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花の島の秘密  作者: ありま氷炎
第五章 憎しみを抱く者たち
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施設で見つけたもの

 舗装された道路をヒトシとアナンが歩き始め1時間経過していたが、通る車はなかった。


「車がまったく通んないなんてすごい田舎だな。ここに比べるとうちの島のほうがまだ都会だな」


 ヒトシの言葉にアナンは思わず笑った。


「あ、町田先生。やっと笑った。笑ってくれたほうがいいのに」


 ヒトシは嬉しそうにそう言うが、アナンは反射的にその笑顔から視線を逸らす。ヒトシはそんな彼女の様子に落胆の色を見せた。


「先生。俺は絶対に先生を襲わないから。せめて先生の笑顔を見せてよ。俺の目をみなきゃ、とらわれないんだろう?それだったら俺の口でもなんでも見ていいから」


 懇願するような言葉だった。


「わかったわ。でも面白くないと笑わないわよ」


 アナンがそう答えるとヒトシは苦笑した。


「やっぱり先生って面白いな。あ!車だ!」


 ヒトシは横を通しすぎようとする赤い車に手を振った。

 しかし車は停まらずそのまま走り去った。


「くそっ。むかつくなあ。やっぱり飛んだほうがいいかな」


 そう思ったのだが、実際力を使うのは避けたかった。花村の血の覚醒のせいで命が縮まっているのがわかっていた。また使えばさらに命が縮まる。


 でもしょうがないかな。

 奴らに追いつかれるかもしれないし……。

 父さんの様子も心配だし……。


「先生。飛んで帰ろう。瞬間移動は今の場所がよくわからないし、気を探れないからできないけど、飛ぶならできる。歩くよりずっと早いはずだ」


 ヒトシが差し出した手をアナンは掴んだ。すると風が舞い上がり、ヒトシはアナンを連れて空に飛び上がった。


「!?」


 風が体に当たり、髪が風に踊り視界を邪魔する。髪を押さえて眼下を見ると先ほどまで歩いていた道路が小さくなっていた。初めてではないのだがやっぱり空を飛ぶというのは怖かった。

 アナンは思わずヒトシにしがみついた。ヒトシは微笑むとその腰を掴んで、飛ぶスピードを上げた。


「ちょっと、花村くん!」


 スピードのせいか、腰を掴んだことに対してかアナンがそう抗議したが、ヒトシはただ笑顔を浮かべて飛び続けた。

 こうしてアナンと一緒に空を飛べるのがヒトシは嬉しかった。



 中山は簡単に研究施設に入れた。警備員とかは雇っていないようだった。

 1階は静まり返り、ただ壊れた電話が落ちていた。建物は3階建ての作りだった。1階はロビーになっており、2階は研究所、そして3階が住居のようなものになっていた。


 我ながら、俺も無謀なことをするぜ。


 武器を持たず建物内を歩きまわる中山は自嘲ぎみに笑みを浮かべていた。数時間前に銃を向けた南守アキオの表情は冷たく、撃たれてもおかしくなかった。


 運命の女を殺された恨みか……

 それとも青井家への償いか……


 南守家と青井家は親しかったと聞いていた。

 しかし南守の父はそれを利用してメグミを島に連れてきた。


 青井ノゾムはそのメグミの弟だ。10歳の時に姉が突然行方知らずになり、それが原因で家族がめちゃくちゃになったらしい。母親が自殺、父親が仕事をしなくなり、ノゾムは擁護施設に入れられたと聞いている。


 恨みか。

 姉を奪われ、家族をめちゃくちゃにした花村への……


 中山は二人の男の恨みや悔恨に思いをはせた。


 中山も何もそんな思いがないわけではなかった。

 カオルは大事な従姉妹だった。


 ただカオルの場合は最初から運命を自分で決めていたようだった。中山も研究者の1人としてカオルの病を調べたが、原因がわからなかった。死を黙って待つのはカオルの性ではなかった。東守タカノリから運命の女性の話があり、遺伝子を調べてみたら符合した。カオルは嬉しそうに花の島に旅立った。


 花村のために死んでいく運命の女性……

 その女性なしでは18歳までしか生きられない花村の男性……


 調べてみたい気持ちがあった。

 しかしそれ以上に花村の行く末、運命の女性の存在が気になっていた。


「逃げたか……」


 3階まで部屋を調べてみたが、人の気配はなかった。


 北守さんに知らせるか。


 中山はそう思い、電話を取りだすためにポケットに手を入れた。

 取りだそうとすると電話が落ちて、床を滑り、机の下に潜り込んで止まった。中山はため息をつくと電話を拾うために腰をかがめた。


「?」


 机の下の電話の側に茶色の封筒が落ちていた。気になって中山はそれを電話と共に引っ張り出した。

 それは未開封のようで、宛先は『青井ノゾム様』となっていた。送り主の名前はなかった。中山は少し考えたが開けてみることにした。

 中には雑誌を切り取ったと思われる紙切れが中に入っていた。そして中山は記事の見出しを見て眉をひそめた。

 記事の見出しはゴシック体で『奇病!?銀色の髪で亡くなる少女』と書かれており、その少女の写真が載っていた。

 中山は拾った電話を机の上に置くと、椅子に座り、記事を読み始めた。

 

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