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花の島の秘密  作者: ありま氷炎
第四章 目覚め
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中山の正体

「何?わかった。すぐ戻る」


 手術室のような部屋を詮索していると妻のマコから電話が入った。シュンイチは動揺した表情で 電話を切ると息子ヨウスケに顔を向けた。


「マサシが東守に撃たれた。島に戻るぞ」

「東守?!タカノリ伯父さんが?」

「そうだ」

「どうしてそんなことに?」


 ヨウスケはシュンイチの言葉が信じられなかった。確かにタカノリが花村家のことをよく思っていないことは気づいていた。しかし傷つけるようなことをするとは思いもしなかった。


「詳しいことに島に帰ってきたら聞こう。マコがかなり動揺している。早く島に戻ったほうがいい」


 ヨウスケはシュンイチの言葉にうなずく。

 中身を確認していた金属製の机の引き出しを閉めると、シュンイチの後を追い、壁の穴から部屋の外に出た。



「町田さん、少し休んだら?」


 マサシの手を握って側に座りつづけるアナンにマコはそう聞いた。

 あの後、5分ほどして中山が車を飛ばしてやってきた。中山は車にアナンとマサシを乗せると花村の家に戻った。治療に必要な道具は花村の家にすべて置いてきていた。

 家に到着すると、ベッドにマサシを寝かせた。

 傷は幸いなことにかすり傷だった。傷口を消毒して少し縫っただけで済んだ。

 気を失ったのは出血のためではなく、体の傷が癒えない状態で力を使い、瞬間移動したため、疲労がピークに達したせいのようだった。


 アナンは自分を庇い、傷を負ったマサシに負い目を感じていた。

 島を逃げ出そうをとした自分……

 花村くんを見捨てようとした自分……

 それなのに助けにきてくれた。

 命がけで私を救ってくれた……


 アナンは青白い顔でベッドに横たわるマサシを見つめて祈るしかできなかった。


 ごめんなさい。

 私のために……


 マコは休むように言っても聞かないアナンの様子にため息をつくと部屋を出た。台所のテーブルには中山と東守タカノリが座っていた。二人とも渋い顔をしていた。


「東守、どういうことなんだ?」

「どうもこうも……町田アナンが逃げるから止めようとして撃ったら、マサシが町田アナンを庇って被弾した。俺はマサシを撃つ気はなかった……」


 タカノリの説明に中山はため息をついた。


「兄さん!銃を使うなんて!どういうこと?止めるために使っただなんて、下手したら死んでいたわよ!」


 マコはタカノリに向かって叫ぶ。


「マコ、悪かった。咄嗟に思わず……」


 タカノリはマコを落ち着かせようとその肩を掴んだ。しかしマコは手を振り払うとタカノリを睨みつけた。


「だから私は反対だったのよ。守家が銃を持つのを!うちのシュンイチさんもヨウスケもそれで怪我をしたのよ。銃なんて必要ないのに!」


 そう言って泣き出したマコをタカノリは胸に抱きしめた。北守に嫁いだとは言え、マコは愛しい妹に代わりがなかった。


「あーやれやれ。銃の傷の手当なんて、この島に来るまでやったことなかったぜ」


 中山はぼやくとマサシの様子を確認するために席を立った。



 とんとんと開かれたドアをノックして、中山は部屋に入った。


「お嬢さん、心配するな。傷はかすり傷だ。1週間くらいじっとしていたらよくなる。まったく部屋にいろって言ったのに、動いたこいつが悪いんだから」

「いえ、そのおかげで助かりました。多分来てくれなかったら監禁されていたかもしれないですし……」


 アナンは中山にそう答えると再び視線をマサシに向けた。


「監禁か……。銃は出て来るし。物騒な島だよな。個人的にはいい奴らなんだがな」


 中山の言葉にアナンはふと疑問を持った。中山は島に数年前から住む医師と聞いていた。しかし先ほどのセリフ……その前から知っているような口調にも聞こえた。


「お嬢さんは癇がよさそうだな。俺は実は関係者の一人だ。東守のことは18年前から知ってる。このマサシの妻カオルは俺の従姉妹だ。カオルの病を研究していた時、東守に会った。それでこの花村についても知らされた。カオルは進んでマサシの妻になりヒトシを産んだ。俺はだから、花村にも守家にも何の思いもない。ただ興味本位でこの島に住んでる」


 アナンは中山の言葉を黙って聞いていた。マサシの妻カオルのことは数時間前にみた写真でしか知らなかった。幸せそうだと感じていたが、中山がそう言ったので本当に幸せだったんだろうと思った。


 私は私はどうなんだろう。

 メグミさんもカオルさんも死んでしまったけど幸せだった。


 私も花村くんの子供を産むのが幸せなんだろうか?


 アナンの問いに答えるものがいなかった。

 ただベッドの上で眠るマサシが心配だった。

 そしてその手にぬくもりを感じた。


 中山は考え込んでしまったアナンを見つめた。

 従姉妹カオルと同じ運命を持つ女性、花村家の命を握る者……。


 中山は花村家にも守家にもアナンにも特別な思い入れはなかった。

 ただこれからの行く先に興味を持っていた。



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