一方その頃天界では
「ふむ、とりあえずはこれで良いかのう…」
長い白髪と白髭を蓄えた、袴姿の妙齢の男性が軽くため息をつきながら呟く
「帝様、いかがなさいました?」
帝と呼ばれた男性の後ろから、黒髪を肩で切り揃えた巫女服姿の女性が尋ねる
「おお、美月か。いやなに、先程茜と律を修練のために人界へ送ったのじゃよ。」
「あら、あの2人ももうそんな年頃でしたか。」
「…」
美月の問いかけに腕を組み黙り込む帝
「…?帝様?」
「本来ならあの2人、もう少しワシの下で勉強させてから人界へ送ろうと思っとったんじゃがのぉ…」
帝はなにやら考え込み出した
「私はあの2人を本物の妹と弟のように面倒を見ていましたので、そんなに問題のある子たちとは思いませんが…何か不安がおありで?」
自分が面倒を見てきた弟分と妹分がよく思われていない
美月は帝を鋭い目つきで睨んだ
「待て待て、気に入らんのはワシをジジイ呼ばわりするくらいで、奴らの力はワシも認めとるわい。」
帝も案外気にしいなのである
「でしたら、他に何か思い当たる節が?」
美月は改めて帝に質問し直す
「人界と天界の『差』じゃよ。」
「はぁ…『差』ですか?」
「うむ。天界では質素倹約に過ごすのが当たり前で3食以外で甘味を食べたりはあまりせんし、娯楽も書物を読むくらいじゃろう。」
「確かに、私が人界に行った時に見たものは新鮮でしたわ。クラブやディスコはまた行きたいものです。」
美月は過去に人界に行った時のことを思い出してうっとりしている様子だ
ちなみに美月が人界に来たのはちょうどバブル真っ盛りの頃である
「お主、そんな遊んでいる風には見えんが…まあいいわい。」
美月から出た言葉に若干引き気味になる帝だった
「お主も知っての通り、人界は誘惑が多い。茜と律が怠惰に過ごしてしまわんか心配なのじゃよ。」
(送り込んだ張本人がなにを今更…)と、内心思う美月
「心配でしたら送り込んだ先の人間に刷り込みしてみたらいかがですか?」
美月の言葉に帝は少し考え込んだあと
「…そうじゃな、家主2人の夢に出てやってちょいと忠告させてもらうかの。」
そう言ってまた少しため息をつく帝
「やれやれ、誰かを教育するというのはどれだけやっても正解がわからんの。」
「それ、元教え子の前で言いますか?」
帝の愚痴に険悪な表情で答える美月
「…そうじゃったな、お主もワシが面倒を見たんじゃったな。」
美月の表情にたじろぐ帝だった
「とりあえず、食事にしましょう帝様。私がここにきたのは帝様の食事の用意が出来たと呼びにきたんでしたわ。」
「なんじゃ、それならそうと早く言ってくれれば良いものを…」
「帝様がスッキリしない表情をしてらっしゃったから心配したのに、損しましたわ。」
再び表情が険悪になっていく美月
その様子に帝はマズイと思ったのか
「いや〜食事楽しみじゃのう、献立はなんじゃろうかの〜」
わざとらしく語尾を伸ばし、踵を返す帝
美月もやれやれと言った表情にかわり、帝の後ろをついていくのであった