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世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する  作者: 月夜 涙(るい)
第二章:暗殺者は勇者を……
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エピローグ:暗殺者は学園を去る

 魔族との戦いが終わった。

 気を失わせた勇者エポナを背負って学園を目指す。

 にしてもひどいありさまだ。

 俺が放った神槍【グングニル】で地形が変わっている。


 今回はこの時代において、初の魔族の出現であり、学園はすさまじい被害を受けた。

 たった一体の魔族が現れただけでこのざまだ。

 女神は、勇者を規格外と言ったが、魔族もその規格外にいる生き物であり、規格内の生き物がどうあがいたところで勝てはしないということを実感した。

 今回の魔族が特別強い個体である可能性もあるが、それは希望的観測にすぎない。


「そんな魔族すら、勇者が本気になれば一蹴できるか」


 俺がほぼすべての手札を使っても殺せなかった魔族をエポナは瞬殺した。

 もとより別格の強さを持っていると思っていたが、想像以上だ。

 勇者にはパーティなどいらない。

 必要なのは魔族の出現情報を集める人員と、発見した魔族の足止めぐらいだろう。

 魔族が現れれば、防衛戦に徹して勇者が来るのを待つことしかできない。……たとえ、どれだけ勇者が遠くにいて、どれだけ時間がかかろうと耐え忍び続けるのだ。

 領地を持つ貴族としては、そのことはひどく歯がゆく思える。

 自らの領地の命運を他人に握られてしまっているようなものだ。


「収穫はあったな」


 エポナを殺すためにはどれだけの力が必要かわかった。

 全力攻撃の後であれば気を失わせるぐらいはできることも。

 ……何より、勇者が魔族を殺すところを見て、魔族を殺す方法に仮説を立てられた。

 この仮説はすぐにでも実証できる。

 学園が見えてきた。

 迎えのものたちが走ってくる。

 さて、どう説明しようか。


 ◇


 まる一時間、事情説明をさせられた後に解放された。

 エポナがぐっすり眠っていたこともあり、事情説明できるのは俺だけだったせいだ。

 俺の活躍すべてをエポナに押し付けている。

 そうしないと、動きにくくなるのは目に見えていた。

 まあ、すべてを正直に話したところで信じてもらえなどしないだろうが。


 そのため、エポナはオークの軍勢を蹴散らし、その後に魔族との連戦を行ったせいで力尽きた。そういうシナリオになった。

 会議室から出たところで、タルトとディアがやってくる。

 どうやら、俺のことを待っていてくれたようだ。

 二人の無事な姿を見てほっとする。


「お疲れさまです。ルーグ様」

「今回は派手にやったね」


 二人は俺の仕業だと気付いているようだ。


「久しぶりに思いっきり暴れたおかげですっきりしたよ」

「でも、良かったんですか? 勇者の前で本気を出して」

「いい訳がないだろう?」

「やっぱり、そうですよね」


 エポナのスキルには解析系のスキルがある。

 一度見せた技は通用しない。

 オーク・ジェネラルを殺し続ける過程でほぼすべての手札を晒している。

 そのすべてが通用しなくなったのは大損害だ。


「でも、後悔はしていないんだよね」

「ああ、この学園もおまえたちも守りたかった。それが俺の最優先目標だった。それにな、俺ならもっとすごい手札を生み出せる」


 二人の頭を撫でる。

 すると、甘えて寄り掛かってきた。


「ルーグ、学園どうなるのかな?」

「たぶん、休校だな」


 外壁はぼろぼろで砦としての役割を果たしていない。

 怪我人は多数。死者も出ている。

 休校どころか、閉校すらありえるだろう。


「残念だね。この学校けっこう楽しんでたのに」

「……俺もだ」


 ただ、これはどうにもならない部分だ。

 あとは大人たちに任せるしかない。


「とりあえず、立ち話もなんだ。帰ろう。腹が減ったな。食事の配布があればいいんだがな」


 この学園は砦としての機能も持つ。

 糧食ぐらいはあるだろう。


「万が一のときは任せてください。日頃、余った材料を保存食に加工して隠してます」

「えっ、タルト、そんなことしてたの? 私、知らなかったよ」

「ふふふ、貧乏村に暮らしていましたからね。飢えの辛さは良く知ってます」


 おそらく、貴族の使用人でこんなことをしているのはタルトだけだろう。微笑ましい。

 寮に着いた。幸い、寮は無事だ。

 今日は食事をしてから、ゆっくりと休もう。


 ◇


 翌日、全生徒を集めた集会で、正式に休校が発表された。

 学園の復旧に二か月かかるそうで、それまでは各自帰宅する。

 もともと、夏休みが二か月あるので、それを前倒しにするという形式だ。

 閉校にならなかったのは良かった。

 貴族の子女を危険にさらしたことで、各所からクレームが来ているはずだが、逆にこの学園があったから魔族の軍勢を早期に駆逐できたということが評価されたようだ。


 魔物と戦うのは魔力持ちの義務であり、筋は通っている。


「二か月のお休みですか。急に時間が出来ちゃいましたね」

「ちょうど、いろいろとやりたいと思っていたところだ。都合がいい」


 魔族殺しの方法を実験したかったし、新たな手札の補充も必要だ。

 学園に再び戻るまでの二か月はそれらを行おう。

 俺たちのところにエポナがやってくる。

 申し訳なさそうな顔でおどおどして。

 だけど、少しだけ前向きになっている気がする。


「ルーグ、まだお礼を言えてなくてごめんね。……僕を止めてくれてありがと」

「約束だからな」

「また、ああなったら僕を止めて」

「そのときは殺してでも止めてやる」


 それは約束であり、俺がここに来た意味。

 エポナが世界の敵になれば、そのときは暗殺しよう。

 だけど、学園で共に過ごして悪い奴じゃないことは知っている。彼女が暴走しないように手助けも並行して行う予定だ。


「じゃあ、僕は行くね」

「地元に帰るのか?」

「ううん、騎士団の拠点でお世話になるんだって」


 魔族が現れれば、即座に勇者を派遣するためだろう。


「しばらく、お別れだな」

「寂しくなるね。またね」

「ああ、またな」


 彼女の背中を見送る。

 ……実は学園長から個別に呼び出されて任務を受けている。

 そのせいで、また近いうちに彼女と会うことになるのだが、それをここでいうのは無粋だろう。


「タルト、ディア。俺たちも帰ろうか」


 遅れて、学園の救援にきた騎士団が学生たちを最寄りの街まで運んでくれる手はずになっていた。

 それに便乗する。


「はい、ルーグ様。戻ったら、トウアハーデの素材でご馳走を作りますね」

「私は、こっちにもってこれなかった研究資料の見直しがしたいね」


 もう一度力を蓄えよう。

 もっと強くなれるように。

 ……そして、魔族殺しの方法も完成させねば。

 エポナを助けたいだけじゃない。

 もし、魔族を倒せなければ大事なものを失う。そんな状況で後悔しないように。

 勇者の力に頼らなければ大切なものを守れないなんていうのは、俺のプライドが許さない。

 馬車がやってきて、乗り込み、走り出す。

 窓をあけて、学園の門を振り返る。


「また、戻ってくる」


 学園が小さくなっていく。

 この学園に居たのは短い間だったが、なかなか楽しかった。

 より強くなって、ここへ戻ってこよう。

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四巻はドラマCD付き特装版も同時発売。魔族を倒したことで王都に招かれたルーグの活躍をお楽しみに!
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