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花の島の秘密  作者: ありま氷炎
第五章 憎しみを抱く者たち
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逃走

 中山から受け取った記事を読んでシュンイチは黙りこくった。その隣で記事を読み始めた東守タカノリの顔が強張るのがわかった。


「どう思う?守家のお頭さん?」


 中山はわざとおどけた調子で車の外から中のシュンイチにそう声をかけた。シュンイチは眉をひそめて何か考えていた。


「カオルは3歳のときに神隠しにあってる。青井メグミもそうじゃないか?」


 何も言わないシュンイチに中山はそう尋ねた。


「……ああ。メグミも10歳の時にあっている。南守から聞いたことがある」

「やっぱりな。俺が思ったとおりだ」


 中山はもじゃもじゃの髪の毛をかきながら車に寄りかかり空を見上げた。


「どういう意味だ」


 タカノリが車から乗り出すようにして中山の見つめる。


「俺は運命の女は誰に作られていると思うぜ。神隠しにあった際に遺伝子操作を行われている」

 

 中山は眼鏡の奥の目をきらりと輝かせてそう答えた。


「そんなこと……できるのか?」


 タカノリはうめくように唸る。隣のシュンイチは眉間にしわを寄せたまま黙っていた。


「常識的にできない。でもな、俺の推測は正しいと思うぜ。突然変異で運命の女が誕生するのであれば、生まれてこない年月もあるはずだ。しかし、花村が18歳になる前にはいつも運命の女は見つかっている。これは誰かが意図的に作ってると考えたほうが自然だ」


 中山の言葉にシュンイチとタカノリも言葉を発しなかった。タカノリは中山をも見つめ、シュンイチは目を閉じていた。奇妙な沈黙が流れる。しかし沈黙は長く続かなかった。


 ジリジリーン、ジリジリーン


 ふいに昔ながらの電話の呼び出し音が鳴り、沈黙を破った。シュンイチは胸ポケットから電話を取り出す。


「もしもし?」


 シュンイチがそう電話に出ると掛けてきたのは息子のヨウスケだった。中山とタカノリが見つめる中、携帯電話を握るシュンイチの顔がこわばっていくのがわかった。


「わかった。今から病院にいく。お前はそこにいろ」


 シュンイチは電話を切ると顔を上げる。


「何があったんだ?」


 中山とタカノリはほぼ同時にそう聞いた。


「青井たちが病院に現れ、マサシを奪って逃走したらしい。マコの行方もわからなくなった。記事のことは後で考えよう。まずは病院に戻ることが先決だ」


 シュンイチは車のエンジンを始動させた。中山は車から体を離す。


「私達は先に病院にいく。中山は悪いが、もう少しここで青井達の手掛かりを探ってくれ。もし奴らが返ってくることがあったら知らせてくれ」


 シュンイチは中山にそう言い残すと車を出した。

 走り去っていく車を見ながら、中山は青井達がここに戻ってくることはないと考えていた。この施設のことは宮川教授の知り合いの医師から聞いたものだった。ノゾムも馬鹿ではない。この場所は守家にばれているのはわかっているはずだった。


 中山は記事を再度見つめると記者と出版社の名前を探した。


 運命の女性を作ってる存在が気になった。

 現代の医学、科学では遺伝子操作、しかも生まれてくる前の段階ではなく、生後数年後の遺伝子操作など不可能だった。


 しかし中山は自分の勘を信じていた。

 そしてその予測が正しいことを証明したかった。


 神隠しにあった場所を辿れば何かわかるかもしれない‥


 中山はそう思い、出版社の名前がわかると携帯電話を取り出し、電話番号を調べ始めた。



「伯父さん、マコさんまで連れてきてどうするのよ」


 マコを背負って部屋につれてきた南守アキオに野中ヒトミはあきれたようにそう言った。


「仕方ないだろう。騒がれて大変なのは俺達だ。マコは人質としても使えるはずだ。北守はマコだけは捨てきれないからな」

「人質なんて必要ないと思うけど?」


 ヒトミが口を尖らして抗議するのをアキオは見たがそれ以上何も答えず、マコをベッドに寝かせた。会合や島の中で姿をみたことはあるが、こんな近くでマコを見るのは35年ぶりだった。


 年をとったな。

 俺もそうか。


 ヒトミは自嘲ぎみな笑みを浮かべるアキオを一瞥すると、背を向け青井ノゾムの元に急いだ。


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