第十話 暴れだす闇
時系列はマイケル暴走よりちょっと前です
レオの躰からあふれ出す闇はどんどん増強していった。うつ伏せになったサルゴの躰に大量の闇が纏わりつく。サルゴから流れ出る血を次々と吸収する。
「うううう……」
レオの口からは呻き声が漏れている。レオが闇状態を解除しようと妖刀を離す。が、手放すことは出来なかった。レオの躰に纏われた闇が宙に放たれた妖刀を掴んだのだ。
レオの躰に反動が訪れる。闇がレオの包み込んだ。目は白目を剥き、口はだらしなく開いていた。
レオの躰に纏われた闇が伸長し、周囲の物を次々と破壊する。地面に太い二つの闇が突き刺さり、それを軸としてレオの躰が宙に上がる。複数の闇が伸長しありとあらゆるものを壊した。二つの軸の闇がゆっくりと進み始めた。徐々にミケネコ連合支部に接近する。ミケネコ連合支部周辺で戦闘している教徒、連合軍の姿が見えた。連合軍が優勢に見えた。
レオがミケネコ連合を見据えた瞬間、レオから高速で闇が伸びる。闇が罠や隠れるための箱を破壊しながら教徒軍、連合軍関係なく襲った。
「ぐあああ!!」「やめろおお!!」
二つの軍の悲鳴が上がる。連合軍の一人、省吾が冷静に機関銃をレオに向ける。変わり果てた姿からかレオだと気づくことはなかった。躊躇なく引き金を引く。弾丸が高速で発射される。レオを守るように闇が展開する。銃弾を闇が防御した。銃弾は闇を貫くことなく、すべて弾かれた。レオが省吾に飛び掛かる。省吾は負け時と撃ちまくる。槍のような闇が省吾を襲う。防御に使った機関銃が貫かれ、爆発し、周囲に銃弾が飛び散る。防御を失った省吾はそのままレオに突撃され、太い2つの闇に両胸を貫かれた。
「ぐっ、ああ!!」
口から大量に血が吐かれた。闇が両胸から引く。省吾はうつ伏せに倒れた。省吾の周りには、血だまりが出来ていた。
レオはそのまま進撃を続けた。背後から襲う教徒軍を殲滅させた。連合軍の者たちは即座に支部へと避難し、危機を逃れた。教徒軍の死体が次々と積まれる。闇が支部に突き刺さる。音をたてて支部の一部が崩れる。
「止めろ。ここはお前の陣地だ。壊すんじゃない。」
ミズだ。ミズがゆっくりとレオに歩み寄る。
「剣を捨てろ。」ミズが続けて言う。
「オマエ…殺ス…必ズ‥…」
レオ―否、妖刀は地獄から這いつくばって出てきたかのような声で言った。
直後、妖刀に纏われた闇が刃の役割を持ち、ミズに振られた。ミズは小さい動作で軽く回避した。
レオから闇が高速で伸びてくる。それも軽い身のこなしで回避する。地面をはうように闇が襲ってくる。
ミズは跳んで回避した。しかし、空中にももう一本、闇が襲ってきていた。
「拙い――」
ミズが気付いたころには遅く、肩を貫かれた。闇がミズの血を吸収し始める。ミズから力が抜けていく。
「レオおお……」
ミズは低く唸るように名を呼びながら刺さった闇を引き抜いた。懐から何か小型ナイフを取り出した。折り畳み式だ。柄には何か複雑な数式のようなものが記されている。
「時間はかけていられないようだな。早急に片付けるぞ」
ミズが宣戦布告した。ミズが刃を取り出し、レオに走って行く。
「ヌォオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
レオが大声で低く叫ぶ。その声に反応するように大量の闇がミズを襲う。ミズがナイフを振ろうとした瞬間、妖刀がミズの腹を斬った。
「油断シトランカ・・・・」
その声は嘲笑しているようだった。ミズの腹からは血が噴き出ることはなかった。すべて吸収されていたのだ。ミズは顔をしかめ、大きく深呼吸をすると、ナイフで纏わりついてくる闇を斬っていった。闇を切断することは出来た。しかし、瞬時に闇が再生された。ミズの表情に狼狽が浮かんだように見えた。ミズは気を抜くことなく闇を切り、妖刀の攻撃を躱す。闇が次々と伸びてくるためレオの下へ行くことができない。
「ぬああああ!!!!」
ミズが叫びながら突撃する。複数の闇を切り逃しミズは大量の闇に斬られ、刺され、拘束され、妖刀にズタズタに斬られた。ミズが傷だらけになる。血が出る隙も与えず猛攻が繰り広げられた。
――くそ、こんなところで…負けるわけには……
ミズの意識は暗い闇の中へ吸い込まれていった。
* * * * * *
白い光が言った。
―お前が取り込まれてどうする?
俺が?何に取り込まれているというのだ?
―君が、君一人の、自分のためにやったことだ。
俺はサルゴと戦った。かつての仲間と、命を懸けた。贖罪のために…
―それなのに、また人を殺してどうする?贖罪のためといいながら意識を取り込まれ、人を殺し、何をしたい?
俺が?人殺しを?今?しているわけないだろ。
その瞬間、暴走状態の時の自分の行動がフラッシュバックした。
うぁあああああああああ!!!!!!!!!!なんでだなんでだ!!なんで俺がぁあ!!!
白い光は道を照らした。意識がはっきりとし始めた。
「止めろ!!」
レオは叫んだ。闇が活動を停止する。ミズへの攻撃が止まった。
「ナンノツモリダ…?我ガ力ヲ受ケテオキナガラ!!」
「お前の力はもう受けない!俺が、自分の力で!」
レオの躰から徐々に闇が剥がれていく。レオの躰から離れた闇は妖刀の方へと取り込まれた。
「くっ.......ようやく意識を取り戻したか…」
ミズはゆっくりと起き上がった。ミズは血だらけだった。
「総督…よかった‥‥助けてください……!!この妖刀を、妖力を!」
レオがミズに涙を流しながら叫んだ。しかし、その叫びも虚しく、再度妖刀の妖力に取り込まれた。
「今助ける……!」
ミズが折り畳みナイフを取り出す。柄に書かれた数式のようなものを撫でた。刃を取り出す。刃が青く光った。ミズが構えを取り、レオに突撃した。
次々と襲い掛かる闇をナイフで切った。すると、闇が再生することなく、斬られた闇は消滅した。
「これなら…いける!」
ミズは次々と闇を斬っていく。
「うぉおおおおお!!!!!!」
闇を斬りまくり、ついにレオのもとへたどりついた。しかし、レオには強力な闇が纏われており、簡単には切れなかった。
「くっ、絶対に……助ける!待ってろよ!うぉおおおお!!」
ミズは叫びながらナイフを振り続けるが、左腕を闇にとられた。続いて両脚がからめとられ、宙に浮かされた。
ミズは左腕の闇を切り、足についた闇に斬りかかった。しかし、闇を切断することは出来ず、地面に叩きつけられた。両脚の闇が離れた。一瞬で立ち上がり、ミズはナイフをレオに向けて投げた。
ナイフは正確に飛んでいき、レオを守るために展開された闇が貫かれ、消滅していく。
ナイフがレオの闇に刺さった。闇がゆっくりと消滅を始める。妖刀から闇が消え、地面に落ちた。
「はぁ、はぁ、はぁ、レオ....大丈夫か?」
ミズはレオを抱える。
「ありがとう......」
レオはゆっくりと口を動かした。
「こんな刀なんて、もう使う必要はない。」
ミズはしっかりと言うと、妖刀を海へと投げ捨てた。「拠点へ戻ろう」
肩を組みながら二人は拠点へと歩みを進めた。




