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第97話




 神楽が天使。

 その事を知っているのは、王牙を除けば神威と炎尚のみである。

 と言っても、ただの天使ではないのだが……


「……で、その天使様だと何か問題があるのか?」


「お前なぁ…………本当に知らんのか?」


 クックの言葉で、更に王牙が不思議そうな表情を浮かべる。

 それを見て、クックが大きく溜息を吐いた。


「本当なら、地上に残っている天使は聖王国に3人しかおらんのだ」


「神の代行者って奴か?」


 王牙の言葉に、クックが首を横に振った。

 そして、紅茶のカップを手に取る。


「大昔の大昔、エルフですら忘れるような大昔、この世界である大戦争が起こった」


 そうクックが話したのは、この異世界に伝わる昔話だった。





 遥か大昔、一人の女神が、世界を創った。

 そして、そこに住まう生き物と人々を創り、世界の管理を行う神々を創った。

 創られた当初、神は世界の管理を真面目に行い、人々はそんな神に感謝しながら生活していた。

 そんな平和な生活が続いていたある日、一柱の神がある事を考えた。


 この世で一番偉いのは、世界を創った女神ではなく、神々を管理している自分ではないか?


 その神は、地上にいた人々を唆し、その人々に支配欲を植え付けた。

 やがて、地上では争いが絶えなくなり、その神はじわりじわりと勢力を伸ばして行った。

 そしてある時、女神に対して一方的に攻撃を開始した。


 他の神々を封印してその力を奪い、その奪った力で地上に魔獣を創り出し、地上へと放った。

 女神や他の神々の力の源は、人々の祈りである。

 魔獣はそんな人々を狙って襲い続けた。

 それに対して、人々を襲い続ける魔獣を倒すべく、女神は天使や龍を創り出し、地上へと送り出した。

 当初は神の方が優勢だったが、徐々に女神が押し返していった。


 天使や龍に協力する人々が現れ始めた為だ。


 その人々は英雄と呼ばれ、協力して魔獣を討伐していった。


 やがて、神は追い詰められたが、最後の悪足掻きを行った。

 奪い取った力を自身の中で爆発させ、世界を巻き込んで自爆しようとした。


 しかし、そんな神の悪足掻きは、一人の男神によって阻止された。


 その男神は、女神と違って何かを創る事は出来なかった。

 だが、逆にどんな物であっても壊す(・・)事が出来た。


 それにより、その神は全身を破壊され、その魂と力を女神によって引き抜かれた。


 破壊で残った神の躯は、世界中の地下深くに埋められた。


 神によって創り出された魔獣は、そのまま人々の糧となる為、残された。

 そして、その躯と魔獣の監視の為に、一部の天使と龍は地上へと残された。


 この争いによって疲弊した地上は、ゆっくりと癒されていくだろう。

 だが、この争いを努々(ゆめゆめ)忘れる事(なか)れ。




「……とまぁ、言ってしまえば、天使ってのは女神様に従ってる唯一種だな」


 そう言って、クックが冷めた紅茶を飲む。 

 唯一種と言うのは、亜種や突然変異種と言った類似した種族が一切存在しない特殊な種の事である。

 個としての強さは異常で、病気に対しても完璧に近い免疫を持っている為、寿命以外で死ぬ事はまず無い。

 現在、唯一種として認められている種族は少なく、片手で数える程しかいない。


 そして、王牙にとって初めて知る事実がいくつかあった。

 まず、女神や神々が実在する事。

 そして、天使が実在し、それを創ったのが女神である事。

 更に、魔獣も神が創り出し、神同士の戦争に使われていた生物兵器だった事。


「なる程な……まぁ安心してくれ、神楽は天使じゃない(・・・・・・)


「本当じゃろうな?」


「本当だっての、そう見える装具を使ってただけだ」


 王牙の言葉に、クックが半ば安堵したような表情を浮かべた。

 もし、ここで天使であると言われていれば、聖王国に対して事実確認をしなければならないのだ。

 『サガナにいる冒険者の男に仕えているメイドが天使だが、事実であるか?』など、聞くに聞けない事である。

 そもそも、クックが随分と前に王牙の身辺調査を秘密裏に行わせた際、何も判明しなかった。

 王牙が聖王国出身で、教会でも天使が仕える程の上位の存在であれば納得も出来るが、そうなると目的が判らない。

 サガナの冒険者ギルドに登録した後、色々と引っ掻き回したが、最近ではそれも収まり、模範的な冒険者になっている。

 他のギルドでも色々とやっているらしいが、別に大問題と言う訳ではない。


「それなら良いんじゃが………本当にお前さん達は訳が判らんのぅ……」


 炎尚がカラになったカップに、新しい紅茶を注ぐと、ドアがノックされた。

 一礼して、炎尚がドアを少し開け、一言二言何かを話す。

 そして、しばらく考えた後、王牙の元へと戻って来た。


「……神楽が何かを感じ取ったようです……」


「………詳しくは?」


「ゆっくりとですが、このままですと明日の昼には此方に……」


 王牙が炎尚に耳打ちされ、目の前のクックを見た。

 神楽が感じ取った正体が何なのかは判らないが、来客中であるのに伝えて来るというのは、緊急事態という事である。

 そして、現在までの状況を考える。

 スタンピードモドキに暗殺騒ぎ。


 これがもしも前座に過ぎなかったら?


 クックは領主とも面識があり、ギルドマスターでもある為、簡単な手続きで謁見も出来る。

 これまでの騒ぎが、王牙の危惧する通り前座であった場合、本格的なナニカ(・・・)がこれから起こる。

 だが、これは神楽の勘に近い事であり、外れる可能性も無い訳ではない。

 しかし、もし本当に何かが起きた場合、今のサガナにはそれを跳ね除ける力は、残念ながら殆ど残されていない。

 グルグルと思考が巡るが、王牙は一つ溜息を吐いた。


「…………領主と話は出来るか?」


「何じゃ急に……謁見の手続きは出来んことは無いが……今の状況じゃと相当待つ事になるぞ?」


 王牙の言葉にクックが考えつつも答えた。

 現在のサガナは復興作業が始まったばかりの為、領主への仕事量も膨大な量になっている筈である。

 そんな状況で謁見の手続きをしても、一週間待ちはザラだろう。


「いや、クックの力を見込んで、直ぐに繋いで貰いたい。 結構大事な話がある」


 王牙の言葉と、真剣な表情を見て、クックが身を正す。

 それだけ、今の王牙には迫力があった。


「……一応聞いとくぞ、何故『直ぐ』なんじゃ?」


「多分だが、まだこの騒動は終わっちゃいない。 寧ろ、これからもっと酷い事が起こる可能性がある」


 その言葉で、クックの表情が険しくなる。

 現状のサガナは、正しく崖っぷちに立っている状態だ。

 そんな状況で、もっと酷い事が起こればサガナは今度こそ壊滅してしまう。


「……何とか出来るのか?」


「協力してくれればな」


 クックは暫し考えた後、ゆっくりと頷いた。

 そして、クックの乗って来た馬車に乗り、王牙は神楽を連れて領主邸へと向かう事になった。




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