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花の島の秘密  作者: ありま氷炎
第四章 目覚め
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ヨウスケの葛藤

 アナンが家に入ると中はしんと静まりかえっていた。


 誰もいないのかしら?それとも寝てる?

 中山っていうお医者さんがいるって聞いていたんだけど。

 ま、いいわ。

 昼食を置いて帰ろう。


 そう思ってアナンが台所にお盆を置いて帰ろうとすると、ふとドアの開いている部屋が目に入った。中からベッドのフレームが見え、アナンは何かに惹かれるようにその部屋に入った。

 ベッドには花村マサシが横になっていた。頭には大きなガーゼが貼られており、服で覆われていない首や手は包帯で巻かれていた。


 柔らかなそうな長い茶色の髪が、その横顔を隠していた。アナンはふと誘われるようにその髪に触れ、顔がよく見えるようにかき分けた。

 現われた顔は息子と同じ美しい顔だった。


 本当、なんてきれいな顔なんだろう。

 男の人なのに……。


「!」


 私ったら。


 アナンはマサシの顔に見とれた自分に気付くと首を振って部屋を出ようとした。するとカタンと手が何かに触れた。見るとそれは木製の机の上に置かれた写真だった。そこにはヒトシによく似た髪の長い少年と同じ歳くらいの女性が映っていた。アナンは思わず写真を手に取った。


 花村くん?

 ううん、この少年はきっと花村さんね。

 じゃ、多分この人が花村ヒトシくんのお母さんなのかしら。


 写真の中の仲良そうな二人を見ながらアナンはそう思った。


 メグミさんの時のようにきっとこの人も花村くんを産んだ後、亡くなったのよね……。


 でもこの人は幸せそうだ。

 笑顔がとても自然で美しい。

 やっぱりこの人も花村の人と結ばれて子供を産んで幸せだったのね。

 メグミさんのように子供が生まれることを楽しみに待っていたのね。


「町田先生……?」


 ふとそう呼ばれ、アナンははっと我に返り慌てて写真を元の位置に戻した。マサシが目を開け横になったままアナンを見ていた。


「あ、すみません!勝手に部屋に入ってしまって。マコさんに昼食を届けるように言われて」


 しどろもどろにそう言うアナンにマサシは苦笑した。


「じゃ、私、こっちに昼食運びますね」


 アナンは急いで部屋を出て、台所に置いてきたお盆を掴み、部屋に戻る。部屋ではマサシがベッドフレームを背にベッドから体を起していた。アナンは自分に美しい微笑を向けるマサシを眩しく感じながら、その前にお盆を置いた。


「すみません。ありがとうございます。早速いただきますね」

「じゃ、私はこれで」


 マサシが食べ始めたので、アナンはもう大丈夫かと部屋を出ようとした。


「待ってください」


 だがマサシが呼び止める。その瞳は銀色に輝き、請うように見ていた。


「ご飯食べ終わるまで一緒にいてくれませんか?」

「……いいですけど」


 アナンは囚われそうになる自分を意識しながらも、頷いて近くの椅子に腰かけた。




「待たせたな」


 シュンイチは車に寄りかかり、煙草を吸っている息子ヨウスケにそう声をかけた。ヨウスケは何も答えず煙草を地面に捨てると足でもみ消した。


「足は大丈夫なのか?」

「父さんの傷と違って俺はかすり傷だ。中山さんも問題ないって言っていただろう?」


 ヨウスケはそう答えると運転席に乗り込んだ。シュンイチの撃たれた腕はまだ回復しておらず、ハンドルが握れなかった。青井の家に行くと伝えるとヨウスケは自分が運転すると言ってきかなかった。中山の言葉もありシュンイチはヨウスケに運転を頼むことにした。


「父さん、ヒトシについて何か情報があったのか?」


 ヨウスケは父シュンイチが助手席に座り、ドアを閉めたのを確認すると車を出す。

 ハンドルを動かしながらシュンイチを横目で見た。


「何も……。東守も西守もまだ何もつかめてないようだ」

「そうか……」


 父の答えにヨウスケは視線を父から前に向けた。


「父さん、ヒトシはあと1カ月少しの命だそうだ」


 ふいにヨウスケが眉をひそめて言葉を漏らす。シュンイチは驚いてヨウスケの横顔を見つめた。


「青井の奴の薬のせいで、命が縮まった。早くヒトシを見つけないと手遅れになる。俺はヒトシを助けたい!なんとしても」


 ヨウスケは拳を握るとハンドルを叩いた。シュンイチは何も答えなかった。その言葉はシュンイチへというよりもヨウスケ自身に言ってるように感じたからだった。


 ヒトシを助けるということは町田アナンを犠牲にするということだ。シュンイチはヨウスケの様子にヨウスケがそのことを決意したように感じていた。


 しかしお前にできるのか?

 町田アナンになんらかの感情をいただくお前に彼女を死に追いやるようなことができるのか?


 シュンイチは息子の心情を思ったが言葉に出して問わなかった。ただ唇をかみ締め運転する息子を一瞥すると視線を窓の外へ向けた。


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