第二十三話:暗殺者は助ける
このままじゃ、エポナが負ける。
故に手助けをすることにした。
まだ勇者に死なれるわけには行かない。
詠唱を始める。
「【銃配置】」
異次元に武器を収納する鶴皮の袋から、二十二もの銃を取り出し、磁気を操る土魔術で空中に設置。
これらの銃は特別製。
砲と違って、このサイズではファール石の爆発には耐えられない。
だから、ファール石をパウダーにして詰めた。
それにより、小回りが利くようになっているし、筒内で爆発系の魔法を使うのとは比べ物にならないほど発射までの時間が短い。
銃よりも砲のほうが圧倒的に威力が勝るが、銃には銃の良さがある。
威力が少ないと言うのは反動が小さいこと、だから空中固定で射撃もできるし、精度が圧倒的に高い。
ゆえに、こういう精密性が求められる場では有効な手となる。
「【照準】」
磁気で浮かぶ銃の一つ一つが方向を変えて照準を合わせる。
二十を越える銃の照準を同時に行うなど、常人には不可能だが、意図的に脳へ負荷をかけ続け、それを【超回復】で癒し、【限界突破】で成長の上限がない俺の脳ならそれは容易だ。
すべての銃が、環境要素をも計算しつくしたうえで照準完了。
「【一斉射撃】」
魔力を注いだことで、ファール石パウダーが臨界になり射撃。
タングステンの弾丸が二十二発、吐き出された。
それらはすべて、人質を体に括り付けているオークの頭だけを吹き飛ばす。
勇者にすらできない、高威力の超精密同時攻撃。
血と脳しょうがぶちまけられて、首から上が吹き飛んだオークたちが次々に倒れる。
……一発は、万が一通用すればラッキーだと思い、魔族であるオーク・ジェネラルに放ったが、弾丸が額の半分ほどで止まっている。さすがに固い。
「エポナ! 人質を回収しろ」
俺は叫ぶ。
俺一人で救出は不可能だったのは、あの人数を担いでオークの群れから逃げるなんてできないからだ。
だが、人質を運ぶオークを皆殺しにするぐらいはできる。
「ルーグ?」
「早く!」
青い顔をしたまま、エポナが人質たちを回収する。
オークも人質を取り戻そうとするが、エポナのほうが数段早い。
これで、エポナは戦えるはずだ。
しかし、代償として、暗殺対象の前でカードを一枚晒した。
後悔はしていない。エポナにはまだ死なれては困る。
「ほう、伏兵か。あの信号弾を打ち上げたのも少年かね。おかげで、わしの策は失敗じゃのう。まあいい、次じゃ。これで詰みだのう。ほほほ」
オーク・ジェネラルは背を向けて、走り出した。
とんでもない速度だ。
鈍重な外見からは想像できない。
そして、時間稼ぎのためか残されたオークたちが俺たちのほうへやってくる。
……今までの行動を見る限り勇者を殺すのが目的のはず、なんのつもりだ。
考えている時間はない。
まず、対処しないと。
「エポナ、何をやっている。雑魚を片付けて、魔族を追わないと。あいつがいる限り、敵は増え続ける」
「うっ、うん、わかってる。わかってるけど」
戦おうとして、エポナが嘔吐した。彼女は助けた人質を見ていた。
まさか、さっき人質を殺してしまったせいか。
それを引きずってしまっている。
……どうやら、エポナは頼れないらしい。
「わかった、そこで休んでいてくれ。この連中は俺が倒す」
「ウガアアアアアアアアアアアアア」
「ゴロスウウウウウウウウウウウウウウウ」
そう宣言して、【銃撃】により【一斉射撃】の準備を始めた。
一度見せたカードだ。
もう、今更躊躇うこともあるまい。
◇
数分後、なんとかけしかけられたオークたちを殲滅した。
しかし、オーク・ジェネラルは完全に見えなくなってしまった。
「ルーグって、こんなに強かったんだね。僕、知らなかったよ」
疲れた表情で、エポナが声をだす。
「火事場の馬鹿力だ。……それより、魔族を見失った。少し調べてみる」
トウアハーデの瞳を限界まで強化してから、このあたりでもっとも背の高い木に登る。
そして、あいつが逃げ去った方向を見る。
次の策があると言っていたが……。
なるほど、そういうことか。
そこで見える光景を見て唇をかみしめる。
「拡散していた戦力が一か所に集まっている。なんて軍勢だ」
勇者エポナに壊滅させられることを恐れ、分散させていた戦力が一か所に集まり、オーク・ジェネラルを中心とし、ゆっくりと進軍を開始しようとしていた。
学園側も、迎え撃とうと戦力を集めている。
十分もしないうちに大合戦になる。
その様子をエポナに伝えた。
「行こう。おまえがいかないと皆殺しにされる。あの数なうえ、俺たちは疲労が限界に来ている。そう長くもたない」
その言葉を聞いてもエポナは動かない。
手を引っ張るが、その手を払いのけられた。
「そんな、無理だよ。だって、そんな戦場、僕、みんなを巻き添えにしちゃう、戦うの下手だから。それに、僕、どんどん熱くなって、我を忘れて、さっきみたいに、何も見えなくなって思いっきり力を振るって、また、殺しちゃう。みんなみんな、きっと、ルーグたちだって」
そう言って座りこんだ。
「また熱くなって周りが見えなくなったら俺が止めてやる。だから、戦ってくれないか」
「無理だよ。ルーグに僕は止められない。だって、前もそうだったじゃない。僕は誰にも止められない。もう、僕は殺したくない」
泣き笑いで俺の顔を見た。
……そうだな。この前、俺は失敗した。
深呼吸。
考えをまとめ、覚悟を決めろ。
このままだと学園はオークの群れに飲み込まれる。
タルトもディアも、クラスメイトたちも殺される。
勝つには、エポナの力が必要。
しかし、エポナは立ち上がれない。
たぶん、ここでどれだけ言葉を重ねてもエポナが立ち上がることはないだろう。
言葉だけじゃ足りないなら、行動と誠意でしめそう。
「実はな、俺は本気を出してなかったんだ。見ていてくれ。これから俺がおまえを止めれるぐらいに強いと示すから」
約束をして、走り出す。
一切の制限なく、限界の強化を施して。
無限とも言える魔力のうち、俺が出せる限界出力。常人の十倍をも越える魔力が溢れでて、それらがすべて無駄なく身体能力強化に使われる。
出し惜しみはやめた。
「すごい、それが、ルーグの力」
俺の全力を持って、オークの群れを壊滅させる。
魔族を殺すのは無理でも、それ以外ならなんとかしてみせる。
そして、エポナの信頼を取り戻す。エポナが俺を信頼すれば、魔族と戦えるようになる。
それしか手は残っていない。
大事なものを守るためなら、俺は今の手札を晒すことにためらいはない。
たとえ、今回のことで手札を知られたとしても、
新たな切り札をまた用意すればいい。
ここで躊躇って、タルトやディアを失うなんて愚行、俺はしたくないのだ。