは止めを刺そうかと手の平をヒトシに向けたが、舌打ちをすると目を閉じ、アナンの気配を探った。
アナンを手に入れてもマサシには何もメリットもなかった。
しかしハナムラの血がアナンを求めていた。
「ハナムラ!」
「花村さん!?」
突然現れたマサシの姿にカランは警戒してアナンの前に立った。
「お前は誰だ?」
アナンの気配を探って飛んだら、ヒトシや自分に似た少年がアナンの側にいた。しかし気配は何も感じなかった。
ハナムラではない。
「はじめまして。ハナムラ。僕はカラン。君たちにそっくりだけど、ハナムラではないよ。アナンは渡さない」
カランはアナンを庇うようにしてそう言った。
アナンはカランの背中ごしにマサシを見つめていた。マサシの様子がおかしいことに気がついていた。穏やかな雰囲気はなくなり、その銀色の瞳を爛々と輝かせて、皮肉な笑みを浮かべていた。
それはヒトシが変わってしまったのと同じ状態のように思えた。
きっと花村くんのように何かされたんだわ。
でも花村くんのように元に戻ることができるはず。
「花村さん!お願い、正気に戻って。花村くんも正気に戻れたわ。きっと花村さんも」
しかしアナンはそれ以上言葉を続けられなかった。マサシがカランに向かって光の球を放っていた。眩い光がアナン達を襲った。カランはアナンを背中に庇い、両手でそれを受け止めた。金属が燃えるような匂いがし、光が消えた。
「ほう、お前はロボットなのか?誰が作ったんだ?アムルか?」
カランの両腕の肌が焼け落ち、金属のような物質でできた骨が見えていた。
「君に答える必要はない」
カランは淡々とそう答えると肌が焼け焦げて、金属がむき出しになった両手をマサシに向け、光を放った。




