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世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する  作者: 月夜 涙(るい)
第一章:暗殺者は生まれ変わる
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第五話:暗殺者は魔術を知る

 ディアが爆発したビー玉のような石の代わりに、新しい石を取り出した。

 魔力を測定するだけで大爆発を引き起こすとは、魔術は思ったより危険だ。

 それゆえに、強力な武器にもなる。


 ただ、冷静に考えるとああいう現象が起こるのも不思議ではない。

 あの石に込められた魔力は千人分の魔力を持つ俺の三分の一。

 つまり、普通の魔法使い三百人分の魔力が暴発したのだから。

 ただ、魔力を込めただけでああなった。

 もし、爆発させることを念頭に置いて工夫すればもっと威力を引き上げられるだろう……素晴らしい。

 やはり、あの球はほしい。


「なに、物欲しそうに見ているの。あげないよっ」


 その物欲を読まれたようで、師匠ことディアは大事そうにビー玉を抱える。


「今更だけど、その球はなんて名前なんだ?」

「ファール石」


 覚えておこう。

 ディアの領地でとれると言っているが、そこでしか採掘できないわけではないだろう。


「ルーグ、もう一度ファール石を渡すけど、とったらだめだからね。今度は十秒だけ魔力を込めて返して。ほんとなら、全力で魔力込めてもらって魔力量を測定して、その石を見ることで属性を見るんだけど、爆発したせいで二度手間だよ」

「すまなかった」

「ううん、謝る必要はないよ。限界を超えたら爆発するなんて初めて知ったし。ささ、早く魔力を込めて」


 言われる通りに魔力を込めてからファール石を返す。

 それをディアは握りしめる。


「えっと、まずは火から試すね」


 彼女が何か念じると、透明な石が赤く輝く。


「えっと、ルーグの適性属性は炎だね。一応、二重属性の可能性もあるので……他の属性も見ないと」


 そう言うと、再び水晶の色が透明に戻り、次は水色に変わった。


「あっ、すごい。水の適性もあるよ。二重属性の子は、私以外は初めて見た。超レアだよ。自慢してもいいかも」

「今のは?」

「ファール石に込められた魔力に、属性ごとに刺激を与えて、変化するか試すんだ。適性があるとそれぞれの属性になる」

「なるほど、なら残り二属性も試してもらえないか?」

「いいけど……三重属性以上なんて聞いたことも。はれ? なんで、土の適性も!? ううん? 風まで、四属性、全属性魔術士オールマジックユーザー? こんなの実在したの」


 女神に選ばせてもらったからな。

 四属性が使えることの証明がようやくできた。

 ただ、四属性を使える代わりに各属性の上達速度は、半分以下というデメリットがある。……まあ、それも【超回復】による力任せで容易に補えるデメリットだ。


「そのようだな。魔力量と属性が分かった。なら、次はどうする」

「……信じられないことばかりだよ。ふう、でも、慣れてきたかも。もう、ルーグが何しても驚かない。きっちりと教えてあげるよ。魔術をね」


 そう言うなり、俺の背後に立ちそのほっそりとした手を首筋に当てる。体温が低いのかひんやりしている。


「いい? 魔力は普段から使っているようだけど、魔術は別もの。魔術を行うには魔力を属性変換する必要があるんだ。……その手伝いをするよ。初めての属性変換は、強烈な体験となり記憶に残る。だから、下手な師匠が手引きすると変な癖がついちゃう」

「ディアは下手な師匠じゃないんだろう?」

「誰よりも素敵な初体験を約束するよ。……あっ、変な意味じゃないから!」


 そんな意味にとるわけがない。

 ちょっと変わった子だ。

 首筋から不思議な力が流れ込んでいる。

 ファール石に込めた魔力を変化させたように、俺の体内の魔力を直接変換しているのか。


「集中してルーグ、最初は土。私の得意な属性だね。魔力の変化を肌で感じて、心に刻んで」


 言われる通り、目を閉じて体内の魔力の変化を感じ取る。

 魔力が変換されて形を変える感覚を覚えていく。

 心地いい。

 ディア以外にされたことがないから比較はできないが、ディアがうまいというのは間違いないようだ。

 しかし、そんな心地よい時間にも終わりがくる。

 ディアが手を離す。


「もう覚えたよね。やってみて」

「素敵な初体験をありがとう。……おかげで、だいたいわかった。こうだろう?」


 体が覚えた。だから、できる。

 ディアが導いてくれたように、無色の魔力を土属性へと変える。


「まだまだ荒いよ。いくら魔力が大きくてもうまく変換できなければ意味がないんだ。普通の魔術士はせいぜい六割。でも、私が教えているんだから。最低、八割の変換効率は達成してもらわないと」


 魔術に使えるのは属性変換された魔力だけ。

 つまり、変換できなかった魔力はすべてロスになる。


 なるほど、父が師匠を厳選したわけだ。

 下手な師匠に変な癖をつけられれば、その魔術士は生涯、魔術変換のロスに苦しむ。

 本当にいい手本を見せてもらった。

 自分でやってみてわかる。

 何気なくディアがした魔力変換がどれだけ素晴らしいものか。

 思い出せ、あの技を。


「まあ、そう簡単にはいかないけどね。何年も修行をって、すごい、もう、ここまで上達を!?」

「手本がいいからだ。それでも、ディアには遠く及ばない」

「初日から追いつかれたら私のプライドがぽっきりだよ! これでも天才って言われているのに……魔力の属性変換は基本で奥義。日々鍛錬してね。ふふふ、終わりなんてないんだよ。それにルーグは四属性あるから四倍大変かな」


 不思議と土の変換ができるようになったことで、残りの三属性も、なんとなくやり方が分かる。

 毎日、少しずつ練習しよう。

 そうやって土属性の魔力を高めていると脳裏に見たことがない文字の様な、図のようなものが浮ぶ。


「あっ、その顔、魔術を覚えたんだね」

「これが、魔術か」

「うん、一定以上の属性魔術を身に帯びると、神から啓示を受けて魔術を覚えるんだ」

「……たしかに脳裏に浮かんではいるが、これ、どうやって使うんだ?」


 意味の分からない文字が並んでいるだけで、読むことすらできない。


「属性変換した魔力を高めながら詠唱する……脳裏に浮かんだ文字を読み上げればいいの。見ていて」


 ディアが美しい声音で聞きなれない言葉で詩を紡ぐ。

 発音、アクセント、この国の言葉とはまったく別もので異質だ。詠唱が終わると彼女の手から鉛の塊が生まれる。


「土属性で最初に浮かぶ魔術がこれだよ。鉛を生み出す魔術。魔術は使えば使うほど、新しい魔術が脳裏に浮かんでいくんだ。神様が新しい魔術を授けてくる。今は柔らかい鉛を生み出したけど、鍛錬していけば、もっと硬い鉄を生み出すことができるんだから!」


 確かに鉄のほうが硬度はあるが、別に鉛は鉄の下位互換と言うわけではないのだが。

 そして、ようやくわかった。これが通常は神に与えられた術式しか使えないという意味か。

 属性魔術を繰り返すごとに、使える魔術が脳裏に増えていくのは面白い。


「俺もやってみたいんだが、この不思議な文字というか、図のようなものが読めない。この頭に浮かんでいる文字の読み方を教えてくれ」

「うん、それが基本だよ。魔術文字は正しい発音が命! 発音の正しさが精度と威力に影響するから」

「魔力変換と、詠唱のうまさ、その両方が重要か、なかなか大変だ」

「めんどくさいうえに、弱点もあるから初めから魔術は一切使わないって人も多いぐらいだしね」

「それは本当か? 今見せてもらった鉛を生み出す魔術だけでも、便利に見えるが」


 なにせ、鉛の塊を投げるだけでも十分武器になる。

 いつでも武器を取り出せるというのは大きな強みと言える。とくに暗殺においては凶器を隠し持つ手間が省ける。


「言ったよね。面倒なだけじゃなく、弱点があるって。魔力持ちは戦場で一般人の百人分の力があるって言われてるけど。それは魔力を纏うことで身体能力と防御力が向上するからだよ。でも、詠唱中は魔術に魔力を注ぎ込むから身体能力も防御力も一般人と変わらなくなっちゃう。かなり危険なんだ。だから、割り切って最初から使わないっていうのはわかるよ」


 たしかに。

 とくに刃が届くような距離で無防備になるのは致命的だ。

 それでも魔術には可能性がある。


 ……それに、せっかく【式を織るもの】という魔術を生み出す力を手に入れたのだ。使わないのはもったいない。

 鉛を生み出す魔術、そしてそれより上位では鉄を生み出す魔術がある。

 ならば、【式を織るもの】で術式を改変することで、もっと戦闘に適した金属を生み出せる魔術を生み出せるのではないか?


 例えば、鉄とほぼ同じ硬度を持ちながら六割程度の重量で武器に適したチタン。

 超重量かつ超硬度のタングステン。

 チタンで軽く丈夫な斬撃武器、タングステンで超硬度で貫通力がある槍や弾丸を作れば大きな戦力増加になる。

 この時代の技術では、武器に使うのはせいぜい不純物が多く混じった質の悪い鉄。

 より強い金属の武器を使えるというのは、それだけで大きな優位性をもつ。

 そもそも無から金属を生み出せると言うこと自体がすごい。例えばだが、高くジャンプしてから超重量金属を生み出せば、それを叩きつけるだけですさまじい運動エネルギーになる。

 ……加えて、土魔術で生み出した弾丸を火の魔術の爆発でとばせば疑似的な銃器となるのではないか?


 もしもファール石を魔術で生み出すことができればいつでも大火力の爆弾を作れる。

 一気に、無数の可能性が見えてきた。たった一つ魔術を使っただけでだ。他の魔術を知ればもっといろんな発想が生まれるだろう。

 第一、詠唱中に魔力で体を守れないというのも気にはならない。俺は戦士ではなく暗殺者。

 戦闘に陥っている時点ですでに失敗している。安全圏から一方的に殺害するのが常であり、詠唱時に防御力が落ちるデメリットも気にならない。


「あの、さっきからずっとにやにやして、どうしたの?」

「ああ、すまない。ちょっとな」


 考えているだけで、わくわくしてきた。

 とはいえ、まだこういう検証は先でいい。

 まずは魔術文字を覚えて、発音できるようになり詠唱を完璧にしなければ。

 普通の魔術を十全に唱えられるようになって初めて、応用ができる。

 ディアなら完璧な発音を教えてくれるだろう。

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