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花の島の秘密  作者: ありま氷炎
第四章 目覚め
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アナン再び誘拐

「町田」


 聞きなれた声にアナンは起こされた。マサシのベッドの側で寝てしまっていたみたいだった。


「帰って来たの?」

「ああ」


 北守ヨウスケはいつものようにぶっきらぼうにそう答えた。

 マコからヨウスケが父親のシュンイチとともにヒトシの手掛かりを追うため、青井ノゾムの家に行ったことを聞いていた。こんなことがあり、慌てて帰ってきたのだろうとアナンは想像した。


「怪我はないのか?」

「うん……」


 アナンはヨウスケの冷たい視線から逃げるように視線を逸らして頷いた。


「また逃げようとしたのか?」


 そう言ったヨウスケの声が冷え切っていた。アナンは背筋が凍るような気持ちになった。


「俺、前にお前と約束したよな。悪いけど約束は守れない。俺はヒトシが大事だ。助けたい。だからお前を島から出すわけにはいかない。わかったな?」

「……ふざけないでよ!何様のつもりよ!」


 アナンは無表情なヨウスケに内心おびえながら強がって叫ぶ。


「俺は守家だ。花村家のために生きる。それだけだ。今度逃げたら監禁する。いいな?」

「……」


 アナンは涙がこぼれるのがわかった。味方だと思っていたヨウスケにそう言われ絶望的な気持ちになった。


「あと、必要以上にマサシさんに近づくな。お前はヒトシの妻になる女だ。マサシさんじゃない」

「最低!馬鹿!」


 アナンは近くにあった自分の鞄をヨウスケに投げつけると部屋を飛び出した。

 悔しかった。

 無力な自分が悔しかった。


 ヨウスケはアナンが出ていき、静かになった部屋の中で散乱したアナンの鞄の中身を拾っていった。

 硬い鞄があたり痛いはずの顔は何も感じなかった。

 気持ちが麻痺しているようだった。


 島に戻り母マコや伯父タカノリから事情を聴き、何が起きたのかわかった。またマサシの傷が軽いものだとわかりほっとした。話を続ける父や母たちと尻目に、アナンがマサシについているということで花村家に来た。家には中山の姿がなく、静まり返ってきた。マサシの部屋を覗くと二人の眠る姿を見た。


 アナンはマサシの手を握りしめベッドに顔をうずめ、椅子に座ったまま寝ていた。寝顔は見たことがないような優しいものだった。ベッドの上のマサシも規則的な寝息を立て、穏やかな顔で寝ていた。窓から温かい光が二人の姿を見守るように差し込んでいて、まるで映画のワンシーンのようだった。

 ヨウスケはそんな二人の姿に苛立ちを覚えた。その苛立ちの正体はわからなかった。

 ただヒトシと結ばれるはずのアナンがマサシと一緒にいるのが許せないのだと思った。

 どこかで苦しんでるはずのヒトシ……。

 あと1カ月少しの命しかないヒトシ、その命を握るアナンが他の男と一緒に安らぎの中いるのが許せないのだろうと思った。



 町田アナンは海岸沿いの堤防に寄りかかり、空を見上げていた。

 空はオレンジ色になっていた。


 先ほどヨウスケに言われた言葉が胸に刺さっていた。

 同時にマサシを意識し始めている自分の心を見透かされたようで胸が苦しかった。


「!」


 ふいに視界が真っ暗になった。気づいた時は口元に布があてがわれ、薬品の香りがした。頭がくらくらした。


「悪いな。町田さん」


 聞いたことのない男の人の声がした。目を凝らしてみるとそれは30歳くらいの小太りの男だった。 男はぎゅっと布をアナンの口にあてていた。手足を動かして抵抗してみるが体がいうことを聞かなかった。


 なんで……

 誰、この人……?


 なんで私ばっかり


 必死に抵抗をしているつもりだが、手足の感覚はなくなっていた。


 北守の馬鹿!

 花村さん……


 西守タダキは意識を失ったアナンの体を抱えると、周りを窺いながら木の陰に停めている車のトランクに入れる。そして素早く運転席に回るとヒトシ達が待っている東の端の桟橋へ車を走らせた。


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