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世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する  作者: 月夜 涙(るい)
第二章:暗殺者は勇者を……
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第十六話:暗殺者は軍務を受ける

 タルトの術後は良好だった。

 あれから数日経っており、昨日は模擬戦でもトウアハーデの瞳を活かして俺を追い詰めてきた。

 今まで持て余していた速さを制御できるようになったことで、一気に強くなった。

 俺の見立てでは、あのノイシュすら近接戦では凌駕できる。

 それは、同年代では無敵だということを意味する。

 教室に着き、ノイシュと雑談していると放送設備が起動する。

 


『一年、Sクラス。ルーグ、ノイシュ、エポナ、クローディア、タルト。以上五名は五分以内に第二面会室へと来るように。これはすべてに優先する』


 この五人を?

 エポナを除いた四人であれば、勇者のサポートに関しての話だろうが、エポナまで呼ばれたのなら別件だ。


「この時間からの呼び出しか。かなりの緊急のようだ」

「僕もそう思うよ。学生に授業をサボれなんてね。嫌な予感しかしない」


 さきほどまで雑談していたノイシュと苦笑いを浮かべた顔をつき合わせる。

 面倒ごとでなければいいのだが、こういうことは面倒事でないはずがない。


 ◇


 教官室に行くと、Sクラスを担当する教官と騎士服を纏った凛とした女性がいた。

 騎士服に飾り付けられた勲章の数を見る限りは優秀で、それなりの立場にあるようだ。

 教官は、俺達に座るよう促し、席に着くのを見届けてから、壁に立てかけられている地図の一点にペンで印をつけて、口を開く。


「授業を欠席させてすまない。単刀直入に要件を伝えよう。君たちには実戦に出てもらう。ここから西に四十キロほど先の村に百匹程度のオークがせまっている。村自体はさほど戦略的な価値はないが、オークはその性質上、人間の女性を繁殖に使う。ここでやつらの勝手を許せば、倍に増えたオークがその先にあるルートリアの街を襲うだろう。それはなんとしても避けねばならない。そのため、村を襲うまえに渓谷で待ち伏せて殲滅する。ポイントはここだ。ここなら、両側が崖でありオークたちの数の有利が薄れる」


 魔物の大量発生か。魔族、魔王の兆候としてそのようなことは起こり得るものだし、覚悟もしていた。

 しかし、これだけの規模は聞いたことがない。


 作戦自体は非常にわかりやすいし、理にかなっている。

 ルートリアの街は、この辺一帯の経済の中心であり、落とされるわけにはいかないし、そもそも襲撃自体を見過ごせない。


 強固な防壁によって、防衛能力は高いが、あの街の門を閉ざせば、それだけで物資の流通と経済は滞り、大きな損害となる。

 しかし、三点不自然な点がある。

 俺はゆっくりと手をあげる。


「ルーグ・トウアハーデ。発言を許可する」

「はい。三点疑問があります。村の先には砦があったはずです。オークたちはほぼ無傷で砦を突破したということでしょうか?」

「回答しよう。オークは突然、砦より内側で生まれ出た。そして、砦の戦力は現状、別の魔物からの攻めに対応しているため、応援は出せない」

「では、2つ目です。我々は正騎士に匹敵する力を持つと自負しておりますが学生です。入学してから日も浅く軍事作戦を行うために必要な訓練を受けておりません。未熟な我々にこの任務を任せる理由をお聞かせ願いたい」


 自信がないわけではない。

 だが、不可解な点はなるべく潰したい。強さうんぬんの問題ではなく、戦場において組織的な行動をとるための下地が俺たちにはない。

 そんな俺達を使うのは異常だ。


「良かろう。理由は人手不足だ。魔物の駆除を行う場合、まずは領地を治める貴族が対応し、対応しきれぬ場合、魔法騎士団に要請がくる。最近、魔物大量発生が相次ぎ、騎士団は王都の防衛に必要な人員以外は出払っている。魔法騎士団で対応できない場合には、この騎士学園が教官・生徒を派遣する。しかし、教官も上級生も出払っており、頼めるのは君たちしかいない。君たち五人しか呼ばなかったのは、第一学年で任務に従事可能なのは君たちだけという判断だ」


 随分と買ってくれてはいるようだ。

 オーク、実物を見たことはないが文献にある限り、魔力持ち以外が挑むのは自殺に等しい。


 騎士たちと先輩たちが出払っているのなら、軍事訓練を受けた一般人よりも、素人同然の魔力持ちのほうがまだマシというのは納得できなくはない。


「では、3つ目です。相手はオークです。最悪の事態を想定するのであれば、女性は同行させないほうが得策です。タルトとディアは外すべきかと」

「オークの性質を知っているとはよく勉強している。さすがは首席の一人だ。だが、あえてこう言おう。君が守ればいい。群れの規模が大きく、これ以上人員を減らすわけにはいかない。リスクを抱えてでも最大の戦力をぶつけるべきだ」


 正気か? と問いたくなる。

 オークの特徴は三メートル近い巨体と、巨体に相応しいパワー。

 そして、独自の生態系だ。

 あいつらは雄しか存在しない種族であり、他種族の雌を孕ます。

 極めて、生殖能力が高く。半日以上交わり続け、よほどのことがない限り一晩で雌は孕み、子供は三日ほどで生まれる。


 ……問題なのはその生まれた子供だ。

 オークの隠れた性質として、母体になった種族の長所を受け継いだ子が産まれてしまう。

 村が襲われた場合に問題なのは、オークの数が増えるだけでなく、人間を母体にした場合、人間と同程度の頭脳をオークが手に入れてしまいかねないこと。

 そんなオークが統率を取ることで危険度が跳ね上がるのだ。

 そして、さらに最悪なのは……。


「タルトとディア、二人がオークの苗床になった場合、とんでもない化け物が生まれてしまいます」

「同じことを言わせるな、そのリスクは理解している。そして、君にはそうさせるなと言っている」


 母体の長所を引き継ぐ以上、才能あふれる魔力持ちの母体から生まれるオークは、とてつもない脅威になりえる。

 ……それ以上に二人をそんな性質を持ち、獣欲を向けてくるオークのもとへ連れていきたくない。


「ルーグ様、心配してくださってありがとうございます。でも、大丈夫です。私は負けませんから」

「そうだね。ルーグに私たちは鍛えてもらってるし、それに守ってくれるでしょ」


 こっちの気もしらないで。

 鈍重で、知能も碌にない。しかし、オークの筋力と生命力と底知れぬ体力は脅威だ。

 十分に事故は起こりえる。


「君が何を言おうと、命令は絶対だ。君らはこの国の貴族であろう。ならば、この国に尽くせ。……君たちをフォローするため、学園からは私が、騎士団から彼女が同行する」

「挨拶が遅れて申し訳ないわ。私はレイチェル・バートン。ここの一期生なの。君たちのことは私が守るから安心して」


 レイチェル・バートン、その名を聞いたことがある。

 この学園の一期生であり、首席卒業をした生徒だ。

 俺たちは一人ひとり、彼女に挨拶をする。


「今年は十年に一人の逸材が何人も現れた、とんでもない年と聞いて楽しみにしていたの。君たちの活躍を見るのが楽しみだわ」

「期待に応える働きをするよう心がけます」


 抵抗はやめて、そう返事をする。

 どんな理屈をつけても、断れはしないという諦めだ。


「僕とルーグがいれば無敵、そこに勇者までいるのですから、オークごときものの数ではありません」


 ノイシュはそうは言うが、俺は不安が隠しきれなかった。

 口には出さないが、オーク以上に怖いものがある。


 エポナの暴発だ。

 最初の模擬戦以外にも何度か戦った。

 ……エポナは熱くなってくると俺でなければ間違いなく死んでいたレベルの攻撃を行ってくる。

 すぐに回りが見えなくなるのは最大の弱点。


 模擬戦ですらそうなのだ。オークの群れとの戦いでは、模擬戦の何倍も熱くなるし、余裕がなくなる。

 そうなれば、災害級の力で暴れ、巻き散らかされる余波で、どんな大惨事が起こるかわかったものじゃない。

 そのエポナがこちらを見ている。


「僕、がんばるよ。ルーグのおかげで最近自信がでてきたし!」


 だから、怖いんだという言葉を押し込める。

 ……オーク以上にエポナを警戒しておこう。


「話は以上だ。出発は三時間後。それまでに荷造りと装備を整えて、広場にある騎士団馬車に集合だ。これは軍主導の作戦故に、制服の着用を義務付ける。全員、退席せよ」


 それ以上は何をいうことはないとばかりに背中を向けられた。

 初めての軍事行動が、こんなにも早くなるなんて思っていなかった。

 廊下に出るなり、それぞれの準備をするために別れた。

 エポナは張り切っており、ノイシュは仮面のような笑顔を貼り付けていた。

 ここに残ったタルトとディアに向かって声をかける。


「二人とも、生き残るために絶対に守らないといけないことを伝える。教官や軍の人間の前では話せないことだ。一度しか言わないからよく聞いてくれ」


 俺の真剣な様子に感化されて、二人が固い表情で頷く。


「一つ、俺から離れるな。敵を深追いせず傍にいろ。いいか、乱戦では万が一がある。死角からオークの一撃をもらえば、魔力で強化していても意識が刈り取られる。あいつらは本能的に、雌を無力化して持ち帰ることを最優先にする。一体がメスを連れ去ったら、仲間が肉の壁を作って援護する。そうなったら絶望的だ。俺は二人が傍に居る限り、必ず死角を潰し続ける」

「はっ、はい。ぜったい離れません」

「うん、私も注意するよ。ルーグと離れ離れなんて嫌だもん」

「二つ、俺の命令を何より優先しろ。教官の命令や、あのレイチェルという騎士、それらの命令と俺の命令が食い違った場合、迷わず俺に従え」

「そんなの言われるまでもありません。私はルーグ様の専属使用人です」


 それは、この学園の騎士としては失格だが、俺の専属使用人としては満点の答え。


「タルトみたいに、かっこいいこと言えないけど、私もそのつもりだよ」

「最後だ。最大の危険はエポナだ。エポナの戦いの余波はオークの数倍危険だ。絶対に気を抜くな……死ぬぞ」


 この三つの約束を二人が守っている限り、フォローできる。

 これだけ言えば、二人とも大丈夫だろう。

 それにしても、学園に入ったばかりの俺たちを使うとは、よほど人手不足らしい。

 本当に戦える上級生すべてが出払うぐらいに追い詰められているのだろうか?


 ……あるいは、すべては口実で勇者の性能実験かもしれない。

 何にしても、やれることを全力でやろう。

 それに、エポナの全力。それを見られる機会が必要ではあったのだ。

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