第八話 獣人参上
マイケルは獣人状態でミケネコ連合支部の屋上にいた。屋上からは遠くにアババー教徒が群を成しているのが見て取れた。
(なんて人数だ…何人殺れるか?)
マイケルはアババー軍を見ながらそんなことを思った。アババー軍は大人数で砲撃などによる遠距離攻撃を行っている。前線では精鋭部隊や、先頭部隊がミケネコ連合と戦闘を繰り広げていた。
現在、アババーが優勢。ミケネコ連合軍は劣勢で若干押され気味だった。
マイケルが前傾姿勢をとる。両脚に力が入り筋肉が盛り上がる。マイケルは地面を強い力で蹴って跳躍した。屋上の床が少し削れた。マイケルは決着が付いた先頭部隊の戦場に降り立つと、肉眼ではとらえ切れないほどの速度で走った。
戦闘中の精鋭部隊戦を華麗に躱し、アババー軍の戦闘車輛付近まで高速で接近する。そして、一台の戦車の砲台を蹴り飛ばした。その勢いのまま一回転し、空を蹴って砲台の折れた戦車に急接近して上空に蹴り上げた。戦車が激しい音を立てて崩壊を始める。他の戦車に攻撃される隙も与えず残り構えていた4台の戦車砲台も破壊した。戦車を壁として蹴って跳躍しながらアババー軍勢に接近する。ミズから貰ったナイフを片手に軍勢に突っ込んだ。物凄い速度でアババー軍兵士を倒していく。超加速された蹴り、殴打、ナイフによる斬撃。
マイケルは現状成せる攻撃を次々と繰り広げた。周囲に新鮮な血が大量に飛び散った。
アババー軍はあまりの恐怖に戦闘する余裕がなかった。恐怖でその場で立ち竦んでいた。
「火煉さん!!謎の獣が参入してきて数十名が負傷、7名は死亡しました!」
アババー軍の数人いる伝令の一人が無線で火煉に報告する。
〈……何?獣?こっちの相手もなかなか厄介なのよっ…!〉
無線に戦闘の音が混じっていた。
「どどど、どうすれば…!」
伝令の声に焦燥感が混じる。
〈自分でなんとかしなさいよ!たくさん武器が…あるじゃ……〉
ザーっという雑音にかき乱され、無線は終了した。
「くっ……お前ら!全員でかかれ!!」
伝令兵は大声で叫んだ。その指示に反応してアババー軍は気を取り直し、マイケルに一斉に攻撃を開始した。
「うぉおお!!」「こんな奴に負けてたまるか~!」
銃を乱射する者、手裏剣を投げる者、長刀を振るう者、たくさんの教徒が猛攻を振るっていた。
「加速。」
マイケルが地面に片手を付く。それを軸として高速で回転し、駒のようになる。「猫駒!!」
周囲に群がる教徒軍が猫駒に弾き飛ばされる。マイケルは駒のまま動き始めた。次々と教徒が乱打を受けて気絶する。
「猫駒・超速!」
マイケルの声に応えて猫駒の回転速度が急上昇する。キュィイイインと空気を切る音が響く。
「撃て!撃てぇえええ!!!」
マイケルから少し離れた教徒軍が小銃をマイケル向けて撃ち続ける。しかし、すべて猫駒によってはじき返されていた。
「猫駒・跳弾」
猫駒が変わった回転をし始める。その瞬間、猫駒に当たった弾が跳ね返り銃を撃った本人に弾が直撃した。
「ちょ、ちょちょ、、、跳弾!?」
教徒軍の小銃の猛攻撃は全て弾が跳ね返り教徒軍を倒していた。マイケルが回転を止める。次の瞬間、目に止まらぬ速度で殴打が始まった。
「弱かったな。ざっと50人は殺ったか?」
マイケルの背後には大量に積まれた教徒があった。マイケルは両肩を大きく回すと残る教徒軍の方を向いた。
「まだ、やれるな?」
マイケルは自問した。
「さぁて、どうかな?」
マイケルの背後から声がした。強烈な殺気がマイケルの背後を伝う。冷たい氷が落ちていくように感じた。
「誰だ貴―」
一切。マイケルは振り向きざまに胸を切られた。いつの間にか盗られたナイフだった。
「大したことないじゃん?」
次に声がしたのはまた、マイケルの背後だった。振り向く前に背中がズタズタに切り裂かれた。
「ぐっ…おらぁ!」
高く跳躍して敵の位置を把握しようとする。しかし、敵の位置が見当たらない。「どこにいる?」
「ここだよ、獣」
「何っ」
マイケルの上から声が聞こえた。次の瞬間、マイケルのうなじにナイフが刺された。「ぐわあああああ!!!」
マイケルが口から血を吐きながら地面にうつ伏せに倒れる。地面に血だまりができた。
「今だ!やるよ!」
先刻からマイケルを翻弄してきた人物であろう声が怯える教徒軍に指示をだす。思わぬ助っ人に士気が高まったのか、残る教徒軍が大量にマイケルに攻撃を開始した。
大量の教徒軍がマイケルに群がり、超近距離からの射撃、斬撃…戦闘不能のマイケルを散々攻撃した。
攻撃が止んだ頃には、マイケルは全身血だらけだった。
「フフフ…開祖様から頂いた力はとんでもないね、」
マイケルよりも速く動く男、リックがマイケルの惨めな姿を見て笑んだ。それに便乗するように周りの教徒が声を上げる。
「まだ……まだ終わってない…」
消え入るように小さい声でマイケルが言った。肩を大きく動かして息をしている。
「僕に勝てると思わない方がいいよ。開祖様から頂いた力には、如何なる化け物にも消すことは出来ない。」
「はぁ、はぁ、はぁ…なら...こうするか?」
マイケルはどこからか出した泥団子ぐらいの大きさの丸い薬を口に含んだ。
マイケルの躰が大きく叩かれたように振動した。三毛の毛が白黒の毛に変色し始めた。同時に、躰が細くなっていく。全身から蒸気が出る。血流が異常に加速し始めたのだ。
「ん…?関係ないよ、奥の手があろうとなかろうと。」
リックは余裕の表情でいる。しかし次の瞬間、真後ろに変貌したマイケルがいた。
「フッ。油断したな」
マイケルの手刀がリックの首に直撃する。物凄いスピードでリックが吹き飛ばされた。




