36年前のこと3
「メグミ……」
花村タケシは名前を呼びながらそのやわらかい唇に自分の唇を重ねた。
少女だった。
まだ子供だった。
でもタケシは強引に抱いた。
腕の中のメグミはぐったりとしてタケシに体を預けている。
「すまない」
タケシはメグミをそっと布団の上に寝かせると、掛け布団をかけた。
それからシャツを羽織り、部屋をでた。
メグミは南守家に預けられていた。
東守マコに無理やり頼んで連れてきてもらった。
まだ少女だった。
しかしタケシは欲望のまま抱いてしまった。
後悔と罪悪感がよぎる。
花村家がずっとやってきたことを自分もしただけた。そう自分に語りかけるが罪悪感は拭えなかった。
まだ少女だった。
「貴様!」
アキオは鬼のような形相をしてタケシを睨みつけた。
メグミを家で預かることになり、アキオはタケシをメグミの近づけないように気をつけていた。
しかし昨晩、ことは起きてしまった。
怒りはマコに、そしてタケシに向いた。
「!」
アキオがタケシを殴りつけようと拳を向けたが、不思議な力で吹き飛ばされた。壁に激突して口の中が切れたのがわかった。
「ちくしょう!」
再度殴りかかろうとしたが、マコが止めに入った。
「ふん。運命の女なんてものは俺達花村に抱かれるために存在するんだ。お前も守家の一員ならわかってるだろう?」
「くそ!」
アキオはタケシの言葉に激昂して目の前のマコを腕で押しのけると殴りかかった。
「無駄だ」
タケシは薄笑いを浮かべると力を使った。アキオの体が再び壁に激突する。
「お前ら守家は黙って花村家に仕えればいいんだ。わかったな。マコ、行くぞ」
タケシはアキオを一瞥すると背を向けた。アキオはその背中を見ながら気が遠くなるのがわかった。
「今だ。行くぞ」
そう小声で言うとアキオはメグミの手を掴み、走り出した。
島から脱走させる気だった。
もう遅いかもしれない。
でもこの島で花村に遊ばれながら死を待つよりは外で自由に暮らさせたかった。
「南守!」
そう声がして目の前にシュンイチが現れた。アキオはほっとして胸をなでおろした。親達に気づかれないようにシュンイチに船の手配を頼んだ。
「すまない。俺は守家を裏切れない」
シュンイチの声がそう聞こえたかと思うとライトがアキオとメグミに向けられた。
目を凝らして見ると、シュンイチの後ろに親たちの姿があった。
それからアキオとマユミには監視が付けられた。アキオがメグミに会うことは2度となかった。
9ヶ月、子供が生まれた。
そしてメグミは死んだ。
1週間後、マコに言葉を残し、タケシが首をつって死んだ。
二人の間に愛や恋があったのかわからなかったが、タケシが死んだことで少なくてもタケシはメグミを愛していたのだろうということがわかった。




