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花の島の秘密  作者: ありま氷炎
第三章 過去の因縁
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ヒトシ奪還1

「ここだ」


 シュンイチは車を止める。

 雨は小降りになっていて、二人は小走りに手入れのされていない庭を抜け、玄関までたどり着いた。

 明かりはついておらず、シュンイチは静かにノブに手をかける。当然ながら鍵が掛かっていた。


「シュンイチさん。ちょっとどいてください」


 マサシは手の平をノブに向けた。軽い爆発音がしてノブが壊れた。


「すごいな」


 シュンイチはマサシの力に目を細めた。マサシは何も言わずドアを押した。ドアが音を立てて開く。

 シュンイチから36年前の話を聞き、マサシは如何に自分達一族が非道なのか、守家が青井家にしたことを考え、愕然とした。しかし、ヒトシには何も罪はない。母の弟に復讐のため、その名声のために利用させるわけにはいかなかった。


「誰もいないようだな」


 家の部屋という部屋を見渡してシュンイチはそう結論づけた。

 それを聞きながらもマサシは家の雰囲気に不釣合いなテレビに触れた。ブラウン管がまだ温かい。


「シュンイチさん、まだ近くにいるかもしれません」


 マサシは玄関を抜け、宙に飛び上がった。しかし小雨の降る中、肉眼で見下ろすが視界が暗くわからなかった。


「どうだ?見つかったか?」


 降りてきたマサシにシュンイチは聞いたがマサシは首を横に振った。水滴が髪の毛から飛び散る。


「もしかしたら地下室があるかもしれないな。入り口があるか探してみよう」


 シュンイチはハンカチを取り出してマサシに渡すと家の壁や床を調べ始めた。マサシは渡されたハンカチで頭を拭きながらその後を追った。




 目を開けると数メートル先にベッドがあり、横になっているはアナンで近くには父マサシの姿があった。

 マサシはアナンの頬を優しく撫でるとその唇に自分の唇を重ねた。アナンはじっとマサシを陶酔してるかのように見つめていた。マサシは唇から離れると今度はその胸に顔を当てた。


「父さん!」


 ヒトシがそう叫ぶとマサシは振り向き、手の平から力を発した。ヒトシは避け切れず吹き飛ばれる。気を失う瞬間、ヒトシはマサシがアナンに体を重ねるのを見た。


「!」


 再び目を開けるとそこは手術室のようだった。眩しい光が目に刺さる。しかし思考はそこで止まった。抗えない睡魔が襲ってきた。ヒトシは再び目を閉じた。



 北守……、マサシ……

 嗅ぎ付けてきたか……


 南守アキオは防犯カメラの画面を見ていた。ヒトシを眠らせてから、調べたいことがあると地下の研究室に来ていた。

 上の階に設置したカメラからシュンイチとマサシ二人の様子が見て取れた。地下室への扉は比較的に分かりやすい場所にあったので、見つかるのも時間の問題だと思われた。


「ヒトミ。北守とマサシが来たぞ」


 アキオは後ろの壁に設置してあるインターフォンから野中ヒトミに呼び掛けた。


「もう少しで終わるの。伯父さん、ちょっと引きとめてて」


 ヒトミがそう返事をして、アキオはため息をついた。シュンイチはまだいいとして、マサシを止めることなど無理な注文だった。


 これを使うしかないか……。


 アキオを机の上に置いてある拳銃を見つめると、安全装置を解除して懐に入れた。



 しばらくして破壊音が聞こえた。


「来たか……」


 スライドドアが開いて、シュンイチとマサシが現れた。


「南守、青井たちはどこだ?」


 シュンイチは開口一番にそう尋ねる。


「ヒトシはどこにいるんですか?」


 その隣でマサシはその瞳を銀色に輝かせてアキオを睨んでいた。普段のマサシからは考えられない気迫だった。アキオはその瞳に36年前に見たタケシの瞳を重ね、顔を歪める。


「答えるつもりはない」

「南守。こんなことしてどうするつもりだ。メグミは帰ってこないんだぞ。お前は利用されてるだけだ」


 シュンイチの言葉にアキオは皮肉な笑みを浮かべただけだった。


「アキオさん、もう一度聞きます。ヒトシはどこです?」


 マサシはそんなアキオを銀色の瞳で威嚇し、再度そう尋ねた。その髪は怒りのためか風も吹いていないのに宙を舞っていた。アキオは見たこともないマサシの様子につばを飲み込んだが、答えるつもりはなかった。


「南守!」


 アキオは懐から拳銃を取り出すとマサシに向けた。

 シュンイチはアキオの行動に驚くしかなかった。アキオがタケシを憎んでいるのは知っていたが赤子のころから知っているマサシに銃を向けるとは思わなかったからだ。


「っつ!」


 アキオの声がしたかと思うと、手から拳銃が離れ宙を舞う。それは乾いた音が立てて床に落ちた。


「無駄です」


 マサシは彼を射殺すような視線を固定したままであり、アキオは目に見えないボールのようなもので打たれた手を擦りながら、マサシを睨み返した。


「自分で探すしかないようですね」


 マサシは銀色の目をアキオからその背後の壁に向けると、手の平をその壁に向ける。


「破壊するつもりか。下手したらお前達も生き埋めだぞ」


 アキオの言葉にマサシは目を細めただけで何も言わなかった。

 手の平に力をこめる。眩しい光がその手に集まる。しかし力が放たれることはなかった。


「これはこれは、花村マサシくんですね。そして、北守さん。ようこそ」


 柔らかい声が聞こえ、アキオの後ろの壁が動く。

 白衣を羽織ったノゾムとヒトミが現われ、その白衣についた血痕にマサシは顔を強張らせた。


「……ヒトシに何をしたんだ?」


 彼は目を細め、空気が凍りつきそうな冷たい声を出した。


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