それは嫉妬に似た感情
花村ヒトシは帰宅部だった。
まだ十七歳なのに、小さいときから十八歳までの命と決めていたのでやる気というものがなく、自分の好きなことをしていた。実際学校も行きたくなかったのだが、父親のマサシが珍しく強く主張したので仕方なく通っていた。
(今日も面倒だからヨウスケと帰るか……)
基本的にヒトシは力を使わなかった。父親のマサシは人に見られない限りヒトシが力を使うことを制御していなかったが、ヒトシは使おうとはしなかった。
家にもやろうと思えば飛んで帰れるのだが、ヨウスケが車を持っているためか飛んで帰ることはほとんどなかった。
(あ、ヨウスケだ)
ヒトシは新校舎の2階の図書館からヨウスケの姿が見えたので声をかけようとした。しかし、その後ろからくる人物を見てやめた。
「なんであんたの荷物持ちしなきゃなんないのよ!」
後ろからきた人物、アナンは不満たらたらと文句を言いながら、ヨウスケの後ろを歩いていた。
「家に居候してるだろう?家賃と思えばこんな荷物持ちなんか楽だろうに」
「まあ、そうだけど……。で、どこまでいくの?」
「えっと新校舎の五階な」
「ええ?!五階??」
アナンは驚き、前方に見える階段に目を向ける。
「階段?」
「当然だ」
ヨウスケはそう答えるとすたすたとアナンに構わず先を歩き出した。
その後をアナンは重い足取りで追う。
(やっぱりだ……)
二人のやり取りをニ階の図書館から見ていてヒトシは胸がむかむかするのがわかった。
(なんで町田先生はヨウスケだけには遠慮なく物が言えるんだろう。俺に対する態度とは全然違う……)
ヒトシはため息をつくと視線を机の上の雑誌に戻した。しかし雑誌の内容はさっぱり頭に入ってこなかった。
「ヒットシ~」
突然後ろから誰かに抱きしめられた。
「探したわよ~」
それはニ組の河野ミカだった。
「ごほんっつ」
ミカの声が大きかったのかカウンターから咳払いが聞こえた。咳払いしたのは図書館司書の山下ミユキだった。
「ヒトシ、外にでましょ」
ミカはヒトシの耳元でそう囁くとその腕を掴んだ。ヒトシは見ていた雑誌をカウンターに返すとミカと共に図書室を後にした。
「北守。地図とかここに置いていい?」
「ああ」
アナンはどさっと運んできた地図やら何やらを部屋の片隅に置く。
「疲れた……」
大きな荷物をもって五階まで上ってきたのだ。アナンは休憩するために椅子に座った。そこは視聴覚室のようだった。
ヨウスケは明日の準備か持ってきた資料を確認したりしている。
「あんた結構まじめに教師してるのね」
「当たり前だ」
ヨウスケはアナンを見ようともせずそう答えた。
「あ、先生達だわ。なーんだ、今日は使えないわね」
ミカは視聴覚室にアナンたちがいるのを確認して残念そうな顔をした。ヒトシはじっと室内のアナンを見つめた。アナンがヨウスケと楽しそうに話をしている様子が窺えた。
「え、ちょっと?」
ミカは突然引き寄せられ、キスをされたので驚いて声をあげた。
「ん……」
しかしヒトシの深いキスにミカは何も考えられなくなり、その体に抱きついた。ヒトシはキスをしながらミカの腰に手をやる。しかし頭の中は別のことを考えていた。アナンが楽しそうにヨウスケと話す様子が頭から離れなかった。
「え?あれって花村くん?」
廊下に面している窓から制服を着た男女がキスをしているのを見てアナンは目を見開いた。
「げ、あの馬鹿。学校ではするなって言ってるのに」
ヨウスケは舌打ちしただけで止めようとも何もしなかった。そして戸惑っているアナンの視線の先で二人の姿はどこかに消えた。