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花の島の秘密  作者: ありま氷炎
第一章 波乱の赴任日
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マサシの力

 じわじわと胸に嫉妬のような感情が広がるのがわかった。

 居間でテレビを見ながら、マサシはヒトシとアナンの気配が一緒になるのを感じた。


(やっぱり避けられなかったか)


 ヒトシの気が高まっているのがわかった。

 マサシが感じられる気は同属で息子のヒトシ、そして特定の遺伝子を持つ女性の気配だけだった。後の人間は気配が皆一緒で見分けることができなかった。


「マサシ!」


 玄関からインターフォンの呼び鈴と一緒に自分を呼ぶ声が聞こえた。それはヨウスケの父北守シュンイチで、その声は緊迫したものだ。


「どうしたんですか?」


 玄関に行くと顔色の悪いシュンイチが立っていた。


「悪い予感がする。悪いが星の浜まで飛んでくれないか?」


 星の浜……ヒトシとアナンがいる場所だった。


「南守が何か仕掛けてるかもしれない」

「南守?分かりました……」


 マサシはそう答えると目を閉じた。そしてその体は空気のようにその場から消えた。

 シュンイチはマサシの消えた空間を見つめた後、自分は南守の家に向かうために車を出した。会合のときの南守は明らかにおかしかった。そしていつの間にか会合から姿を消していた。


「何もなければいいが……」


 シュンイチはそうつぶやきながらそれが叶わぬ願いであることを感じていた。



「ヒトシ!」


 マサシがヒトシの気配を探って飛ぶ。

 ヒトシがヨウスケの車の側で倒れていた。

 呼んでも起きない。薬を飲まされたか、かがされたかに違いなかった。アナンの気配を探ると微弱なものでそれは動いていた。


(誰かに運ばれてる?)


 微弱な気配なので気を失っているとしか考えられなかった。しかし気配は移動していた。


「マサシさん!?」


 走ってきたヨウスケがマサシを見つけ、その腕の中で気を失っているヒトシを見て眉をひそめた。


「ヨウスケくん、説明は後だ。ヒトシを頼む」


 そう言ってヒトシをヨウスケに預けるとマサシは宙に消えた。

 初めてみるマサシの力にヨウスケは驚きを隠せなかった。ヒトシが物を動かしたりして見せたことはあったが、瞬間移動したのはまだ一度も見たことがなかったからだ。


「待ちなさい」


 アナンを背負って移動する男たちはふいに現われた男を見て驚愕の表情を見せた。


「その女性を返してください」


 丁寧な言葉だったが、その瞳は銀色の光り、長い髪は風もないのに不自然に宙に舞っていた。その姿は男達に恐怖を与えた。男の一人が恐怖のあまりかナイフを投げた。しかしそのナイフはマサシにあたる瞬間に捻じ曲がって落ちた。


「ひっ、リ、リーダー、こんな話俺はきいてねぇ」


 ナイフを投げた男が恐怖を感じて逃げ出した。


「これはどうだ!」


 リーダーと呼ばれた男が銃を出したが、その銃は使われる前に宙に飛ばされた。


「もう十分でしょう。深追いはしません。その女性を置いて逃げてください」


 マサシが宙に体を少し浮かすと、アナンを抱えていた男がその体をマサシに放り投げ走り出した。他の男達も後を追うように逃げ出す。マサシはアナンの体を優しく抱きとめると、一人残されたリーダーの男を睨み付けた。男は舌打ちをする。


「この化け物が」


 男の言葉にマサシは目を細めただけで何もしなかった。男は何をしても無駄だと悟り、他の男達と同じ方向へ走り去った。


「う……ん?」


 嗅がされた薬品が微量だったのか、アナンは目を開けた。そして銀色の光る瞳を見つめた。


「花村くん?」

「いいえ、父の方です。大丈夫ですか?」


 マサシはアナンを地面にゆっくりと降ろしながらそう聞いた。


「大丈夫です。私、どうしたんですか?」


 アナンはヒトシによく似たまなざしのマサシを見つめた。瞳はヒトシ同様銀色の光ってるようだった。


「悪い奴らに誘拐されそうになりましたが、もう大丈夫ですよ」


 マサシはアナンから視線をそらして答えた。見つめたら最後、ヒトシ同様、欲望に身をゆだねそうだった。花村家にとって運命の女性はそれほど魅力的だった。


「助けてくれたんですね。ありがとうございます。ところで花村くんは?」


 アナンはゆっくりと立ち上がり、周りを見渡した。駐車場ではなさそうだった。


「大丈夫です。ほら」


 マサシが指差す方向にヒトシ、そしてヨウスケの姿が見えた。


「父さん、奴らは?」

「逃げたよ」

「追わなかったの?」


 父マサシの言葉にヒトシは不服そうに聞く。


「町田、大丈夫か?」


 ヨウスケはマサシの側でぼんやりを立ちすくむアナンにそう声をかけた。


「うん。おかげさまで。でもなんて物騒な島なの!?」


 アナンの言葉にヨウスケは苦笑せざるえなかった。


「へんなことに巻き込んだみたいだな。悪かった」


 ヨウスケが素直にそう謝るのでアナンは訝しげな表情をした。


「何であんたが謝るの?っていうか私が攫われそうになったのはあんたのせいなの?」


 腕組みをしてにらみつけられてヨウスケは表情を硬くするしかなかった。


「町田先生。私が説明しましょう」


 二人の間に割って入ったのはマサシだった。


「マサシさん、でもそれじゃあ」


 ヨウスケがマサシの言葉をさえぎるように言うと、ヒトシが口を挟む。


「そうだな。話したほうがいい。町田先生にとって知らないことは不公平だ」

「しかしっ」


 ヒトシまでそう言うのでヨウスケは困惑した表情を浮かべた。


「なんなの?なんで話せないの?」


 アナンはヨウスケの態度にいらだってそう声を上げる。

 自分だけ知らない事実があり、そのせいで巻きこまれたようだった。


「町田先生。これは島の秘密、私たち花村家の秘密に関わることなのです……」


 何も答えないヨウスケの代わりにマサシは話し始めた。



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