第四話 竜巻とオカマ
――まさかやられるとはね…
かつこは見覚えのない場所で目を醒ました。石の壁に石の床。正面には鉄格子が嵌められていた。
「ここ、どこよ」
かつこはぼそっと呟いた。
「やっと気が付いたか。ここはミケネコ連合の牢屋だ。」鉄格子の向こうに一人の男が立っていた。
「君は...?」かつこは目を細めて訊いた。
「俺はストーム。君の門番だ」ストームと名乗る男はそう言って目を見開いた。
「ふーん。君はミケネコの連中なのね。なんとなくの予想なんだけど、君前線にいたでしょ?」
かつこの視線は鋭く、冷たかった。
「そうだ」ストームはその視線を気に留めるわけでもなく淡々とした口調で答えた。まるで感情がない。冷静だ。
「ならば君は私の敵…離れな」
かつこは冷淡な声で言うと指パッチンをした。手首についていた錠が音を立てて壊れる。かつこは不敵な笑みを浮かべると鉄格子を蹴った。大きな音を立てて鉄格子が湾曲する。
「じゃあねえぃ、竜巻君♪」
そう言ってかつこは二度、三度湾曲した鉄格子を蹴ると抜け出せるほどの隙間を作った。
「いかせない!」
ストームは腰ポケットからサバイバルナイフを引き抜き、身構える。
「私の前ではナイフはただの鉄よォん」
かつこが余裕の笑みを浮かべる。
ストームがかつこ目掛けて切りにかかる。かつこはナイフの軌道を見極めするりするりと躱していく。
「的確に狙いなよぉん」
かつこは馬鹿にするように言うと空いた脇腹に回し蹴りを浴びせた。ストームは「ぐっ」と短く声を上げた。
かつこはその隙を見て体当たりをするとそのままダッシュで逃げて行った。
「やられた...」
ストームがうずくまりながら呟いた。
******
ミケネコ連合支社前。トランクを持った白衣の長髪の男は建物を一瞥すると中に入った。
昇降機に乗ると会議室のある3階に降りた。
男は会議室をノックし、返答を待たずに中に入った。そしていきなり「君がミズか?」と訊いた。
「…そうだが急に誰だ貴様?セキュリティを如何にして突破した?」
「二つ答えたい事がある。一つ、私はヘルガンだ。名前を聞けばわかると思うから説明は省く。そして二つ、ここのセキュリティなど容易に突破できる」
ヘルガンと名乗る白衣の男はそう言って笑みを浮かべた。
「まさか、あの、Dr.Hellgunか?」
ミズの顔が強張る。わかりやすく驚いた表情をしている。
「そうだ。目的を簡潔に話すが武装教徒の長が私の敵だ。今回私は奴を倒すために君たちに協力するわけだ。いいか」
ヘルガンは抑揚のない声で言った。
「判った。ありがとう、大変力になる」
ミズは嬉しそうな顔をして答える。
ヘルガンはその顔を見て持っていたトランクを開け武器を取り出した。
ヘルガンはミズにその武器を渡す。ミズはその武器を受け取ると様々な角度からその武器を見た。どこからどう見てもただの折り畳みナイフにしか見えない。
「これはなんだ?」
ミズはヘルガンに訊いた。
「物体を切ると再生を不可能にさせる武器だ。接近武器しか貸せないがいいか?」
ヘルガンはトランクを閉じながら言った。
「大丈夫だ。ありがとう」
ミズは刃を取り出したり畳んだりして機能を確認した。
「俺が倒したいのは長の火煉って奴だ。他の武装教徒には手を出さない。私の目的は奴だけだからな」
ヘルガンがミズの眼を見据え言う。
「問題ない」ミズが目を閉じて云う。そして目を開けて続けた。「長の火煉とは一体何者なんだ?」
「それは、言えない」
ヘルガンは短く答えると会議室の窓から迷うことなく飛び降りた。別れの挨拶もなく。
「こんな高いところから...」
ミズはヘルガンが飛び降りた窓まで行き、下を見た。しかし、誰もいなかった。
ミズが窓から下を見ていると会議室の扉が開く音がした。ミズがそちらを向く。
「ミズ提督」
猫背の弱そうな一人の男が近づいてくる。眉が太く目が大きい。鼻下と顎の髭が処理されてなくて雑に生えている。
「なんだいケント大将?」
ケントと呼ばれたその男はミズにどんどん寄ってくる。口にはせずとも何か勢いを感じた。
「アババー教を、保護しましょう!」
ケントはいきなりそういうとミズの肩を掴んで揺さぶった。
「それが得策なのかもしれないがトンケ死後信者は誰も私の指示に従わなくなった。トンケからアババー教を引っ張る人間が変わってからというものそっちの方が支持を集めている。だからもう武力で見せつけるしかないんだよ。」
ミズが視線を落とす。ケントが肩を震わした。そしていきなり叫んだ。
「うおおおお!!」
ケントの眼には殺意が宿っていた。ポケットからナイフを取り出すとミズの顔を切りかかった。
突然の攻撃にミズは躱しきれず頬を切られる。頬から赤い血が流れる。
「なんなんだ!ケント!どうし――」
ミズはナイフの攻撃を躱し躱し言う。しかし言葉は最後まで言うことは出来なかった。それは会議椅子に背中をぶつけたからだ。背後を見ずに下がってしまい背中を強く打ち痛みが走る。
――万事休すか。
ミズはこれ以上逃げ道はないと判断して反撃にでた。
「いい加減にしろ!!」
ミズが叫ぶとケントの顎に肘打ちした。
すると運よく急角度で顎に直撃する。脳震盪を起こし気を失い倒れる。
倒れた先には、――ミズがぶつかった倒れたイスがあった。
ケントはその椅子に勢いよく頭をぶつけた。鈍い音が鳴る。
「ぐっ、うっ」一瞬意識を取り戻したがその後口から涎を垂らして白目を剥いて再度気絶した。
「これで大将とは堕ちたものだ」
ミズは倒れたケントを一瞥して言った。ミズが会議室を出ようと扉の方を向く。其処には全身三毛の生えた人型のネコ科の動物のような者がいた。
「ミズ、俺も戦うぞ」
その動物は少し外した発音で言った。
「君は誰だ?」
ミズは変なものを見ような目で"それ"を見る。
「はぁ。いつも顔合わしてるから気付いてくれると思ったんだがこの姿だとやっぱり気付かないか」
"それ"はそういうと名を名乗った。「俺はマイケルだ。君のペットのね。」
「ま、マイケル!?何を言う?!私はペットは飼っているがそんな不気味なのじゃなくて猫だ!三毛猫の…」
ミズは何かに気付いたようなはっとした表情になる。
マイケルと名乗る"それ"は白い光に包まれた。そして次の瞬間、猫になっていた。ミズが言う三毛猫だ。
「お前....マイケルなのか....?」
ミズは恐る恐る尋ねる。
「そうだと言ってるじゃあないか」
マイケルは再度人間化――獣人化して言った。そして続けた。「俺も協力する」
「ありがとう!マイケル!!」




