第五話 猫と科学者は覆す
ミズはヘルガンから貸してもらったナイフをマイケルに投げ渡した。
「俺は格闘には自信がある。これがあれば雑魚キャラ位置の奴等など容易い」
マイケルはナイフを上投げして掴む、上投げして掴むという行為をしながら言った。
「でも相手は大群だ。これだけの少人数のものが接近戦でそんなものだけで十分に戦えるのか?」
ミズはとても可愛がって愛でている愛猫がこんなに荒い口調で品がないのがいやだったのか怪訝な顔をしながら訊いた。
「なめた口を。余裕だ」
マイケルは短くそう答えた。ミズの顔の嫌悪感が増した。
「で、マイケルはなんで人間になれるんだい?」
ミズは短く咳ばらいをしてから訊いた。一番気になっていたことだ。
「あのヘルガンという学者に注射された」
マイケルはその時のことを思い出すかのように虚空を見つめて言った。
「なっ、私の愛猫によくも…!」
ミズはそういうとヘルガンが出て行った窓の方を向いた。
「でも、御蔭でいい情報が掴めた。これで戦況は俺たちのモノになる」
マイケルは窓を見るミズを一瞥してから視線を落として言った。何かを考えているようであった。
「なんだ?その情報というのは」
ミズはマイケルに向き直る。その顔には一瞬嫌悪感が滲んだがすぐに情報に対していつでも来いという体制になった。
「それは――」
マイケルは最後まで言うことなく強制的に猫に戻った。そして「にゃあ」と鳴いた。
「情報は私には教えれない…と」
ミズはマイケルの様子を見てそう呟いた。おそらくヘルガンはミズに教えるとどこかからその情報が漏れると判断したようだった。
ミズは倒れているケントを見て思った。ヘルガンの判断は正解だ、と。ケントはアババー教を信仰者なので作戦会議でこの話を出したら必ず相手側に密告する——―と。
その頃、外ではアババー教軍先頭部隊がやられミケネコ連合軍が進撃を開始していた。
「われらが優勢!押せぇ~!!!」
省吾が言った。
すると、控えていた4名のミケネコ連合軍のものが一斉に敵軍へ攻めた。これでミケネコ連合軍は支社にいるすべての戦闘勢力を出した。同時に囮役の三人も合流する。
「やられるものかぁー!!」「負けてたまるかー!!!」「絶対に勝ってやるぅ!!!」
声を荒げながら連合軍が進み始める。
しかし、それが仇となりまんまと敵の罠に引っかかってしまった。
「精鋭部隊のお出ましだぁー!!!」
アババー軍の精鋭部隊隊長、サルゴが叫んだ。
ミケネコ軍はアババー軍特注の罠、閃光連弾に引っ掛かった。閃光弾が一斉に炸裂し七人を襲う。
「く、くそぉ....」
閃光耐性がついているゴーグルでも何度も放たれては耐え切れない。光調整に不具合が発生し七人は全員その場で立ち竦んだ。頭を抱えて倒れるものもいた。
「我等精鋭部隊は対閃光ゴーグルをつけているため目に影響なく更にちゃんと敵の位置を把握できる赤外線機能つきである。よって、最強である!!」
サルゴが腕を突き上げて叫ぶとそれを契機に精鋭部隊が一斉に攻撃を始めた。
精鋭部隊は近距離戦を得意としており、手には超高電圧ナックル、足には超防御板軽量式、靴は加速装置のついた靴で光学迷彩を可能とした衣装を纏い、超防弾チョッキ、ヘルメットは対刃ヘルメットで対閃光ゴーグルをつけていた。そしてその対閃光ゴーグルは改造してあり、温度感知機能を搭載、最大50m先まで見えるスコープがついている。
ミケネコ軍は負け時と立ち上がり、周囲が見えない状況の中所持していた突撃銃、AK-47を乱射した。
しかし超防弾チョッキが弾を次々と防ぐ。防弾チョッキの内側に取り付けられた衝撃緩和板が衝撃をほぼ0にする。
精鋭部隊は一気に詰め寄り、超高電圧ナックルで殴る。次々と麻痺して倒れる。実に容易な戦闘だった。
が、一人だけ違った。レオだ。将軍の役職にあり今回では控えて指示出しをしていた。
レオのゴーグルには極限まで光を押さえれる機能が備わっており、見えてないフリをして戦っていた。
「しつこい!」
閃光連弾の光がようやく収縮する。レオは鞘から刀を抜く。刀を右手に精鋭部隊に接近する。精鋭部隊は銃を取り出し、発砲する。レオは左に体を傾ける。弾丸は全て回避できた。
――やはりそうか…近接攻撃に特化していれば銃の扱いは多少下手な筈だ。
レオは次向けられるであろう銃口の位置を予測して刀を振るった。予想通り、銃口はそこに向けられた。レオは銃身ごと切り裂く。銃は大きな火花を散らして暴発した。銃を持っていた隊員の手が手袋を貫通して火傷を負った。隊員はたまらず銃を話す。が、超高電圧ナックルと火花が反応してさらに爆発が起こる。
「まだまだだ!」
レオはそう叫ぶと次々と隊員を斬っていった。レオは思い出していた。かつて自分が連合軍に入る前にしていた愚行とその通り名を。あの経験から刀を持つことは辞めた。だが今回はやむを得ない状況に陥った。
総督命令だから仕方なく刀を持つことになったが何度も辞められないかミズに話した。しかし、状況は何も変わることはなかった。
愛刀「百獣」を腰に付けた瞬間に思い出した。まるで走馬灯のように刀を持っていた時代を思い出した。刀は、勝ちに飢えている。戦いに飢えている。
「余所見は禁物だ!!」
サルゴがレオを殴打する。レオは刀で攻撃を流す。一瞬電気が体中を走った。レオが一瞬攻撃の手を電気から止められる。サルゴはそこを見逃さず再度殴る。レオは後ろに退いて回避する。足が地面に引っ掛かった。
――やばい、装備が重すぎた…!
レオはそのまま倒れた。サルゴが近づいてくる。拳を掲げる。レオは死を覚悟した。何故なら隊長サルゴからのみ感じ取れる気配があったからだ。超高電圧ナックルが原因じゃない別の原因で死ぬ―と本能で感じた。
ところがサルゴは何を思ったのか超高電圧ナックルを外した。そしてそこらに捨てるとヘルメットも外した。そして次々と装備を捨てていった。
サルゴの顔は強面で威圧が感じられるような顔だった。が、視線からは揺らぎない一つの信念が感じ取れた。
「君は…」
レオはサルゴの顔をみて言った。
* * * * * *
アババー教側、提督基地コンテナ
「久しぶりだな、糞野郎」
ヘルガンの手足には見慣れない機械が数多取り付けられていた。しかし白衣姿はそのままだった。
「あら、ヘルガン。私を覚えてくれてたかしら?ありがとう」
そう答えるのは吊り目の肌の白い火煉だった。黒い瞳には所々に赤を感じれる。悪魔のような笑みを浮かべた。
「貴様は忘れたくても忘れられない。如何なる忘却薬を使おうと貴様の存在だけは脳裏から消すことは出来なかった。貴様だけは絶対に許さない」
ヘルガンは感情のない声で言い切った。だがそこには威圧が含まれていた。
「嬉しいわね。息子に覚えてもらえるのは親としてありがたいことよ。私だって貴方を一時たりとも忘れたことはないわ。何せ、息子に性別を変えられたのだからね。」
油断したら引き込まれそうな口調で火煉は言った。内容は兎も角として甘い誘惑をするようであった。
「まずはおまえを消す。」
ヘルガンは腰に付けた鞘から超高熱刀身を抜いた。
刀身が超高熱になるという武器だ。その熱は瞬時に鉄をも溶かし斬るほどだ。
ヘルガンがスイッチを押す。静かに刀身が赤みを帯びてくる。数秒経つと炎のように赤い色になった。
「あら、怖いもの出すわね、あなたたち、やっちゃいな!!」
火煉は一歩後ろに下がると護衛に指示を出した。全員が黒いスーツにサングラス。手足にはこちらも機械が取り付けられている。
「うぉおおおおお!!!!」
数十名の護衛がヘルガンに襲い掛かる。ヘルガンは白衣のボタンの一番隆起している所を素早く二回押した。光の反射、屈折を上手く使い景色に溶け込む光学迷彩が起動した。ヘルガンの姿が見えなくなる。
「くそっ!どこへ行った!!」
護衛が辺りを見回す。そこに一人の護衛が「温度感知を使え!!奴は光学迷彩を使っている!温度で探知しろ!」
護衛たちは次々と多機能サングラスの温度感知を起動し始める。温度感知によるヘルガンの捜査が始まった。
「そこか…」
護衛たちは温度感知でヘルガンの場所を見つけた。一斉に走ってヘルガンの元へ行く。
「予想通り」
ヘルガンはそう呟くと後退し、火煉らのいる基地コンテナから抜けた。
「逃げるのか?情けないぞヘルガン」
火煉の側にいる幹部が挑発するように言った。
「さて、それはどうだろう」
ヘルガンは光学迷彩を解除して大声で言った。
「おまえら、いけ!!!」
火煉の幹部の一声で護衛達は所持している高性能機械銃の武器レベルを上げ、ヘルガン向けて撃ち放った。
ヘルガンは全く動揺することなく刀の柄についている小さなレバーを下げ、ボタンを押した。すると、ヘルガンの持っている超高熱刀身に次々と弾が吸い寄せられるようにして集まる。ヘルガンはそれを一瞥すると刀を振るった。弾は全て熱で溶けた。鉛が液体となって地面を焼く。護衛たちは弾を撃つ手を止めた。全員サングラスで目は隠されているが動揺しているのがわかった。
ヘルガンはニヤリと笑みを浮かべると刀の柄のレバーとボタンの操作を先刻と同じ操作をした。そして臆することなく靴についているダイヤルを操作した。靴がブゥゥゥンと音を立てる。ヘルガンはそのまま空中に階段があるかのように空中を歩いた。
護衛は何かに気付いたように再度引き金を引いた。弾はヘルガンに当たることなく虚空を奔った。
「なかなか広いコンテナだな」
光学迷彩を起動し、空中からコンテナ内を見て言った。
ヘルガンはシューズについているボタンを操作し空中を歩き始めた。
「少し不安定だが大丈夫か」
ヘルガンは超高熱刀身ヒートソードの電源を切り、鞘に収めた。
ヘルガンが胸ポケットから手榴弾をとりだす。あまった片手で多機能ガスマスクを付け、手榴弾の栓を抜いた。そして手榴弾をコンテナへ向け投げた。
ヘルガンは上空へ歩いていく。
手榴弾から黒紫色の猛毒ガスが放たれた。
護衛隊はそんなことも知らず外へ出たため、猛毒ガスにより視覚、聴覚、嗅覚、感覚を失い、次々と倒れていった。
「第一ラウンド、俺の勝ちだ」




