空から聞こえる声
「茜、律、聞こえるか?」
光の見える方向から声が聞こえてきた
「手荒な送り方をしてすまんな。しかし、この修行もお前たちのためじゃ。しっかりと人間のことや世の理を学んできてほしい。」
声の主は諭すように茜と律に語りかける
一方で茜はというと
「ジジイめぇ…天界に戻ったら覚えてろよ〜!」
おおよそ神とは思えない言葉遣いで地団駄を踏んでいた
さらに、律はというと
「クソジジイ…戻ったらギャフンと言わせてやる!」
こちらも目上の相手を敬うような態度は全くとっていなかった
「ホッホッホッ、まあ今はその態度、大目に見てやろう。せいぜい精進したまえよ〜」
声が聞こえなくなるとともに、眩く光っていた空はいつもの青空に戻っていった
「今のは…一体誰だ…?それに律って?」
健吾が目をしぱしぱさせながら茜に尋ねる
「…今のは天界の長じゃ、我と律を地上に蹴落とした張本人じゃな。律は我と同期の神仲間じゃよ、案外近くに居るんじゃないかの?」
茜は軽くため息をついて答えた
「神さまにも同期とかいるんだ…」
健吾はこの1時間の間に起こったことに完全に置いてきぼりになっていた
「おぬしからしたらどたばた喜劇のように見えるかもしれぬが、信じてくれたかの?」
茜は健吾に向き合って尋ねる
健吾は少し考え込んでから答える
「…頭の中整理できてないけど、とりあえず今起きていることが普通じゃないのはわかる。」
そう言うと健吾は立ち上がり、茜に言う
「とりあえず、腹減った。メシにするけど生憎1人分しかないんだ。」
「んなっ!!」
「…何が食べたい?」
「〜〜っ!!!」
健吾の質問に茜は目をキラキラさせて歓喜の声をあげた
「勘違いするなよ。まだあなたが神様だって信じたわけじゃない。」
「むぅ〜頭の固いやつじゃのう…」
茜は健吾の態度にコロコロと表情を変える
(こいつ面白いな…)
健吾は声に出さずに面白がった
「んで?何が食べたいの?」
「おぬしに任せるのじゃ!辛過ぎなければ好き嫌いはないのじゃ!」
「はいはい。それじゃ、買い物行ってくるよ。その格好で出歩かれたら目立つから留守番しててくれよ。」
「わかった!任されよ!」
茜の様子にクスッと笑う健吾
「じゃ、行ってきます。」
「行ってらっしゃ〜い!」
『パタン』
玄関のドアの閉まる音が心なしか軽やかに聞こえる
「…誰かに行ってきますなんて言ったの、久しぶりだな。」
そう呟いて、健吾は近所のスーパーへ向かって行った