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花の島の秘密  作者: ありま氷炎
第三章 過去の因縁
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ノゾムの狙い

 ヒトシは島の端の桟橋近くに飛んできていた。


「花村くん!お願い放して!」


 腕の中のアナンは逃げ出そうとさっきから抵抗していた。


「アナン、もうあきらめなよ。ね?」


 ヒトシはそう言ってアナンを見つめたがその抵抗は止まなかった。

 アナンは怖かった。

 多分囚われた最後、もう逃げられないと思っていた。


「ちっ、追ってきたか」


 ヒトシは舌打ちをすると眼下を見下ろした。マサシとヨウスケの姿が見えた。


「北守!花村さん!」


 アナンは二人の姿を確認し、安堵した。

 助かるかもしれない‥


「アナン、ちょっとごめん」


 ヒトシはアナンに囁くと頚動脈あたり手刀で叩いた。するとアナンは気を失い、その体をヒトシに預けた。


「未来の妻に乱暴なことはしたくなかったけど。しょうがないよな」


 ヒトシはアナンを肩に担ぐとマサシとヨウスケのいる場所へ降り立った。


「どうしてもアナンを返してほしいみたいだな」


 ヒトシは銀色の目を光らせて二人を睨んだ。


「ヒトシ、お前。おかしいぞ!目を覚ませ!」


 ヨウスケはヒトシの様子にそう言わずにはいられなかった。母マコを攻撃するなんて信じられなかった。


「ふん。俺は本来の花村の姿になっただけだ。力が解放され今最高にいい気分だ」

「解放?力?」


 ヨウスケが愕然としている横で、マサシはノゾムがヒトシに何をしたのかわかった。

 花村の力は右脳と左脳の間にある第3の目とも呼ばれる松果体を使って発揮される。青井はこの松果体を刺激する薬をヒトシに注入し、花村の力を解放したに違いなかった。しかしこれはまだ運命の女性と交わり延命していないヒトシにはリスクを伴うものだった。


「ヒトシ!力を使うんじゃない。力を使えばお前の命を削ることになる!」

「なに?」


 マサシの言葉にヒトシは顔を歪めた。しかしすぐに表情を切り替えた。


「そんなわけがない。父さんはアナンを俺に渡したくないだけだ!」


 ヒトシはマサシに力を放った。マサシは両手を前に出し、それを弾き飛ばす。光は夜が明けようとしている藍色の空に消えた。


「ヨウスケくん、私がヒトシの注意を引くからその間に町田先生を」

「わかりました」


 ヨウスケは様子のおかしいヒトシが心配だった。しかし同時に泣きじゃくって自分に助けを求めたアナンをそんなヒトシに引き渡すわけにはいかないとも思う。


「ヒトシ!」


 マサシはそう呼ぶと光の球をヒトシに投げ、同時に跳んだ。ヒトシは光を片手で弾いたが、自分に向かってきたマサシの攻撃に遅れをとった。繰り出される拳を避けられず、ヒトシの体が宙を舞う。 その瞬間その腕からアナンの体が離れた。


「ヨウスケくん!」

「させるか!」


 ヒトシはアナンを掴もうとするヨウスケに光の球を投げようとした。しかしマサシがそれを止める。ヒトシは舌打ちすると自分の腕を掴んだマサシの腕を払った。そしてアナンをその腕に抱きとめたヨウスケを睨みつけた。


「どいつもこいつも邪魔しやがって!」


 ヒトシはそう叫ぶと両手をヨウスケに向けた。


「食らえ!」


 まぶしい光が放たれた。ヨウスケはとっさにアナンをかばう。しかし光は二人に当たることはなかった。マサシが二人の前に立ち、その光を防いでいた。


「マサシさん!」


 マサシの体が地面を削って数メートル飛ばされた。そしてその体は街路樹にぶつかって止まった。


「父さん。また邪魔しやがって」


 ヒトシは忌々しそうに言葉は吐いたが、その後に薄笑いを浮かべる。


「今度は防げないよな」


 ヒトシは光の球を作り出した。それは手の平の上でどんどん大きくなっていく。


「ごほっつ」


 しかし不意に咳き込む音がしたかと思うとヒトシがかがみこんだ。光の球が消え、口を押さえた手から真っ赤な血が流れ落ちた。地面に落ちた血が血だまりを作る。


「何で?いったい?」


 ヒトシはそうつぶやくとその場に倒れた。


「ヒトシ!」


 マサシがヒトシに駆け寄ろうとすると銃弾がマサシの顔をかすった。


「なーんだ。こんなものなのね」


 そう声がしてヒトシの後ろにヒトミが姿を現した。その隣には銃を構えた南守アキオがいた。


「まあ、初めはこんなところでいいかしら?ねぇ。ノゾム?」


 ヒトミが振り向くとノゾムが車から顔を覗かせる。


「そうだね。後はヒトシくんを連れて帰って、もう少し研究する必要があるかもね」

「なんだと!」


 その言葉にヨウスケが拳を握りしめ、ノゾムを睨みつけた。

 マサシは力を使うために手の平を向けた。


「いいの?」


 そう声がして、カチャと音がした。ヒトミが地面に伏せるヒトシの頭に銃口を当てていた。


「私が引き金引くのと、あなたの力が私に届くのはどっちが早いかしら?」


 ヒトミはマサシを見つめ妖艶な笑みを浮かべた。ノゾムは後部座席から運転席に移動すると車をヒトシとアキオの側に横づけた。


「じゃあ、またね。マサシくんに北守さんの息子さん」


 ノゾムは運転席の窓から軽く手を振る。

 ヨウスケは悔しそうに唇を噛み、マサシは拳を握りしめた。

 銃口がヒトシの頭に当たられている以上、動きが取れなかった。アキオはすばやくヒトシを抱き上げ、ヒトミは銃口をヒトシの頭に押し付けたまま車の後部座席に潜り込んだ。そしてアキオがヒトシの体と一緒に車に乗り込む。


「そうはさせない!」


 走り去ろうとする車をマサシは追おうとしたが、すぐにその場に座り込んだ。2度もヒトシの力をまともにうけ、体が思った以上にダメージを受けていた。


「くそっつ、ヒトシ!」


 ヨウスケはアナンを地面に降ろすと車を追った。しかし窓から放れた銃弾によりヨウスケは足止めされた。


「つっつ」


 太ももを掠めた銃弾はヨウスケの動きを止めるには十分だった。


「畜生!ヒトシ!」


 ヨウスケは出血する太ももを抑えながら、視界から消えゆく車に向かって叫んだ。


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