第八話 引き金
デデコミズの空気砲は男に直撃する。方向が変わりもう一人の男へ直撃した。男二人は夢香から離れた壁へ叩き付けられる。
「大丈夫か!山本さん!」
デデコミズはビームで割れた窓から中に入る。救助することに注意を奪われ、硝子で何度か傷つくが全く気付いてはいなかった。
「あ、ありがとう、わ、渡辺くん・・・!」
夢香は驚きと恐怖から解き放たれた安心感で涙を浮かべた。
「いやあ~そんなことはないよぉ~」
デデコミズはテレながら口にした。頬を赤らめている。しかし、その時間はそう長くは続かなかった。
「調子にのるなぁ!!」
雨雲は立ち上がると落ちた自動拳銃をデデコミズの眉間へと向けた。
「嘘だろ・・・」
デデコミズはこの世の終わりのような顔をしてゆっくりと手を上げた。額に汗の粒が浮かぶ。
「くっ・・・雨雲。殺せ、デコを狙え、風穴を開けてやれ」
龍牙はそういうと笑みを浮かべた。
「くっ…ど、どどどうせお前らにはこ、こ、殺すことなんて出来ないだろ!」
デデコミズの声は想像以上に弱弱しく大きくはなかった。デデコミズの額から汗が顎に一直線に垂れる。
雨雲は怒りで震える腕を深呼吸で整え、標準を合わせた。銃口の動きが止まる。
――銃声。
乾いた音が何度も何度も部屋に響いた。銃弾はデデコミズの額目掛けまっすぐ飛ぶ。デデコミズは手を下げ、足を肩幅より少し大きい程度に開いて構えた。そして、
「デコインパクト!!」
デデコミズの額から衝撃波が繰り出された。銃弾が衝撃波によって減速する。そして額の一寸先で地面へと落ちた。
カランカランと撃たれた銃弾が次々と石の床に落ちる。
「あいつはなんなんだ!!」
雨雲は恐怖で引き攣った顔で吼えた。先刻と比べ、動揺が激しくなっている。銃を何度も撃った反動からか肩で息をしている。
「俺は俺だ!!」
デデコミズは自信がついたのか先刻より威勢が増す。にやりと笑みを浮かべて部屋を逃げ回る。
――くそ!デコインパクトはだいぶデコエネルギーを消費する...!!なんとかしてデコエネを補給しないと!!
デデコミズのデコ技はデコエネルギーと呼ばれるものを消費する。それはMax時が100で技ごとに消費されていく。今回の技のエネルギー消費量は40だった。先刻のビームと合わせると60。残りは40で戦闘に使えるようなデコ技はあまり多くはなかった。
デデコミズは懐から何かを取り出してそれを飲んだ。コンビニで売られているコーヒーの容器のようなものだ。ストローを刺して勢いよく飲む。透明なストローを黄緑色の液体が渡った。
「呑気に飲みモンのみやがって!!」
雨雲は自動拳銃をその場にすて、龍牙から自動小銃を受け取った。雨雲は再度深呼吸をし、標準を定める。引き金を引いて撃ち放つ。デデコミズは夢香の座る椅子を足で払い、夢香を守るようにしてともに倒れ、銃弾を回避する。そして特技、縄解きを繰り出す。その間、僅か1.2秒。雨雲の小銃が倒れた二人に向ける。その間、0.8秒。銃口を向けたまま、銃身が熱くなったのか雨雲は小銃を放つのを一瞬止めた。その間、1.6秒。そして銃を放った――が、銃弾が地面をえぐったのは二発のみで小銃は天井を向いていた。雨雲の手から小銃が離され、地面に落ちて暴発し壁に一つ風穴を開けた。デデコミズはこの2.4秒のうちに夢香を安全なところへ押し離し、雨雲の足元に屈んでいた。
「アババーの武術をなめるな!!」
デデコミズは屈みから立ち上がる勢いを利用して雨雲のアゴめがけてアッパーを繰り出した。
アッパーは綺麗に顎を捉えた。雨雲は意識を刈られる。脳震盪だ。そのまま地面へ仰向けに倒れた。
「貴様…今、アババーと言ったか?」
龍牙が淡々とした口調で告げる。静かに、しかし威圧ある声だった。
「ああ、そうだが?昔はアババー星にいた。父さんに無理やりアババーの武術をやらされてね。その時にデコ技と肉弾戦と銃の使い方を学んだのさ」
デデコミズは地面を滑ったときの汚れを払いながら言い切り、龍牙と対峙する。その時の顔は今までで一番勇ましかった。
龍牙の顔がみるみるうちに強張っていく。同時に、青ざめてもいた。
「お、お前...トンケ様の...実の子か...?!」
「何をそんなに。そうだよ、トンケの子だ。何がすごいんだ?」
デデコミズは純粋な疑問を口にした。
「お前は親のすごさをしらないのか?可愛そうに。たくさん金を稼いでるというのに...」
龍牙は本当に惜しそうに言った。そこには尊敬の感情など微塵も感じ取れなかった。あるのは富への執着心だけだった。
「お金!!??!?!???!」
「そうだ。金があれば何でも手に入るだろう?豪邸、召使、女、国などな」
「女はいらない。俺は夢香だけで十分だ!!あっ...」
デデコミズは本人がいるのを忘れつい口にした。幸い、夢香は押し離されたときに恐怖で再度気絶していた。
「ほう、ではほかはいるのだな?ハハハ。まあそんなことよりトンケ様の血を直接継ぐものがいるとは...これは失礼した」
龍牙はキレの良い謝罪を見せた。直角に腰が曲がっている。
「俺は父さんはあんま好きじゃない。自分のことしか考えないあいつなんて...」
デデコミズは過去を思い出すかのように右下の虚空を眺めて云った。
「君はトンケの後に就くにふさわしい!今、跡継ぎとして二代目トンケに!!」
龍牙は両手を広げてなんでも受け入れようという姿勢を見せた。口角は上へあがっている。
「断固拒否。なりたくもねえ。アババー教なんてそんな詐欺った宗教何がいいんだ!アバ書房を書かせ作らせ給料は教徒のみに渡してそのほかのやつらは誘拐してきたものを奴隷の用に扱い...時には優秀な奴隷を売買していたこともあった......そして家では自分優先で自分がよければ全て良しの自己中野郎で自分が気に食わなかったら切れて暴力を振って...あいつめ...」
そう言ってデデコミズ歯を食いしばった。歯を噛み砕きそうなほどだった。
「ほほう、そんな奴なのか。」
「そうだ分かってくれたか」
「お前がだ。お前がそんなトンケ様の後を継ぎたくないということがようわかった」
龍牙がくい気味に言った。
「しかし君はトンケ様の息子。トンケ様の血を直下で受け継いでいる。殺すわけにはいかんな。君にはアババー教との女と結婚してトンケ様の孫が生まれればそいつが二代目トンケ様を襲名させれる。だから君にはアババー教の女と結婚してもらわねばな。断るならばここでお前を監禁し夢香を殺す。」
龍牙が続けて言う。その声は地獄の審判のように冷たく、感情がなかった。
「....夢香ちゃんが死んでしまうなら俺は....ここで一緒に死ぬ!!」
デデコミズの眼は真剣そのものだった。常人なら目を逸らしてしまうほど真剣な眼差しであった。
「なかなかの覚悟をお持ちなようで。しかしお前は殺さんし死なさせん。残念だが、条件を飲めないなら今ここで、夢香を殺す。」
龍牙が言った。雨雲がいつの間にか意識を取り戻し、デデコミズの背後に回って首筋にナイフを当てていた。
デデコミズが「ぐっ...」と短いうなり声をあげた。
「渡辺君!!死なないで!私は私でがんばるから...私はどうせ殺せないと思うの!まだ火煉って人にあわせてないから!!・・・だから私は大丈夫なの!!」
夢香はいつから話を聞いていたのか目に涙を浮かべながら訴える。
「駄目だ!!ここで助けれなければ一生山下と会えない気がする!!だから――」
デデコミズは最後まで言い切ることができなかった。
「黙れぇ!」
雨雲がデデコミズの足を払い、倒したからだ。デデコミズに関節技を極め、動きを制する。
龍牙は一歩一歩夢香に近づいて行った。夢香は手足を生まれたての小鹿のように震わせながら立ち上がろうとする。
龍牙はにやりと嗤うと鞭を取り出し、夢香に打ち付けた。部屋に鞭が肌に当たる音が響き渡る。夢香は痛みに耐えれず地面に突っ伏した。
「そうだそうだ!ひれふせえぃ!!」
龍牙は気分をよくしたのか無防備な夢香の背中を何度も何度も鞭で打った。
夢香は悲鳴を上げる。背中がシャツ越しに赤く滲んでいるのが分かった。
「やめろぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!」
それを見ていたデデコミズは耐えかねて大声で叫んだ。デコが赤みを帯びる。それはまるで血の蒸気だった。
「パワー・デコキラー!!!」
デデコミズのデコから竜巻のような空気波動が放たれる。ものすごい轟音ともに至るものが飛ばされ巻き上げられる。背中に乗っていた雨雲は天井に叩きつけられた後、勢いそのままバウンドするように地面へ叩きつけられた。龍牙は竜巻に飲み込まれ体中が細かく切り刻まれた。
しかし夢香やデデコミズには一切影響は無かった。
「俺がぁああ!守りたいものをぉ・・・目の前で失なわさせるかよぉお!!」
デデコミズの顔は赤く紅潮していた。そして目からは大量の涙が流れていた。
「うぉおおぉおおおおおおお!!!!!」
巻き込まれた龍牙が声を上げる。
やがて竜巻波動は小さくなっていき、やがて消えた。
「はぁ、はぁ、はぁ...いくぞ....夢香ちゃん!」
デデコミズは外れかけの腕を回して夢香の元へ寄る。が、
「ごめん....夢香ちゃん....最後まで、助けれなかっ...たっ……」
デデコミズは夢香の手に触れることなく、倒れ、意識は暗い闇の中に落ちていった。
「渡辺君!!!!」
金属音のような夢香な悲鳴があがる。
「ぐっ...ハッハッハ!!私たちに逆らうからだ!!」
龍牙が立ち上がり、全身傷だらけの姿を晒し、云う。雨雲も同様立ち上がり、血を吐くと嗤った。
「では、振るうか。さんざんにまでしてやろう」
雨雲は陰湿な笑みを浮かべ腕まくりをする。
「クックック......うおりりゃぁあああ!!」
雨雲が夢香の前にいるデデコミズを足で払うと夢香の髪をつかみ、立たせた。そして、拳を振るった。
ゴンッと鈍い音がする。拳は顔面を捉えていた。何度も何度も殴られる。夢香の口内は切れ、血が垂れる。鼻血は止まることを知らなかった。
「やめてぇぇぇ!!」
夢香が辛うじて叫ぶ。夢香の悲鳴が響き渡る。防音加工してあるのか近所の人は一切出てこない。窓が割れていて音が聞こえる筈なのに。
――否、ここはアババー教徒の住宅街であった。
雨雲は満足いくまで顔面を殴る。龍牙がエアガンを持ってきた。選手交代だ。夢香の眼からは血と水が混ざった涙が流れていた。
「さあ、どこを撃とうか....」
龍牙が言った。口元は笑みを浮かべている。
――パンッ。と、乾いた音がした。エアガンが発砲された。近距離で撃たれれば後ろの壁へ頭をぶつけるのは避けられない。
しかし夢香は痛くも痒くもなんともなかった。夢香がゆっくり顔を上げる。
そこにいたのは――出雲だった。
胸糞ですね。




