アナンの思いつき
「あなたが町田アナンを連れてくれば、アナンが出産しても死なない薬を渡すわ」
ヒトミは車の中でヒトシにそう話をした。
「子供なんていらないでしょ?私が用があるのは子供なの。出産が終わればアナンとあなたは自由に暮らすといいわ。一緒になりたいんでしょ?私が協力してあげるわ」
戸惑うヒトシにヒトミはそう言葉を続けた。
一緒になる。
それは確かにヒトシの願いだった。
あの花火の日に触れたアナンの体の感触とその甘い香りをまだ覚えている。
蕩ける様な心地いい一時だった。
子供なんてどうでもよかった。
ただ誰にも邪魔されず彼女と一緒になりたかった。
でも信じられるのか……。
ヒトシはベッドの上で寝がえりを打って目を閉じた。
頭痛がして体が石のように重く感じた。
ここ連日の瞬間移動で体が疲れていた。
『一緒になりたいんでしょ』
ヒトミの甘い囁きを思い出しながらもヒトシは体が欲するまま眠りに落ちていった。
こんこんっと襖を叩く音がした。
「入っていいか?」
「いいわよ」
アナンがそう言うと襖を開け、ヨウスケが入ってきた。
「何か用?」
ヨウスケは座敷の上で明日の授業の準備をするアナンの前に座った。そしてアナンを見つめた。不覚にもどきどきするのがわかり、アナンは視線を逸らした。
あー頭にくる。
なんでドキドキしないといけないのかしら。
「お前さあ、今日なんか言いかけてただろう。エイズがなんたら……」
「エイズ?ああ、そうそう血のことね」
わざわざそれを聞きにきたのかとアナンはほっと胸をなでおろした。
「エイズって血で感染するんでしょ。セックスで感染するのも体液が混ざるからとか言うじゃない。だから、多分寝なくても血を混ぜるだけで大丈夫じゃないかと思うのよ」
アナンの言葉をヨウスケはじっと聞いていた。黙っているとヨウスケのきれいな顔立ちが良く見えた。
黙っているとかっこいいのになあ。
「俺ってかっこいいとか思ってるんだろう?」
「っつ、違うわよ!」
本当、口を開くと頭にくるわ。この男!
真っ赤になりながらアナンは否定したが、ヨウスケは馬鹿にしたような笑いを浮かべたままだった。
「じゃ、試してみるか」
笑みを浮かべたままそう言ったのでアナンは最初、何を言われたかわからなかった。
「血だよ。血。お前の血をヒトシに舐めてもらおうぜ」
ヨウスケは腰を上げるとアナンに手を差し出した。
「善は急げだ。ヒトシの家にいくぞ」
アナンはヨウスケの手を掴むと立ち上がった。




