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花の島の秘密  作者: ありま氷炎
二章 届かぬ思い
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小さなノート

「私、考えたんだけどさ」


 廊下を歩きながらアナンはヨウスケに話しかける。

 ヨウスケは世界史担当で世界地図を使ったため、3時間目に授業のないアナンに片付けを手伝わせていた。

 

「何だ?」


 あいかわず女性に重い物を持たせていながら、罪悪感なしのヨウスケはそう返事をする。


「あのさ、用は私の血が花村くんに中に入ればいいんでしょ」


 アナンの言葉にヨウスケはぎょっとして足を止めた。そんなこと話されるとは思っていなかったからだ。


「誰も聞いてないわよ」


 アナンはそんなヨウスケにあきれながら言葉を続ける。


「だから私の血を花村くんに舐めてもらえれば事は済むんじゃないかと思うのよ?だって エイズとか血で感染するんでしょ?」

「エイズって……。それはすごい例えだな」


 ヨウスケが再び歩き出しながら苦笑した。


「だって、セックスによる感染って結局そういうことでしょ?」


 アナンは顔を真っ赤にしてヨウスケの背中を睨んだ。


「まあ。そうだけど。ほら着いたぜ。そっちに置いて」


 ヨウスケはそう言うと鍵を取り出し、ドアを開けた。埃っぽい匂いがした。


「中に適当に入れてくれればいいから」

「え?私が?」


 床に降ろした教材を見てアナンは不満そうに声を上げた。アナンの仕事はここまでだと思っていた。


「家賃、家賃」

「わかったわよ」


 アナンはよっこらしょっと教材を担ぐと中に入った。埃がたち、アナンは思わず咳き込む。


「大丈夫か?」


 ヨウスケがそう声をかける。


(そう思うなら自分で入れればいいのに……)


 アナンはそう思いながらも教材を部屋の片隅に置いた。すると床に落ちている埃の被った小さなノートを発見する。自然とそのノートを拾うと部屋の外に出た。


「それはなんだ?」


 ヨウスケはアナンが手に持っている古ぼけたノートを見つめた。


「中に置いてあったの。えーと、誰かの日記?かな」


 アナンはなぜかそのノートが気になって埃を拭き取った。

 表紙に名前が書いてあるのがわかった。


「青井メグミ?」


 ヨウスケはその名前を聞いて顔を強張らせた。


「知ってる人?だれ?」


 アナンはヨウスケの様子を訝しげに見た。ヨウスケは一瞬考えた後、覚悟したように息を吐く。それから口を開いた。


「……ヒトシの祖母だ」




「あんたは!」


 ユミが連れてきた場所に待っていたのは野中ヒトミだった。


「はあい。お久!元気だった?」

「どうしてここに?どうやって?」

「ふふっつ。私には味方がいっぱいいるのよ」


 ヒトミはそう言って妖艶に笑った。


「ユミ、ありがとう。もういいわ」


 ヒトミはユミにお金を渡した。それを見てヒトシは目を細める。


「お前も仲間だったのか?」

「ごめんね。ヒトシ。私、お金が必要なの。あなたを連れてくれれば二万円くれるっていうから」


 ユミは申し訳なさそうな顔をしながらもヒトシの頬に軽くキスをすると嬉しそうに街へ出かけた。


「さあ。ヒトシ、話しましょ。いい話よ」


 そう言って手を差し出すヒトミを一瞬睨んだが、ヒトシは素直にその手を取った。


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