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花の島の秘密  作者: ありま氷炎
第三章 過去の因縁
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ヒトシの覚醒

「鉄砲傷かあ」


 眼鏡をかけたぼさぼさ頭の男がマサシの家にたどりついたのは午前4時だった。男は中山といい、4-5年前から島に住んでいる医師だった。医師免許を持っているか定かではないが、腕は確かだった。


「これはマコさんが見たらびっくりするな」


 中山は乱暴にシュンイチの腕を掴んで傷を診ている。


「そっちの坊主は大丈夫だ。脈もしっかししてる。しかし、その注射の痕は気になるがな」


 シュンイチはマコたちに心配かけないため、マサシの家で治療することにしていた。マサシは中山の言葉は少しほっとして部屋で休ませるためにヒトシの体を担いだ。


「おう、別嬪神主さん。坊主を運んだら熱いお湯を用意してくれ」


 中山の言葉に苦笑しながらマサシは頷き、2階へ上がっていく。


「神主さんと鉄砲傷かあ。事件の匂いがするな」


 中山は持ってきた医療道具を広げながら訝しげだが、それ以上詮索する様子はなかった。


「痛むからな。麻酔は持ってきてないからやらないぜ」






「ノゾム。薬は何時間くらいで効きそうなの」


 ヒトミは隣で車窓から外を見ている青井ノゾムに聞いた。


「2-3時間で効き目が出ると思うよ」


 ノゾムは細い目をますます細くして微笑んだ。


「2-3時間ね。待ち遠しいわ。ヒトシの服につけた発信機も見つかっていないようだし。これから何が起きるか楽しみだわ」


 ヒトミは鞄から電話を取り出した。

 画面には地図が表示され、光が点滅している。画面を操作すると地図が詳細なものになった。


「島に帰ったみたいね。さあて、何が起きるのかしら?」


 車を走らせながらアキオはヒトミが楽しそうにそう笑うのをバックミラーから見ていた。

 雨が再び降り始めた。アキオは火のついた煙草を口にくわえるとハンドルから右手を離してワイパーを動かした。



 花村マサシは息子のヒトシをベッドにゆっくりと寝かせた。疲労のためか身じろぎすらしなかった。しかし規則的な呼吸が聞こえマサシはほっとして近くの椅子に腰掛けた。そして自分と同じ柔らかな髪の毛を撫でた。


「町田先生……」


 ふいにヒトシがそうつぶやいた。マサシは目を細めた。


 やはり好きになってしまったか。そのために危険を冒した。父も自分もその血から逃れられなかった。運命の女性が放つかぐわしい香り、それは自分達花村家をとらえてしまう。


「神主さん!お湯!」


 中山がそう呼ぶ声がしてマサシはふと我に返った。

 傷の治療のため中山に熱い湯を頼まれたことを思い出し、マサシは慌てて部屋を出た。




 目覚めたとき傍にいたのは父だった。

 心配そうな父の顔が安堵の表情を浮かべるのを見た。


 父さん。


 ヒトシは父がどれだけ自分を愛しているか知っていた。しかし、町田アナンを譲るわけにはいかなかった。


 アナンが欲しかった。

 この腕に抱きしめたかった。


 力が欲しいか?

 父に負けない力が?


 真っ暗な空間にヒトシはいた。声はそう聞いてきた。


 あんた誰だ?


 ヒトシは自分に呼びかける声にそう答えた。

 笑い声と共にそれは姿を見せた。


 自分?


「俺は花村の力だ。力を解放してやろう」


 自分の同じ顔のそれは不気味に笑っている。


「お前の父はまだ花村の力の真髄を知らない。お前の力、俺が解放してやろう。解放された力は父親など遥かに超える力だ。どうだ?」


 父を超える力。

 アナンを父から奪える力。


 欲しい……


 それは何も答えないヒトシに向かって手を差し出した。


「行こう。俺が力を解放してやろう」


 ヒトシは一瞬だけ躊躇したが、その手を掴んだ。

 そのとたん、闇が消え、光に包まれるのが分かった。



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