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2話

「………………おお……」


 ──吹き抜ける爽やかな風。

 緑が豊かな小高い丘の上──そこに、イツキは立っていた。


「………………マジの異世界か……嘘だろ参ったな……」


 一瞬、美しい光景に見惚(みと)れてしまった事に心の中で舌打ちし──ふと、右手の()()()に気づく。

 視線を動かして右手を確認し……そこに、美しい銃が握られていた。

 ──白銀に輝く片手銃。『変化式魔力銃』だ。


「……ん……?」


 ポケットの中から、何かが擦れるような音が聞こえた。

 音の正体を探り──何枚かの紙切れが出てくる。

 ……日本語で書かれていない。

 だが──何故か、今のイツキには読めた。


「……ヘルアーシャが、なんかしたって事か?」


 日本語でも、英語でもない。そもそも、見た事のない文字だ。

 だけど……読める。

 今のイツキには、簡単に読める。


『『変化式魔力銃』は、5つの形体を有し、状況に応じて、形体の変化が可能。

 『壱式(いちしき) 片手銃(ハンドガン)』、『()式 散弾銃(ショットガン)』、『(さん)式 機関銃(マシンガン)』、『(よん)式 狙撃銃(スナイパーライフル)』、『()式 対物銃(アンチマテリアル)』、この5つだ。

 それぞれの銃に長所があり、もちろん短所がある。しっかり使い分け、戦闘を有利に進めよう。

 なお、形体は使用者の声で変化する』


「……なるほど──形体変化、『壱式 片手銃(ハンドガン)』」


 イツキの声に反応し、魔力銃が姿を変え──ない。


「んあ? ……ああ、この状態が『片手銃(ハンドガン)』って事か」


 元々の形体……基本形体が片手銃(ハンドガン)なのだろう。だから形体が変わらなかったのだろう。

 なら、壱式ではなく──


「形体変化、『弐式 散弾銃(ショットガン)』」


 今度こそ、イツキの声に反応し──魔力銃が光に包まれる。

 片手銃(ハンドガン)の形が徐々に変わり──ズシッと、魔力銃の重さが増した。


「……へぇ……面白いな」


 散弾銃(ショットガン)を眺めながら、イツキが異世界に来て初めて笑みを見せた。

 その笑みは──まるで、オモチャを見つけた幼い子どものようで。


「……んな事してる場合じゃねぇ、か……形体変化、『壱式 片手銃(ハンドガン)』」


 魔力銃を元の形に戻し、どうしたものかと考える。

 ──この辺には、人が暮らしてそうな場所がない。完全孤独状態だ。

 だが──希望はある。

 この丘から見下ろした先──そこに、かなり大きな森が見える。

 さらにその先──森を越えた先に、大きな壁のような物が見えた。


「……森を越えるしか……ないよなぁ……」


 大きくため息を吐き、ゆっくりと歩き始める。

 ただ歩くだけでは退屈なので、ポケットの中に入っていた他の紙切れを読みながら。


『【無限魔力(インフィニティ)】は、魔力を無限に保有する能力である。

 どれだけ使っても魔力が切れる事がなく、また、その量は無限。故に、永遠に魔法を使い続けても、底を尽きる事はない』


「……見れば見るほど、頭がおかしいような能力だな」


 丁寧に紙切れを折りポケットに入れ──先ほど見えた森に、足を踏み入れた。

 ──何故だかわからないが、体の調子が良い。

 そういえば、ヘルアーシャが『体に負担をかけない程度に身体能力を上げた』と言っていた。それが原因だろうか。


「……ありがたいっちゃありがたいけどなぁ……」


 裏を返せば──そこまでしないと()()()()()()()()世界という事。

 予想を越える理不尽っぷりに、本日何度目になるかわからないため息を、重々しく吐き出した。

 ──父さんと母さんと妹は、どうしているだろうか。

 あっちの世界では、俺は失踪した事になっているとか言ってたな。


「……魔力銃の威力でも見てみるか」


 言いながら、イツキが魔力銃を構えた。

 銃口は、近くの木に向けられている。

 そのまま引き金を引き──軽い衝撃と共に青白い弾丸が射出され、近くの木に真っ直ぐ飛んでいく。

 そして──当然のように大木に風穴を空け、大木がゆっくりと地面に沈んだ。


「ぁ……えぇ……?」


 予想を大きく上回る威力に、さすがのイツキも間の抜けた声を出してしまう。

 視線を落とし、自分の手に握られている魔力銃を見て、ブルリと身を震わせた。

 ……これが、第一形態の『片手銃(ハンドガン)』だと? 他の形態よりも弱そうな形態で、この威力だと?

 もしかしたら自分は、とんでもない兵器を異世界に持ち込んでしまったのかも知れない。

 足を止め、思考を回転させるイツキ──そんなイツキを現実に引き戻したのは、森全体に響き渡るような咆哮だった。


「──ァアアアアアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

「……?!」


 ヘルアーシャと話している時でさえポーカーフェイスを保っていたイツキも、耳を裂くような雄叫びを聞いて身を(すく)めた。

 ……何の声だ……?! 確実に人間の出せるような声じゃない! こんなの、まるで……

 そこまで考え、ふとヘルアーシャの言葉を思い出す。

 ──モンスターとかがいるから、君みたいな普通の人間が生身で行けば、5秒で肉塊に変わるよ。

 という事は……今の咆哮は、モンスターか?


「……はっ……オイオイ、冗談だろ……?」


 ──足が、動かない。震えが、止まらない。

 今すぐ逃げ出さないといけないってわかってるのに……体が、言う事を聞かない。

 震える手でなんとか魔力銃を握り、足を殴って無理矢理動かす。

 ……とにかく、ここに立っているのは危険だ……引き返すか、すぐに森を抜けるか……どちらにせよ、早く行動しなければ。

 意を決し、全速力で森を抜けようと──


「─────」

「……お……?」


 ──何か、声が聞こえた。

 雄叫びとは違う……絶叫のような──


「──いやぁああああああああああああっ!」


 勘違いじゃない、間違いなく絶叫だ。しかも女性──いや、女の子だ。

 声の聞こえた方向に顔を向け──草を掻き分け、女の子が現れる。

 美しく長い金髪に、高級そうな白い服。一目(ひとめ)で良い家庭の女の子だとわかる。

 だが……目を惹くような少女の顔に、少女の右目を覆う眼帯があった。

 こっちの世界にも、ものもらいとかあるのか? と、イツキが考えるのと同時、少女がイツキに気づいたのか、涙を撒き散らしながら駆け寄ってきた。


「た、助けてください! お、おおおお父様が! お父様が!」


 制服の袖を掴んで懇願する少女。しかし、少女の言いたい事がわからないイツキは、ただ困惑する事しかできない。とりあえず、力任せに袖をブンブン振り回すのはやめてほしい。

 そんなイツキの気持ちを察したのか、少女が袖を振り回すのをやめた。そして、慌ただしく何があったのかを話し始める。


「わ、私っ、シャルロット=ゼナ・アポワードと言います! そ、そのっ! あっちにドラゴンがっ! お父様がっ! 護衛がっ!」


 何を言っているのかはよくわからないが、言いたい事は何となく察した。

 簡単に言えば、父さんがドラゴンに襲われたのだろう。そして、このシャルロットと言う少女はドラゴンから逃げ出し……たまたま見つけたイツキに助けを求めた、と。

 ──ふざけんな。ドラゴンと戦えだと? 命を賭けろと? 冗談じゃない。調子に乗るな。

 袖を振り払ってやろうと力を入れ──涙を流しながら、自分を見上げている少女と目が合う。

 ──家族。過去のイツキにはあった。だが、今のイツキにはない。

 家族と会えなくなるのは……寂しい。イツキだってそうだ。

 ……目の前の少女も、同じ気持ちなのだろう。


「……どこだ」

「ぇ……?」

「だから! お前の父さんはどこだって聞きてんだよ! 早く案内しろ! 手遅れになっても知らねぇぞ!」


 まさか、力を貸してくれるとは思ってもいなかったのだろう。イツキの言葉を聞いたシャルロットが、一瞬だけ呆然とイツキを見上げた。

 だが、イツキの苛立たしげな声を聞いてハッと息を呑み、現れた草むらへと走り出す。

 ──何やってんだか。

 ドラゴンなんて、名前からして強そうなのに……それも、今出会ったばかりの少女の頼みで戦おうとするなんて。

 でも……家族は大事だ。

 魔力銃があれば……自分に注意を引くくらいはできるだろう。そうすれば、シャルロットとその父親が逃げる時間を──


「ああクソッ! いつから俺はそんなに優しくなったんだかッ!」


 自分の頬を叩き、魔力銃を右手にシャルロットの後を追って駆け出した。


────────────────────


「ガァアア──ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

「グローリアス様ッ! 下がってくださいッ!」


 ──見つけた。

 全身を鎧で包み、剣を構える騎士の男。その騎士の後ろで、何やら……雷のような何かを全身から放っている国王のような男。

 そして──男2人を嘲笑うように、空で大きく吼える黒竜がいた。


「──お父様っ!」

「な……シャル?! 何をしている?! 逃げろと言っただろう?!」

「お父様を置いて逃げるなんてできませんっ! 死ぬのなら、一緒ですっ!」


 この少女、思ったより大物かも知れない。

 と、少女の大声が癪に障ったのか、黒竜の眼がシャルロットに向けられる。

 ひっ、とシャルロットが小さく悲鳴を上げ──黒竜の口元に、赤い幾何学的な模様が浮かび上がる。

 本能的に恐怖を感じたイツキは、シャルロットを抱き上げてその場を飛び退いた。

 直後──赤い熱線が、さっきまでシャルロットが立っていた所を焼き飛ばした。

 身体能力を底上げしてもらっていなかったら、イツキも焼き飛んでいた事だろう。


「このヤロウ……! 森で炎とか使うなよ……!」


 軽々とシャルロットを持ち上げるイツキが、身震いしながら舌打ちする。

 ゆっくりとシャルロットを降ろし……己の武器を構えた。魔力銃だ。


「頼むぞ……!」

「ァアアアアァアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」


 再び黒竜の口元に、赤い魔法陣のような物が浮かび上がる。

 しかし──黒竜が熱線を放つより、イツキが引き金を引く方が早い。

 青白い弾丸が放たれ、真っ直ぐ黒竜へと迫る。

 迫る弾丸を消し飛ばさんと、黒竜が灼熱の熱線を放ち──青白い弾丸と熱線が正面衝突。

 だが直後──弾丸が、熱線を裂いた。

 まさか自分の攻撃が負けるとは思っていなかったのだろう。黒竜は呆然と、己の熱線が弾丸に押し負けるのを見ていた。

 そして……弾丸が、黒竜の左目を潰した。


「──ォオオオオオオオオンンッッ?!」


 痛みに雄叫びを上げ、黒竜が大きく翼を打った。

 吹き荒れる豪風に、思わずイツキが目を閉じ──次に開いた時には、ドラゴンはいなかった。

 バッと後ろを振り向き──そこには、どこかへ飛び去るドラゴンの姿。

 どうやら、目を潰された事が効いたようだ。狙って撃ったわけではないが、結果オーライである。


「……スゴい……! 一撃でドラゴンを退(しりぞ)けるなんて……!」

「……ケガ、ないか?」

「え? あ、はいっ! おかげさまで、助かりましたっ!」


 ギュオッ! と、首が取れるのではないかと思うほどに激しく頭を下げるシャルロット。

 熱線を避ける時に、どこかケガした可能性があったのだが……どうやら大丈夫なようだ。


「……すまない、助かったぞ。私は『人王 グローリアス=ゼナ・アポワード』だ。君は?」

「あーえっと……イツキ、です」

「ふむ、イツキ君か……本当にありがとう。まさか『竜国』からの帰りにドラゴンに遭遇するなんて思わなくてな……」


 『人王』……王?

 名前といい見た目といい……まさかこの人、王様か?

 って事は、このシャルロットって()は……国王の娘?


「何か、お礼をさせてくれないか? 命を救ってくれたお礼だ。私のできる範囲であれば、なんでもしよう」

「お礼……ですか……なら、ここから一番近い国ってどこかわかります?」

「一番近いのは『アンバーラ』だな。一緒に行くか? そこで君へのお礼を考えよう」

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