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花の島の秘密  作者: ありま氷炎
第四章 目覚め
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暗い海

 『花村さん』


 アナンにそう呼ばれたような気がして、マサシは目を覚ました。

 部屋で屈んで何かを拾い集めているヨウスケに気がつく。


「マサシさん、気がついたんですね」


 目を覚ましたマサシにヨウスケはほっとして声をかけた。

 しかしマサシはそんなヨウスケに返事をするわけでもなく眉をひそめて部屋の一点を見つめていた。

 アナンの気が突然小さくなり、早いスピードで島の東へ移動していた。そして東の端でヒトシの気を感じた。


「ヨウスケくん、ヒトシが島に来ている。東の端の桟橋だ」

「ヒトシが!」

「町田先生の気がそこに向かっている。誰から彼女を拉致したみたいだ」

「拉致?」


 ヨウスケはマサシの言葉に考え込んだ。先ほど拉致しようとした伯父の東守タカノリは両親の北守シュンイチとマコと家にいるはずだった。


「ともかく、そこに飛ぼう」


 痛みに顔をゆがめながらマサシは体を起こす。神経を集中させようとした。


「神主さん!」


 ふいに部屋に入ってきた中山がマサシの撃たれた肩を掴んだ。痛みで集中が途切れる。


「その体で力を使うんじゃない。死ぬぞ」

「しかし!」

「大丈夫です。俺が行きます。東の端の桟橋ですね。今度こそヒトシを俺が止めて見せる!」

「ヨウスケくん、ヒトシ1人じゃないはずだ。多分青井ノゾムやアキオさんもいるはず。1人じゃ危ない」


 止めようとするマサシに中山が口をはさんだ。


「俺が一緒にいってやろう」

「中山さんが?!」

「言わなかったか?俺は一応空手習ってたんだぞ」


 中山に押される形でヨウスケは中山とともに車で東の端の桟橋に向かった。

 『いいか、絶対に力を使うなよ』

 マサシは中山の言葉がよぎったが、ヨウスケ達が出かけると気を探り飛んだ。


「ヨウスケ?マサシ?」


 話を終わらせたマコが夕飯の準備ができたと花村家に呼びに来たら、中はがらんとしていた。ベッドには重症のはずのマサシの姿が見えなかった。そして外に出るとヨウスケの車が見当たらなかった。


「シュンイチさん!」


 マコは嫌な予感を感じて夫のシュンイチを呼んだ。




「あ、父さんだ」


 ヒトシは桟橋にふいに現れた父マサシを見て楽しそうな声をあげ、南守アキオのプレジャーボートから桟橋に飛び移った。


「父さん、体中傷だらけだ。どうしたの?」


 マサシはそう言って笑うヒトシの様子に違和感を覚えた。あの時と同じ花村の血のまま行動しているようだった。


「ヒトシ、花村の血に操られるんじゃない。私の声が聞こえているか?」

「無駄だよ。父さん、ヒトシはもう俺の中にいる。分離することはできないんだ」

「ならば、無理にでも分離させるまで!」


 マサシはヒトシに向かって跳んだ。ヒトシの頭に力を送り、松果体の動きを抑えればヒトシが元に戻ると考えた。


「そんな弱った体では無理だよ」


 ヒトシは跳んできたマサシに蹴りを繰り出す。マサシはそれを避け、ヒトシの頭に触れた。


「うざいな」


 ヒトシは頭を掴むマサシを手で振り払い、光の球を作りだし投げた。マサシは避けきれずまともに食らって桟橋に落ちた。


「惜しかったな。あと少しで海に落ちたのに」


 ヒトシは残念そうにぼやく。その視線の先でマサシはゆっくりと体を起こす。体が重く、体に巻いた包帯からは血がにじみ出ていた。


「父さん、死ぬ覚悟はできてる?俺は死ぬのは嫌だ。アナンを奪って絶対に生き残るつもりだ」


 辛うじて立ち上がったマサシをヒトシは見ると、手の平を向けた。


「これで最後だ」


 しかしヒトシから力を放たれることはなかった。ヒトシは体を九の字型に曲げ、鈍い咳をすると口元に手をやった。


「ちくしょう。力を使い過ぎたか」


 口を押さえた手に血がついていた。眩暈がするのがわかった。




「中山さん、シートベルト締めて」


 北守ヨウスケはハンドルを切った。


「おい、そこは道じゃないぞ」

「近道です。そうじゃないと追いつけない」

「うお!」


 車は舗装された道路から横道にそれ、木々を避けながら下っていった。


「死んだら恨むからな」

「大丈夫です」


 ヨウスケは自信たっぷりに言い切り、アクセルをさらに踏んだ。


 ふとマサシはアナンの気が近づいているのが感じた。後ろを見ると銀色のセダンがこちらに向かって走ってくるのが見えた。ヒトシも同様にセダンを見つめているのがわかった。


 跳ぶ気か?


「行かせない!」


 マサシはそう叫ぶとヒトシの向かって跳んだ。跳ぼうとしていたヒトシはマサシに体を押さえつけられ動けなかった。

 車が桟橋の前で止まり、西守タダキが車を降りたのがわかった。そしてトランクから町田アナンを担ぎ出す。

 その時山の中から一台の車が現れた。それはタダキのセダンの側で止まった。

 車から降りてきたのはヨウスケと中山だった。二人はタダキに近づくと町田アナンを奪う。


「しょうがないわね」


 それを見ていたヒトミと南守アキオがボートから降り、銃を二人に向けて構える。


「危ない!」


 マサシはヒトミとアキオが構えた銃を力で吹き飛ばした。しかしその瞬間ヒトシを押さえていた力が弱まった。


「父さん!じゃあね!」


 ヒトシはその隙を逃すわけがなく、マサシの蹴りを加えると跳んだ。マサシはその蹴りを受け宙を舞うと海の中に落ちた。


「ヒトシ!」


 突如目の間に現れたヒトシをみてヨウスケは驚いたが安堵した。しかしその気持ちは長く続かなかった。

 ヒトシはタダキを押さえる中山に光の球を投げ、山の中に吹き飛ばした。そしてアナンを支えるヨウスケの脇腹に蹴りを加えると、アナンの腕を掴み、ヨウスケから引き離した。ヨウスケの体は地面を擦って後ろの飛ばされ、木々にぶつかって止まった。ヒトシは力のないアナンの体を担ぐとボートに向かって跳んだ。

 ヒトシがアナンを連れてボートに降り立ち、アキオはすぐに発進させる。

 ボートは、日が沈み真っ暗な夜空と黒い海の間を裂いてまっすぐに進み、黒い闇に紛れて消えた。


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