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花の島の秘密  作者: ありま氷炎
第四章 目覚め
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野中マユミ

「お久しぶりね。マコさん、どうぞ入って」


 穏やかな笑顔で迎えたのは野中マユミだった。ヒトミによく似た美しい顔立ちだったが、年を重ねているせいかヒトミのような派手な美しさというよりも地味なものだった。


 ヒトシが青井ノゾム達に連れ去られて2日が過ぎた。この2日間、ヒトシの行方について全く情報が得られてなかった。そこでノゾムと一緒にいるはずのヒトミの行方について母親のマユミであれば何か知っているかもしれないと野中家に北守マコは来ていた。


「マコさんはお茶がいい?コーヒー?」


 マユミはマコを木製の長い椅子と長方形のガラス作りのテーブルが置いてある場所に案内する。


「私はお茶でいいわ。ありがとう」


 マコの答えに微笑を浮かべるとマユミは台所へ向かった。

 案内された場所は玄関から真っ直ぐ入ったところにあり、大きな窓の側にあった。白いカーテンにより太陽のまばゆい光は遮られ、温かい光だけが部屋の中に入ってきていた。

 マコは穏やかな雰囲気にほっと胸をなでおろした。

 ここにいると今起きていることが夢のように感じられた。

 かすり傷だが足を負傷した息子のヨウスケ、暴走した息子ヒトシによって重傷を負ったマサシ、そして幼馴染の南守アキオに撃たれた夫のシュンイチ……。

 数週間までは想像できなかった出来事が次々と起きていた。

 そしてそれは36年前のことが起因している……。

 マコはため息をつくと天井を見上げた。大きな羽のついた扇風機が天井でゆっくりと回っていた。


 この家は何も変わらないわね

 最後に来たのはいつだったかしら……。


 野中マユミは実家が南守家なので守家の秘密のことを小さい時からしっている。会合にも参加することがあった。しかし夫のヨシタカはそれを嫌がっていた。

 それはマユミが時たま起こす精神障害が36年前の出来事、守家や花村家に起因することだと感じていたからだった。

 36年前、マユミが突然1年ほど休学し、3年生の花村タカシが自殺した。タケシの傲慢な性格は学校では周知の事実でその男が自殺なんて考えられなかった。だからヨシタカは守家を胡散臭いと思っており、マユミが実家に関わることに嫌な顔を見せていた。


「おまたせしたわね」


 お盆に急須と湯呑、お茶菓子をのせてマユミがやってきた。お茶菓子をマコの前に置き、急須から湯呑にお茶を注ぐ。お盆を椅子の横に置くとマユミはマコに向かい合う形で腰を降ろした。


「久しぶりね。この間会ったのはいつの会合だったかしら」


 マユミは湯呑のお茶を美味しそうに飲む。


「そうね……」


 マコは湯呑に手を添えながら、話をどう切り出すが考えていた。

 一度だけマコは精神障害を起こしたマユミを見たことがあった。それは15歳のときに記憶が戻るようで青井メグミのことを聞かれヒヤリとしたことがあった。しばらくすると元に戻るようだが本人は覚えていなかった。しかし、ヒトシの行方がまったくわからない今、知ってる可能性のあるマユミに聞くしかなかった。


「マユミちゃん、ヒトミちゃんが学校に来てないみたいだけどどうしたの?うちのヨウスケが心配してたんだけど」


 マコはお茶を一口飲むとそう切り出した。マユミは一瞬驚いたような表情をした後、顔を険しくした。


「あの子、また無断で仕事休んでるのね。しょうがないわね。島の学校だからと言ってもそのうち首になるわよね。あの子は今オーストラリアにいるはずよ。なんでも友達の結婚式があるとかで。まったく学校に連絡してないなんて、信じられないわ!」


 マユミはばんと湯呑をテーブルの上に置いた。


「マコさん、本当にヒトミは学校に連絡してないの?」

「え、あ。ヨウスケが知らないだけかもしれないわね。私はヨウスケから聞いただけだから」


 マコはマユミの心配げな様子に慌ててそう答えた。マユミはヒトミが今していることを本当に知らないようだった。マコはこれ以上のことはマユミから聞けないだろうと、話を別のことに切り替えた。




「本当ですか?マサシさん」


 ヨウスケはマサシの言葉に目を見開いた。

 それは信じられない話だった。


「ええ。だから、早く見つけないと」


 マサシはベッドから無理やり起き上がったが、痛みで顔をしかめ、胸を抑える。


「神主さん、その傷じゃあと数日は動くんじゃない」


 部屋に入ってきた中山は体を起こしたマサシを叱り飛ばしながら無理やりにベッドに戻した。


「でも早く見つけないと!」

「マサシさん、マサシさんは外ではヒトシに気を探れないですよね?闇雲に探しても時間の無駄です。俺が代わりに探してきます。今守家が行方を追っているし、俺は父さんと青井の家に行くつもりです。何か手掛かりをつかめるかもしれない」

「じゃ、私も!」

「だから、その傷じゃ無理だ!」


 再度ベッドから体を起こそうとするマサシを中山が抑えつけた。


「マサシさん。心配しないでください。俺が必ずヒトシを見つけます。まずは体を治してください」


 ヨウスケは笑顔を見せ部屋を出た。


 ヨウスケは花村家の玄関を出ながらマサシの話を思い出していた。

 青井ノゾムがヒトシにしたことを考え、はらわたが煮えくりかえりそうになっていた。


 ノゾムがヒトシに与えた薬によって、ヒトシの花村の力が解放された。同時にそれはヒトシの命を削るものだった。力を解放するということは花村の力をフルに使うと言うことだった。マサシのように運命の女性と交わり延命しているものにはさほど力を解放しても影響はないが、ヒトシのように延命していない場合、命を縮めることを意味していた。


 やっぱり血を舐めるくらいでは効かなかったんだな。


 そのことはヒトシに町田アナンの血を舐めさせて、延命させようとしたことが失敗したことをも意味していた。


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