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花の島の秘密  作者: ありま氷炎
第四章 目覚め
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アナン脱走

「ここだ」


 父のシュンイチがそう言い、ヨウスケは車を止めた。古い洋風の作りの家がそこにはあった。二人は車から降りると家の門をくぐりぬけ玄関まで歩く。


「ノブが……」


 玄関の扉のノブが破壊されているのに気付き、ヨウスケがそう呟くとシュンイチは苦笑した。


「心配ない。壊したのはマサシだ」


 シュンイチは扉を押すと中に入る。

 家の中は二日前に来た時と同じ様子だった。青井たちが戻ってきた痕跡はなかった。


「ヨウスケ、地下に部屋がある。そこに何か手掛かりがあるかもしれない」


 シュンイチは地下に続く階段へ向かった。




 部屋に戻ったアナンはパタンと襖を閉めると壁に背をつけ座り込んだ。

 囚われそうだった。

 怖かった。

 しかし同時にマサシに惹かれていた。

 あの腕に抱かれてみたいと思う自分がいたのがわかった。


「馬鹿、馬鹿、馬鹿!!」


 誰もいない部屋でアナンはそう叫んだ。


 死にたいの?

 せっかくあの時生き残ったのに……。

 お母さんとお父さんが命がけで救ってくれた命を無駄にするの?


 家族で旅行中、急に車がぶつかってきて海に車ごと投げ出された。

 沈んでいく車の中で母さんと父さんが必死に私を車の外に出してくれた。


 私は二人が車ごと沈んでいくのを見るしかできなかった。


 最後に母さんが言った言葉を覚えている。

 お願い、生きて。

 幸せになって。


 その言葉で私は今ままで生きてこれた。


 両親の分まで幸せになるつもりだった。


 そう、

 だから、こんなところで死に訳にはいかないわ。


 島を出るしかない。

 じゃないと私はあの瞳にいつかとらわれてしまう。


 アナンは決意を固めると鞄の中に服や財布などを詰めた。身軽のほうが動きやすいと思い必要最低限のものだけを入れる。

 鞄を持って、部屋を出ようとすると部屋の片隅に置かれた青井メグミの日記が目に付く。アナンは一瞬躊躇したが、その日記を手に取って鞄に放り込んだ。

 静かに襖を開ける。家の中は静かでまだ誰も帰ってきてないようだった。


 アナンは足音を立てないように玄関まで歩くと靴を履いて外に出た。




 地下への階段がある扉は壊されていた。

 マサシの仕業だということがわかっていたのでヨウスケは迷いなく、階段を下りていった。スライドドアのところまで行き着き、開けるとすぐ近くに血痕があるのが見えた。ヨウスケは眉をひそめたが、それが父シュンイチが撃たれた時の血だということがわかると、視線を血痕から部屋全体に移した。

 そこは白い壁に囲まれた狭い部屋だった。


「ヨウスケ、椅子を持ち上げて、その壁に思いっきりぶつけてみろ」


 後ろから現れたシュンイチの言葉に疑問を持ちながらも、ヨウスケは言われた通りに椅子を壁に力いっぱいぶつけた。鈍い音がし壁の漆喰が壊れて、中の木材が見えた。


「思った通りだな。金属ではない。ヨウスケ、そのまま壁に椅子をぶつけろ。そのうち壁が壊れ、部屋が現れる」

「わかった」


 ヨウスケが椅子を再度持ち上げ、壁に何度かぶつけていると人が入れそうな穴が開いた。

 穴から中の様子が少し見え、手術室のような様子に顔をしかめた。


「ここでヒトシは薬を投与されたんだろう。中に何かあるかもしれない。入ってみよう」


 ヨウスケは頷くと穴から中に入り、シュンイチはその後に続いた。



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