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花の島の秘密  作者: ありま氷炎
二章 届かぬ思い
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南守の企み

「はい、町田先生。片手で不便でしょうから、私がつけますよ」


 奥の部屋から戻ってきたマサシがそう言って笑いかけた。

 ヒトシに似た美しい笑顔だった。


「あ、ありがとうございます」


 アナンが手を出すとマサシが優しく手に触れる。人差し指に絆創膏がつけやすいように手の平を広げた。

 手が触れるたびに胸がどきどきして、あの銀色の瞳に見つめられていると思うと顔が赤くなる。

なので視線を手に向けたまま、マサシの顔が見られなかった。

 そんなアナンの様子をヒトシは鋭い目で観察していた。



「おい。町田。お前マサシさんのことが好きなのか?」


 ヨウスケの家に戻り、部屋に戻ろうとしたらヨウスケにそう聞かれた。


「何よ。突然。そんなわけないでしょ。私はそれどころじゃないの。早く島を出たいんだから」

「そうか。それならいいけど。ヒトシを傷つけるなよ。ああ見えて結構純粋だから」


 ヨウスケはそう言うと客間の横の風呂場に消えた。


(何なのよ。好きになるわけないじゃないの。だいたい花村くんを傷つけるなってどういう意味なのよ。本当早く島を出て行かないと!警察は何してるんだろう?早くその南守とか野中さんの行方を見つけてくれたらいいのに!)


 アナンは苛立ちながら部屋に戻り、壁に背をつけ座り込む。

 部屋は真っ暗だったが、電気をつける気が起きなかった。

 そして、なぜだか手の指の傷がずきずきと痛んだ。




(町田先生は絶対俺のことを好きにならない)


 ヒトシはその事実に気がついた。

 ヨウスケと仮に付き合ってなかったとしてもアナンはヒトシを選ぶことはしないだろう。もし選ぶとしたら同じ銀の瞳を持つ父マサシに違いない。

 マサシに手当てされているときにアナンの顔は真っ赤だった。


 俺が指を舐めていたときもそうだったけど、父さんの場合、触れただけで町田先生は意識していた。


 『一緒になりたいんでしょ?』

 ヒトミの言葉が頭にずっと引っかかっていた。アナンの甘い唇、さわやかな香りがする髪、柔らかい胸、ヒトシは一度だけ触れたアナンの体の感触を忘れられなかった。


 体が欲してるのか、ヒトシ自身が欲してるのか。

 ヒトシはわからなくなっていた。

 それくらいヒトシはアナンを好きになっていた。



「もしもし。俺だけだけど……」


 その夜、ヒトシは電話を掛けた。


「決心はついた?」


 甘たるい声が携帯電話から聞こえる。


「ああ。でも出産が終わったら解放してくれるんだろうな?」

「もちろんよ」

「もし解放しないと俺の力でめちゃくちゃにするからな」

「分かってるわ。じゃ、明日待ってるわよ」


 そう言って電話が切られ、ヒトシは携帯電話をベッドに置いた。

 そしてベッドを背に床に座り込む。


(どうしても一緒になりたかった。ヨウスケやマサシのいないところで町田先生と二人で一緒に暮らしたかった)



「伯父さん、いよいよ、明日ヒトシが町田アナンを連れてくるわ。準備はいい?」


 ヒトミは部屋の窓際で椅子に腰かけ、グラスに入った赤ワインを煽る南守アキオに聞いた。


「ああ」


 アキオはそう短く答え、グラスの中の赤ワインを飲み干した。


「東守も西守も承諾済みだ。知らぬは北守だけだ」

「シュンイチさんもかわいそうね」


 ヒトミはアキオの側の窓際まで歩くと大きな窓から夜景を見た。大都会ではないのだがそれなりにネオンが輝き綺麗な夜景だった。


「島の歴史は明日で終わりだ」


 アキオは夜景をみながらそう呟いた。


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