第七話 血と闇の決着の時
レオは刃を自分に向けた。そして横腹を斬った。横腹から真っ赤な血が溢れ出る。その時、刀が血を吸い始めた。刀が黒く光り始める。黒紫の闇が刀に纏う。同時に、斬った横腹にも闇が纏う。
サルゴが自分の額に血爪を立てる。額からスーッと細く血が流れる。目が血走る。目尻付近の血管が太く浮き出る。
もう、戻れない。
「うぁあああああああ!!!!!」
サルゴがレオに詰め寄る。血爪を大きく振るう。レオは刀を横にして、小さな動作で爪を止めた。レオはそのまま爪を払うとその勢いのままサルゴの腹を斬った。サルゴは寸手の所で爪で止め、攻撃を防いだ。レオは続けて下から刀を振った。サルゴは攻撃を塞ぎきれずに頬を斬られた。頬に赤い血が垂れる。レオの刀はその血を吸った。纏う闇が僅かに大きくなる。レオはさらに続けて刀を振るう。纏う闇がサルゴの頬を掠めた。
「ぅぅぅぅぅぅぅうううああ!!」
サルゴはその闇を口で噛むと唾と共に吐き捨てた。サルゴは体制を整えると、血爪を顔の前に構え、レオに詰め寄る。刀の軌道を見極め、スライディングし、レオの後ろに回った。そして血爪で背中を罰点上に切った。サルゴの眼が僅かに充血し始めた。
「懐かしいな。お前がその戦法を――」
レオは最後まで言い切ることができなかった。それはサルゴが首目掛けて血爪を振るったからだ。レオは刀を首元に置いてそれを止めた。キリキリと刃が擦れ合う音がする。
「雑談する時間じゃあねぇんだよ……過去を懐かしむ為の戦いじゃねえんだよぉ!!」
レオの妖刀とサルゴの血爪。競り合いを制したのはサルゴだった。
血爪で刀を押すと背中に蹴りを入れた。レオが押されて体制を崩す。その隙を見て闇が纏っていない方の横腹を血爪で切った。5つの爪の傷跡が付く。少量、血が飛び散った。
レオは切られた横腹に闇を纏わせた。次の瞬間、傷跡は跡形もなく無くなっていた。サルゴの表情に驚愕と焦燥が広がる。
レオは体制を整えることなくサルゴの方を向いた。そして刀を真一文字に振るった。サルゴの額に深い傷が出来た。そして赤黒い血が大量に流れだした。刀に付着した血はいつの間にか吸い取られていた。闇がさらに増強する。
「お前と戦うのは…これで三回目か?」
サルゴは間合いを取りながらレオを見据えた。
「雑談は禁止じゃなかったのか?」
レオの表情に余裕が生まれる。レオは間合いを詰めると小さく刀を振り、サルゴの腹を斬った。軌道を見極めきれなかったサルゴはその斬撃を食らい、腹から血を噴き出し、仰向けに倒れた。
「……終わりか。」
レオは刀を鞘にしまうとサルゴに背を向け、敵陣へと歩み始めた。
「あ~…痛ってぇな。俺がこれで終わりだと、誰か一度でも言ったか?」
サルゴは立ち上がると肩、横腹、太もも、足首についていた重りを外した。
「これが一番よく動けるなぁ!」
サルゴはそう言ってボクシングのように体を上下に動かした。血爪を構え、準備OKの姿勢をとる。
「そう来なくては」
レオは短く力を込めて言うと走ってサルゴの元へと行った。そして顔面を斬るように左下から右上へと刀を振った。しかし空を掠めただけだった。サルゴは軽い身のこなしで後ろに退くとそれで斬撃を回避した。
サルゴは軽くジャンプし、地についた瞬間に屈み、前傾姿勢でさらに跳躍し、レオの太ももを切り跳んで行った。太ももの動脈が切られる。鼓動に合わせて血が噴き出す。レオはその傷口に沿って刀を当てた。刀が噴き出る血をすさまじい勢いで吸収していく。刀に纏う闇がどんどん増強される。闇が傷口に触れると血は一瞬で止まった。傷口には治癒に使った闇があった。
レオが瞬きよりも速い速度でサルゴに接近する。そして、わき腹から肩にかけて斜めに斬った。鮮血が散る。サルゴが勢いで飛ばされる。レオの刀に纏う闇がサルゴの下まで伸びる。そして、もう一撃。
「はぁ…………」
レオの眼は赤く血走っていて生を感じ取ることができなかった。レオ全体を闇が纏う。レオが切っ先をサルゴに向ける。闇が刀のリーチを伸ばす。サルゴの首に切っ先が突きつけられた。
「・・・さ・・よう・・・なら・・・」
レオは掠れた声で一文字一文字噛み締めるようにして言った。
「ぐっ・・・うぉおおおおおおおお!!!!」
サルゴは大声で叫ぶと血爪で闇で伸びた刀を払って飛び上がった。闇を血爪の間に挟み動かせない状態にし、そのままレオに向かって走り始めた。刀を抑えてない右手の爪でレオの顔面を切りつけた。左目に三本の線が走る。
闇が左目を包む。が、傷は消えなかった。
「ヘヘヘ…毒はどうだ?」
サルゴの血爪が僅かに伸びていた。新たに伸びた部分に神経毒が塗られていたのだ。
「関係ない・・・」
しかし今のレオには全く問題なかった。眩暈が起きようが脳が蝕まれようが闇の力で生き延びていた。闇がサルゴの首を絞める。サルゴは首を絞められたまま宙に吊らされる。
「がっ・・・!」
白目を剥いて口から泡を吐き気絶した。
「これで本当にお別れだ・・・」
レオはサルゴの腹をひと思いに斬った。闇が解き放たれサルゴが地面にうつ伏せに倒れる。それから、意識を取り戻すことはなかった――




