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花の島の秘密  作者: ありま氷炎
二章 届かぬ思い
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ヒトシの悪だくみ

 翌日、ヒトシはめずらしくヨウスケの車に乗っていた。しかし車内でヒトシが話しすることはなかった。ヨウスケもアナンもヒトシの様子を訝しげに思ったが何も聞かず、学校に到着した。


「マモル。お前に頼みがあるんだけど……」


 教室に入って田原マモルの姿を見つけるとヒトシはそう話を切り出した。


『先生を襲うなよな』

 それはアナンを呼び出すようにマモルに頼んだ時に言われた言葉だった。


 ヒトシはその言葉を思い出し苦笑する。

 呼び出した場所は新校舎の音楽室だった。通常授業は本校舎で行われ、音楽の授業や実験など特別な授業の際にだけ、新校舎は利用されていた。この時間は授業が新校舎でないことがわかっていた。音楽室は防音されていたので、他の教室で授業があっとしても多少の物音では気づかれないはずだった。


(確かヨウスケは今二年の授業を本校舎でしてるはずだ。だから気づかれるはずがない)


「田原くん?」


 窺うような声がした。


 町田先生だ。


 ヒトシは嬉しくなって振り向いた。


「花村くん……なんで?」


 アナンはそこにいたのがマモルではなく、ヒトシだったのに驚きを隠せない様子だった。


「呼び出してもらったんだ」


 ヒトシはにこやかに微笑むと腰掛けていた机から降りた。アナンは顔を強張らせながら後ずさる。ヒトシはアナンの後ろのドアにすばやく回り込み、ドアを閉め、鍵をかけた。

 アナンは人間わざではないスピードにますます顔を強張らせた。


「驚いた?これが俺の力。花村家の力なんだ」


 音楽室のカーテンは閉められ、室内は真っ暗だった。ヒトシの銀色の瞳が輝いていた。アナンは視線を床に落とした。


「町田先先。俺を見てよ。俺は先生が好きなんだ」

「……それは違うわ」


 アナンは視線を落したままそう言った。


「花村くん、それは血のせいなの。好きという感情とは別物よ。だから、こういうのはやめて」


 アナンは後ずさりドアを背にした。鍵を開けようと手を動かす。


「どうでもいい。そんなこと。俺は先生が欲しい」


 ヒトシはアナンに近づくとその頬を掴み、強引にキスをした。アナンは手を突っ張って抵抗を試みるがだめだった。頭の中が蕩ける様な気持ちになる。銀の目がアナンを呪縛にかけた。


(だめだ……)


 アナンは抵抗をするのをやめ、ヒトシにその体を預けた。


 体の感覚がなくなり、思考が止まる。


「ほら、先生も気持ちいいんだろう?」

 

ヒトシの笑顔がアナンをとらえる。


「ヒトシ!」


 ふと声がして、背の高い男が現れた。


「……父さん」


 音楽室に現れた男はマサシで、ヒトシは驚きで目を見開く。


「なんで、ここに」

「町田先生を離しなさい」


 マサシは瞳を銀色に輝かせてそう言った。


「嫌だ。先生は俺がもらう。父さんには渡さない」


 ヒトシは断言するとアナンを抱いたまま、その場から消える。


「ヒトシ!」


 マサシは目を閉じてヒトシとアナンの気を追うとヒトシと同じようにその場から煙のように消えた。



 バキバキっと音がして衝撃があった。

 アナンはヒトシの腕に抱かれている自分に気がついた。

 周りを見ると森の中にいるのがわかった。


(私なんで?)


 ヒトシは気を失っていた。腕や顔にかすり傷を負っていた。周りには折れた枝が落ちていた。見上げると森の一部に穴があいたように、そこだけ緑がなくなっていた。上から落ちて来たようだった。


「花村くん、花村くん?」


 呼び掛けたがヒトシが目を開けることはなかった。


「疲労でしょう」


 そんな声がふいに聞こえた。振り返るとマサシがその瞳を銀色に輝かせて立っていた。神主の装束が揺れ、髪が舞を舞うようにそよいでいた。

 アナンはマサシの美しい姿に目を奪われた。

 彼は微笑を浮かべながらアナンに近づくと、その頬に触れた。

 銀の瞳に囚われる。

 唇が触れようとした瞬間、マサシは眉をひそめて、唇をかみ締めた。そして視線をアナンから逸らし、ヒトシの側に腰を降ろした。


「何があったんでしょうか?」


 アナンははっと我に返ってそう尋ねた。音楽室でヒトシにキスをされたのは覚えていた。しかしそれから記憶があいまいだった。


「ヒトシが悪いことをしてしまいましたね。花村家の血のせいです。すみません」


 どこにそんな力があるのか、マサシはヒトシの体を軽々と抱き上げる。


「とりあえずあなたを先に学校に送ります。それからヒトシを家に連れて帰ります」


 マサシはヒトシの体を肩に担ぐと、アナンに手を差し出した。


「私の手を掴んで下さい。学校に飛びます」


 アナンは戸惑いながらもマサシの手を掴んだ。すると彼は微笑みを浮かべ、手を握り返す。


「行きます」


 声がしたかと思うとふわりと体が浮くような感覚がした。突風が吹き、目が開けていられず閉じた。そして風が止むのがわかり、目を開けるとそこはもとの音楽室だった。


「じゃ、町田先生。また」


 マサシはアナンの手を離すと微笑みを浮かべたまま、空気のようにその場から消えた。


「何なの一体……」


 アナンが茫然としていると音楽室のドアが開かれた。


「先生!」


 マモルが心配して見に来たようだった。

 しかしアナンが1人でそこにいるのを見て訝しげな表情を浮かべた。


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