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世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する  作者: 月夜 涙(るい)
第二章:暗殺者は勇者を……
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第二十五話:暗殺者は勇者に信頼される

 数百もの軍勢を蹴散らした。

 残るはただ一体。

 だというのに、絶望的な戦いを強いられていた。


「お主、騎士ではないなぁ。卑劣で、容赦なく、面白い。今度はどうやって殺してくれるのかのう」


 喜色満面で、オーク・ジェネラルが突っ込んでくる。

 さきほどから殺し方を変えながら十回殺している。

 斬殺、撲殺、絞殺、刺殺、欧殺、毒殺、爆殺、圧殺、焼殺、射殺。

 そのどれも効果がない。

 すぐに再生して、何事もなかったように襲い掛かってくる。

 そろそろ手札が尽きそうだ。


「【風檻】」


 オリジナル魔法の詠唱が終わり、魔法の発現。

 それは、風を操る魔法を使った魔法。

 風の檻。

 それだけを聞くと、ろくな威力がないように聞こえるが、風の性質が問題だ。

 大気中にある二酸化炭素だけを定めた空間に満たす。

 二酸化炭素百パーセントの空間に放り出されれば、体内の酸素が一瞬で放出され、即時に窒息する。


 ……これもまた、勇者殺しの技。

 どれだけ勇者が規格外の防御力を持っていようと、呼吸しているのだ。

 ならば、酸素を奪えば殺せるかもしれない。

 そのために開発した魔法だが、魔族にも効果的だったようだ。

 オーク・ジェネラルが白目をむいて絶命した。


 距離を取り、息を整える。

 薬物により、リミッターを外しながらの全力戦闘。

 体力・魔力の消費が激しいが、体へのダメージも大きい。


【超回復】は熟練度をあげ、今や百二十倍程度の回復量になっているものの、逆説的に言えばその程度。

 一秒で、百二十秒分、つまり二分程度の回復ができる能力でしかない。

 それを上回る勢いで体力や魔力を消費し続け、体を傷つけ続ければ、いずれ動けなくなる。

 だいぶ前から回復が追いつかない無茶を続けていた。

 そうしないととっくに終わっている。


「初めてじゃのう、なぜ死んだかすらわからない殺し方をされるのは。でっ、それで終わりか」


 当然のように奴は生き返る。

 その様子を注意深く観察していた。


「……さあな、そう思うならかかってくるがいいさ」


 薄く笑う。

 様々な殺し方を試した。

 それと同時に、生き返り方を見ていた。この、トウアハーデの瞳で。


 魔力の動き、殺し方による再生の違いで、不死のからくりを見破ろうとしていた。

 書物では存在の力によって、受肉しているなんて抽象的な書き方をしているが、それを額面通り受け取るつもりはない。

 なにかしらのルールがあるはずだ。それを解明すれば殺せる。

 ……俺は諦めが悪い。

 エポナが最後まで立ち上がらなければ、死ぬなんて、割り切れない。

 だから、自力で勝つ方法も考えていたし、それすらできなかった場合にどうするかも考えてある。


 このペースなら、五十秒が戦える限界であり、こいつ相手に少しでも緩めれば死ぬのでペースも落とせない。

 いよいよ、最後の最後の手を取るしかなさそうだ。

 その手とは、余力があるうちに撤退し、気配を消して隠れながら、回復を待つ。

 学園に戻り、ディアとタルトを回収して逃げ出すこと。

 二十秒以内に判断すれば実行可能だ。

 あと十秒……。


「なにかたくらんでるのう。わしを楽しませてくれ」


 一方的に獲物を狩る狩猟者の面持ちで、馬鹿の一つ覚えのように金棒で殴り掛かってくる。

 時間切れだ。これを躱せば逃げよう。

 金棒の軌道を読み切る。

 しかし、その一撃を躱す必要すらなくなってしまった。


「ルーグ、君の強さはよくわかったよ」


 俺に振るわれた金棒を、エポナが受け止めたからだ。

 オーク・ジェネラルがいくら力を込めてもぴくりとも動かない。


「君は強いよ。でも、僕の力を受け止められない……だけどね、僕を殺すことができそう。一つ約束して、僕が化け物になったときは殺して。そう約束してくれるなら、僕は力を振るえる」


 化け物になったら殺してか。

 頬が吊り上がるのを堪える。

 もとより、俺はそのつもりだったから。

 ……エポナが世界の敵にならない方法を探す、それがだめなら殺す。それこそが俺の方針。

 することは変わらない。


「わしを前にして、おしゃべりとは余裕じゃのう!」


 虚空からもう一本の金棒を呼び出し、オーク・ジェネラルが振り下ろす。

 エポナの脳天に直撃し……金棒のほうが折れた。


「うるさいよ」


 金棒を持った手を振るう。

 オーク・ジェネラルが吹き飛び、石壁に叩きつけられる。

 エポナの周囲を赤いカゲロウが覆う。

 このスキルを知っている。

 Sランクスキル、【ベルセルク】。

 スオイゲルでセタンタが使ったスキル。

 男性であれば、角が生え、筋肉が膨れ上がるなど、肉体的な特徴に変化がでるが、女性であれば赤い陽炎を纏う。


「ルーグ、僕を殺すって、約束できる?」


【ベルセルク】の影響で、今にも暴れ出しそうになるのを堪え、エポナが問いかけてくる。


「約束する。もし、エポナが化け物になったときには俺が殺す……俺は暗殺者だ」


 エポナが微笑む。

 子供のように無邪気な笑顔。

 信じてくれたからこそ、俺は素性を明かした。


「うん、安心した」


 エポナは壁に叩きつけられたオーク・ジェネラルへと視線を向ける。

 一歩一歩ゆっくりと歩く。

 どんどん力を増しながら。

 赤い陽炎が強く強く燃え上がる。

 その果てはなく。

 無限に力が増していく。

 それに伴い、エポナの表情が狂気に満ちていく。

 拳を握り締めた。


「なっ、なんじゃ、その力は。勇者とはいえ、そんな力はありえぬっ、まさか、お主は、模造品じゃなく、本物オリジナルの」


 ここに来て、オーク・ジェネラルが初めて焦っている。


「来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 大口をあけ、次々にオークやゴブリンが現れていき、エポナに殺到し、本人は逃げようとする。

 しかし、オークやゴブリンは足止めにすらならない。


 なぜなら、【ベルセルク】により噴き出た赤い陽炎に触れるだけで塵一つ残さず消滅するからだ。

 ……おそらく、俺の【砲撃】であろうと、赤い陽炎に触れた瞬間に砲弾は消え去るだろう。

 ああ、なったらもう終わりだ。

 触れることすらできない。


「もう、僕は自分を抑えない。……きひひひひ、全部込めて、ぶっとばす」


 エポナが振りかぶった。

 赤い陽炎が、拳に集中する。


「やめろおおおおおおおおおおおお」

「あはははははははっははははははっ!」


 オーク・ジェネラルの悲鳴と、エポナの叫びが重なる。

 エポナの全身全霊の一撃は触れる前にオーク・ジェネラルのすべてを消滅させ、赤い衝撃波で地の果てまで抉られる。


 限界まで目に力を込めてその様子を見ていた。

 オーク・ジェネラルは肉体がまず消滅し、次に赤い宝玉のようなものが砕け、存在が消えた。

 ……魔族の殺し方、今まで自分が殺したときとの違いを見て、ようやく仕組みが分かった。

 なるほど、やりようによってはアレは殺せる。

 もちろん、あの赤い宝玉が本体で、それを壊せば死ぬなんてちゃちなものではない。

 勇者の力がもつ特殊性こそが鍵だ。


「エポナが拳を真っ直ぐ突き出してくれてよかった」


 あれが大地に叩きつけていたら、俺の【グングニル】以上の大惨事を生み出しただろう。

 さて、最後の仕事だ。

 エポナは血走った眼で天を見上げて哄笑し、……顎に【砲撃】を受けて昏倒した。


「殺すとは約束したが、今回は殺さなくても大丈夫だったようだ」


 危ないところだ。

 完全に眼が逝って理性なんて吹き飛んでいた。

 あんな力で暴れられたら、ここら一帯が更地になる。

 本気を出せないわけだ。


 エポナが全身全霊を放った直後だからこそ、【砲撃】が通じた。あの瞬間でなかったらまったく意味をなさなかっただろう。

 戦車砲に匹敵する砲撃で、顎を揺らすのが精いっぱいなんて笑えてくれる。

 こっちは、最悪殺してしまう覚悟で放ったというのに。


「この状況なら殺せる」


 気絶したエポナを見下ろす。

【グングニル】の直撃で、無防備なところを狙えばさすがに死ぬだろう。

 だが、それはまだ早い。

 魔族一体でこの様、エポナにはまだまだ働いてもらわないといけない。


「図らずとも、殺せることは証明できたな」


 力を使い切ったところで、気絶させ、それから切札を放てば、殺せるとわかったのは収穫だ。


 さて、学園に戻るとしよう。

 エポナを担いで歩き出す。

 エポナが起きる前に、オークの群れをぶっ飛ばしたのも全部彼女の仕業ということにしておこう。

 あれをやれるとばれたら、また面倒なことになるだろうから。 

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