もたらされた情報
「先生、今日俺の家でご飯食べない?」
アナンが車に乗り込むと助手席から顔をのぞかせてヒトシはそう聞いた。
かわいらしい顔だった。
(でも今日ディープなキスしてたわよねぇ)
アナンはそんなこと思いながらも視線を合わさないようにして注意して、ヨウスケに話を振る。
「う~ん。北守はどうするの?」
「俺か?俺は……」
今日は守家の会合のため、夕飯は自分で食べることになっていた。それならヒトシの家でと思ったが、ヒトシの鋭い目を見てやめる。
「俺は今日は用があるから」
「それなら。私も行かないわ。ごめんね。花村くん」
アナンの言葉を聞くとヒトシががっかりしたのがわかった。しかし彼女はヨウスケなしで花村家に行きたくなかった。ヒトシと二人っきりになれば、あの銀の瞳にまた囚われてしまうのがわかっていたからだった。
「じゃ、先生また明日」
「うん、明日ね」
元気のないヒトシに罪悪感を覚えながらも笑顔で手をふり、アナンはヨウスケについて家に入る。
ヒトシはアナンの背中をじっと見つめた後、自分の家の玄関のドアを開けた。
「おい。町田。お前、もう少しヒトシに優しくできないのか?」
家に戻り、風呂をあがったところで、居間にいたヨウスケに詰られる。
「何よ。突然。優しくって。私は十分優しいつもりだけど」
「…確かに俺に対するよりは優しいけど、さっきみたいに夕飯を一緒にしたりできないのか?」
「冗談!私はまだ死にたくないの。あんたからすれば私が花村くんと寝たら万々歳だろうけど、私はそんなボランティア精神はもってないの。早く島に出たいの。だからごめん」
アナンはそう捲し立てると逃げるように部屋に戻る。
ヨウスケはため息をつくと冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出し、二階へあがっていった。
(何なのよ!北守の奴~~。きっと二人っきりにして、私と花村くんが寝る事、期待してるんだわ!だって最初からそうさせる気がだったもの!だれが思い通りにさせるものですか。私はまだ死にたくない。やりたいことがまだたくさんあるんだから!)
「……もしもし」
夜中ふいに電話がなり、反射的にヒトシは電話に出る。
「ごめーん!寝てた?」
電話から聞こえたのは明るい声で、野中ヒトミだった。
「あんた!今どこにいるんだ?!」
ヒトシは問答無用に怒鳴りつける。
「秘密。今日はヒトシに話があるのよ。町田アナンのことで」
「何だ?」
町田アナンと聞き、ヒトシは電話を切ろうとするのをやめた。
「実は町田アナンとヨウスケ、大学のころ付き合っていたことがあるのよね。知ってた?」
「……」
ヒトシは顔をゆがめたが何も答えなかった。
「それで今は一緒に暮らしてるでしょ?今頃二人は隣で仲良くしてるかもよ」
「なんで二人が一緒に住んでることを知ってるんだ?あんたは今島にはいないはずだ」
ヒトミの言葉にヒトシは眉をひそめた。
島にいないはずのヒトミが知らないはずの情報だった。
「ふふ。学校中で噂になってるでしょ。生徒に聞けばすぐわかることだわ」
ヒトミは笑いを含んだ声でそう答える。
「ねぇ。ヒトシ。私なら町田アナンとあなたを二人にさせてあげれるわ。そしたらあなたも十八歳で死ななくてすむわよ。しかも私の先生に見てもらえればアナンも死なないですむかもしれないのよ」
「信じられるか!」
ヒトシは電話を切ろうとした。
「そう?今は医学は進歩してるのよ。遺伝子操作も進んでるし。どう?アナンと一緒に島をでない?」
ふとヒトミの言葉に手が止まる。
(アナンとふたりっきりになれる。しかもアナンが死なずにすむかもしれない)
そんなことを考えてヒトシは電話を切れなかった。
「気が向いたら電話してね。それじゃ、おやすみ」
ちゅっとキスをする音がして電話が切られた。
ツーツーと通話が途切れた音を聞きながらヒトシは携帯電話を持った姿勢でベッドに腰掛けていた。
(付き合っていたなんて聞いてなかった。だから町田先生の態度が違うんだ)
ヒトミからの電話でヒトシはここ一週間抱えていたもやもやが解けたような気がした。 しかし新たに胸がむかむかするような気持ちになった。
(ヨウスケの奴……。俺に黙っていやがって…!)
ヒトシは携帯電話を乱暴に床に投げるとベッドに体をうずめた。




